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39話 沢庵と一休、あるいは架空のだれかさん

ども、坊丸です。沢彦禅師にたくわん漬けあらためたくげん漬けの名前の由来になってもらいに来ましたが、なかなかどうして、沢彦禅師のプレッシャーに敗けそうです。


「ふむ、この漬物に拙僧の名を勝手につけたと!仔細を承りましょうか?」

あ、沢彦禅師のオーラが微妙に変化しました!お怒りですか?でも、顔はめっちゃ笑顔です。笑顔が逆に怖いやつです。


「では、仔細は坊丸より」

親父殿、丸投げですか!怒ってるかもしれない、沢彦禅師の前で、こちらに丸投げですか!


「は、こちらの漬物は、とある旅の僧より教わった漬物です。とりあえず、一口召し上がっていただきたく」


「それもそうですな、では、宗尋、柴田殿、坊丸殿からいただいた漬物だ、こちらを庫裏にて切ってまいるがよい。柴田殿、坊丸殿も召し上がられるだろうから、三名分しつらえてきなさい」


「承りました」

沢彦禅師の後ろに控えていた先ほどの若い侍僧がたくげん漬けをうやうやしくいただき、持っていきました。


「では、話の続きを」


「はい、先ほど申し上げた様に、過日、とある旅の僧より、丸干しの大根のぬか漬けの話を聞きました。その僧侶が若かりし頃、庫裏で漬物の当番をしていた時、たまたま、ぬか漬けをつけたたときに、ほかの野菜とともにしなびた大根もあったため、何となくつけたのだそうです。庫裏の当番が変わり、数か月したときに、再度漬物の当番が回ってきたとき、以前に自分が入れたしなびた大根がまだぬか床に残っていることを見つけたそうです。数か月前に自分がたまたまいれたしなびた大根は、しっかりぬか漬けになっており、やや黄色い大根のぬか漬けとなっていたとのこと。黄色いうえにさらに縮んでいた大根を見たその僧は捨ててしまおうかと考えたそうですが、食べ物を粗末にするのは御仏の教えに背くのでは、と考え、端を数切れ切って食べてみたそうです。そうすると、ほのかに甘く、ハリハリとした触感の独特の漬物ができていたのだと、申しておりました」


「ふむ、いくつか法螺が含まれているようだが、まぁまぁ、悪いものではなさそうじゃの」

沢彦禅師は穏やかな笑みのまま、それでいて眼は半眼にしてこちらを見ています。

このモードの沢彦禅師は、心の奥底を見透かしてくる感じで、すこし怖いんです。

ですが、今日は、たくげん漬けの名前の許可をいただかないといけません。ここは心を強く持って、微笑み返します。悟りの微笑には、心を無にして微笑返しだ!


「坊丸殿、お続けください」


「はい、その僧より、一切れいただいた漬物は、もっと黄色く、もっとしなびて、もっと甘かったのです。その味が忘れられなかったため、同じように作ってみたのですが、当家では、毎日ぬか床を料理番の女子が見ておりますれば、すこし漬かりがあまい時期に、黄色くなったと、渡された次第」


「坊丸殿は、どこでその僧にお会いになられたのかな?」


「柴田の親父殿にあずかられた後、柴田家にやってくる子供たちらと河原で石合戦をしたある日のこと、石がぶつかったところが痛くて、堤に植えられた木の下に座り込んでいた時です」


「また、すこし法螺のにおいがするが、まぁ、良い。して、その僧は、どこからきた?どこに向かった?」


「はい、また会えるかと聞いたとき、旅をしているので、無理だと言われました。行き先を尋ねた時、最初は、うろじよりむろじにむかっていて、ここで小僧にあったのはともに一時、一休みしただけだ、と言われました」


「ふむ、有漏路から 無漏路に帰る 一休み 雨降れば降れ 風吹けば吹け、か。その僧はたぶん大徳寺にゆかりのある僧侶だろうな」


「今のだけで、そんなことがわかるのですか?」と、不思議そうな顔で親父殿が沢彦禅師に聞きました。


「ふむ、柴田殿は今の句、知らぬか。臨済宗大徳寺派の名僧、一休禅師が、師である華叟禅師からだされた公案をとき、大悟したときの句ぞ」


「不勉強にて、存じません…」


「まあ、良い。同じ臨済宗とはいえ他派の拙僧でも知っているような名僧の言葉、ということだけ分かれば宜しかろう。その句を本歌取りしたような事を言ったと言うことは、その僧はたぶん大徳寺にゆかりの者だろうということになる」


「はあ、そういうことでしたか」納得したような感じの柴田の親父殿。


ごめんなさい、全て自分が知ってることを上手くつなげて、話を作っているだけなんだ。

そんな旅の僧侶はいないんだ。


「お師匠様、干し大根のぬか漬け、切ってお持ちしました。柴田様、坊丸様の分もお持ちしました」


お、宗尋さん、ナイスタイミング。たくあん漬け改め、たくげん漬けにするため、たくあん食べながら、沢彦禅師の説得、頑張るぞ。

短くてすみません。

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