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399話 またまた婚礼調度

ども、坊丸です。

いやはや、岐阜城下は千畳敷に作られた表御殿にて初めての勤務を終えた坊丸です。

あ、まだ正式には終わってないですが。大広間での挨拶が終わって、奥御殿にはけてきたので後は奇妙丸様にご挨拶して、帰宅の段取りになるはずです。


「「「「奇妙丸様、お疲れ様でした」」」」


「うむ。四名とも本日はご苦労。下がって休むが良い」


「との、奇妙丸様からのお言葉です。明日は、虎丸殿と牛助殿が出仕の当番になりますので、辰の刻後半には御殿に参られますよう」


お、自分は明日出仕しなくて良い感じですね。よし、お桂殿から明日の勤務発表もありましたし、後は帰宅ですな。


「「「「はっ」」」」


四人で平伏してご挨拶の後、部屋を後にしようとした時でした。


「坊丸殿は、まだおられまするか?お市の方様ごお呼びです。おられれば、共に参られますよう」


うげっ!せっかく勤務終了と思ったのに、別枠からの呼び出しかよ〜。


「坊丸殿、お市の方様がお呼びとのこと。先程の女中についていきなさい。他のものは本日はここまで。虎丸殿、牛助殿。明日は遅れるようなことはありませぬように。では、奇妙丸様。奥御殿に」


くっ。みんな、オフタイムに移行するのに、自分だけ追加業務発生で勤務時間の延長だとぉ〜。泣ける。シンプルに泣ける。

こうして、奇妙丸様の小姓衆、他の三人が平伏後に、廊下を雑談しながら帰宅するのとは対照的に、奇妙丸様とは別室の奥御殿にご案内と言う名で連行されてしまう、俺氏。


「お市の方様、坊丸殿をお連れいたしました」


「ご苦労」


「お市の方様が、お召しとのことで、津田坊丸、参上仕りました」


女中さんが襖を開けると、そこには先程の打掛を脱いで小袖姿のお市の方様がおられました。先程は打掛を纏っていたので分かりづらかったのですが、肩、襟、裾に雲形の紋様がある華やかさと上品さを両立した小袖。そして、少し強めの紅を引いてくっきりした化粧のお顔。


「お市の方様、先程の広間での婚儀のご発表、おめでとうございまする」


ふっ。何か言われる前にとりあえず、婚儀についてのご挨拶。坊丸の姿形になり、戦国時代にも馴染んできたからね。これくらいはできるようになりました。


「祝いの言葉、ありがたくちょうだいいたしますね、坊丸。五徳の輿入れ前に、そなたが、私の婚儀が京や近江の方とそのうちに纏まるというようなことを言われた時は、私を慰めるために法螺でも吹いたか、それとも場を和ますためにふざけているのかと思っておりましたが、まさか、本当のことになりましたね…」


ハッハッハ。浅井長政とお市の方様の結婚は史実の方で知っていたからね、自分。いつになるかまでは正確にはわからんかったけど、ね。


「あのときは、大変申し訳ございませんでした。周囲大名小名の勢いや領地の事を鑑みての、それがしの拙い読みでございました。この坊丸もあの時話したことに近いことが現実となるとは、夢にも思っておりませんでした」


「おやおや、夢にも思っていないとなると、その場合は私の婚期が大変なことになりますね」


「あ、いや、そういうわけでは…」


「ふふふ。少しからかっただけですよ。坊丸」


そう言うと小袖を口元に当てて上品に笑うお市の方様。やれやれ、上げ足を取るようなからかい方されると、肝が冷えますよ。


「さて、本題です。坊丸。投扇興と坊丸歌留多、源平挟み碁を二組、作ってもらえますか?」


「ふ、二組?ですか?」


「そのように驚くとは。なにも二組共に婚礼調度として持っていくのではありません。一組は婚礼調度として持ち込むので急ぎで仕上げてください。十月十日ほどまでに。もう一組はゆっくり蒔絵などを施して仕上げてください。そして、後で先のものと差し替えるのです。そうですね。文様は織田の家紋、織田木瓜を散らす感じで。こたびは、織田の威信をかけます。支払いは織田家が持ちますし、織田家出入りの細工師達も使ってもらって構いませぬ」


「つかぬことをお聞きいたしますが、差し替えた最初のものはどういたしましょうか?」


「ん?それは織田に戻るので、奇妙やそなたが持っていれば良いでしょう。奇妙やそなたが奥を迎えた時にでも与えれば良いではないですか」


ん?二組作って、差し替え。差し替えた品々は自分の懐に入れても良いと。しかも、それを織田の金と技術でやって良いと!

つまり、織田家公認!今までの坊丸工房みたいな感じで頑張って試作したものを献上品にしていたのとは異なり、今回は公共事業的な感じ!


「で、では、差し替えた品は坊丸に預けると一筆お願い致します。一組は期日厳守で織田家家紋を散りばめる感じで。もう一組は、品質重視で蒔絵や華麗な色彩になるよう仕上げ、後日、浅井家の城にお届けするということで」


「ええ、そのように、手配をお願いいたしますね、坊丸」


「ハハッ。お市の方様に婚礼にふさわしい品をこの坊丸、誂えてご覧にいれまする」


そう言って深く平伏しながら、算盤勘定をしてしまう坊丸君なのでした。

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