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390話 稲葉山城攻め 八の段

永禄十年八月十一日、稲葉山城城下を織田信長と西美濃三人衆が物見と称して駆け回った。

当然、稲葉山城の守備を担う将兵からはその様子が見て取れる。

彼らからすれば、城を救ってくれる後詰めとして期待していた西美濃三人衆が信長達とともに歩む姿をみたことになる。


そして、その知らせはすぐに斎藤龍興ら斎藤家首脳陣に届く。


「殿。城の周りを織田の母衣衆どもが走り回っております。そして、その中に氏家殿、稲葉殿、安藤殿の旗印が混じっているとの報告にございます。また、氏家直元殿本人や信長本人、斎藤利治様の姿があったとの報告もございます」


「何!大叔父貴よ、どういうことだ。西美濃三人衆には救援や後詰の依頼をだしたのであろう!」


「西美濃三人衆からは返事がありませんでした。織田に捕まったか井の口が焼かれているために戻れぬものと思っておりましたが…。西美濃三人衆が裏切ったのであれば、奴らのもとにたどり着いた使者たちは既に殺されたやもしれませぬ」


「なっ!それは真か」


「推察に過ぎませぬが、氏家直元殿の顔を知る我が手の者からは間違いなく、信長や新五の側に氏家殿がおり、まるで談笑しているようだったと聞き及んでおりまする」


「西美濃三人衆が後詰に来ず、織田に降ったのであれば、西美濃三人衆と我らで織田を挟撃する策はならんではないか!」


「残念ながらそうなりまする。遠山党や武田家の援軍が数日のうちに現れねば、我らは城を枕に討ち死にするしかありますまい」


「くっ!信長の奴め!それに、裏切り者の西美濃三人衆!許さぬ!許さぬぞ!」


そう言うと、軍扇を床に叩きつける斎藤龍興。長井道利はただ黙るしかない。


「殿、ご安心くだされ。西美濃三人衆が裏切ったとはいえ、稲葉山城は堅城。すぐに落ちるものではございませぬ。われら日根野兄弟が打って出て敵を蹴散らしてご覧に入れます」


「おお、弘就、盛就!そなたらが頼りだ!」


そんな遣り取りを長井道利の後ろで聞く竹中重治は、ただ小さくため息をついた。彼からすれば、西美濃三人衆が織田方に降ったということは、既にこの戦負けが決まったようなものだからだ。

既に彼の脳髄は如何に城から脱出に向けた道筋を探っていた。


同日 午の刻、信長と西美濃三人衆、織田の諸将は本陣に戻った。


「殿、無事にお戻り、何よりにござりまする」


「おお、秀隆。今戻った。稲葉山城の様子を見ながら新五や西美濃三人衆から直に話を聞けたのは良い収穫であった」


「それは何よりにござりました。しかし、殿。やはり御自ら最前線で物見など、そろそろ控えてくだされ。若かりし頃の、吉法師。うつけの三郎の頃とは違いまする。万に一つ、落鳳坡での龐子元や今川義忠のごとく流れ矢にやられでもしたら、事にごさりますれば」


「まぁ、そう言うな、秀隆。しっかし、言い方が平手の爺にそっくりだぞ」


そう言うと、ニヤニヤと笑う信長。そして,眉をしかめ少し嫌そうな顔をする河尻秀隆。二人共、若い頃、池田恒興とあわせて三人で平手政秀に怒られた日々を思い出したのだろう。


「それはそうと、儂や新五、西美濃三人衆への視線を強く感じたぞ。目の良いものが見れば、西美濃三人衆は織田についたと分かるであろうな。ここから先、稲葉山城の者共の士気がどこまで下がるか、見ものよな」


そう言うと、かっかと呵い、床几に座る信長。

それを合図に柴田勝家、丹羽長秀、河尻秀隆、斎藤利治の四人が信長の左手に、木下秀吉、氏家直元、稲葉良通、安藤守就が右手に座った。


「さて、明日よりは力攻めを行う。と言っても、敵に後詰は無い。焦って攻める必要はない故、真綿で首を絞めるが如く、じわりじわりと攻め落として行けば良い。

新五、そなたの父にして我が義父道三の恨みを晴らすは今ぞ!義龍にされた仕打ちを思い出し、龍興に仕返ししてやれ。攻め手の先手を任す。西美濃三人衆は新五の補佐。稲葉山城の勝手は知っておろう。戦功を挙げる機会をくれてやる。励め!」


「「「「ははっ」」」」


「勝家、長秀。山の麓を固めよ。逃げる者は討ち取れ。打って出てきた者共は追い返すか、討ち取るかせよ。決して逃がすな。秀隆は、佐久間信盛、盛次と連携し山から逃げる者を見張れ。馬廻衆を使っていい、山の上に陣を構える両名とつなぎをとれ。城の北も見張れ」


「「「はっ」」」


「秀吉、昨日連れておったのは川並衆よな?」


「はっ。川並衆の蜂須賀小六と前野兄弟にございます」


「で、あるか。ならば、川並衆を使って長良川を使って逃げる者を見張れ。川に水を汲みに来た者も殺せ。良いな」


「承りましてござりまする」


「よぉ〜し。これにて、仕込みは終いじゃ。明日からの数日にて長らく続いた斎藤家との戦にケリをつけるぞ。皆のもの、気張れよ!」


「「「「「「「「はっ」」」」」」」」


永禄十年八月。

美濃を、稲葉山城を巡る戦いはまさに最終局面を迎えていた。


流れ矢といえば落鳳坡の龐統。そして、この時代より百年ほど前、今川義元の祖父、今川義忠も遠江攻めの時に流れ矢で死んでいます。ゆうきまさみ先生の「新九郎奔る」の中に出てくる今川義忠がなかなかいいキャラだったので、名前を出しました。しかもその後、今川では家督争いが起こって大変だったのでわけなので、この時代の人達も戒めに使うくらいはあるんじゃないかなぁ、という予想です。


本陣に佐久間盛次、信盛が居ませんが、仕事してます。佐久間盛次は上加納山あたりで材木の切り出しと信長本陣への運搬をしながら包囲の一部を形成するように陣を敷いています。信盛はちょっと遠いので稲葉山城を包囲するように岩戸山から鷹巣山に陣を敷いて、特に指示来ないなぁ、と思いながら包囲を維持しています。

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