376話 五徳姫様の輿入れ 婚礼調度 伍の段
ども、坊丸です。
どうにか今回も降ってわいた無理難題をこなした坊丸です。
はい、そんなわけで、目の前には五徳姫様の婚礼調度のうち、坊丸くんが担当することになった三品が鎮座しております。
いや〜、今回もまた、なかなかに当初の目論見とは違う感じで仕上がっております。
あ、いや、投扇興と坊丸歌留多は少しブラッシュアップや婚礼調度として小変更された程度なんですがね。
さすがに一番最初に納入した投扇興は、蓋の裏に墓場やガシャドクロを描いてあるわけで。これをそのまま採用すると、婚礼調度としては不適切なわけですよ、ええ。
なので、蓋を倒した時の技名である「野分」に引っ掛けて、強風で山野の花が散っている様子に変更。
ここらへんはお妙さん、婆上様の婚礼調度についてのご意見を踏まえて、文荷斎さんと相談して仕様を変更しました。不吉なもん持ってくんな!って難癖つけられたくないしね。
坊丸歌留多は、ナイト、クイーン、キングに相当する絵柄を変更。
ナイトは、ガチの騎馬武者像に。わかりやすく言うと、かつて足利尊氏とされていた騎馬武者像を参考にしております。文荷斎さんには、足利尊氏公の騎馬に乗った絵画と言ったらわかっていただけましたよ。足利義詮公が父尊氏公を偲んで描かせた肖像画ですなって言ってました、文荷斎が。なんでも、肖像画の上に二代将軍の足利義詮公花押があるんだとか。
教科書には騎馬武者が拡大で掲載されてて、花押とか写ってないからそんな経緯で足利尊氏の肖像画と同定されていたとか知らんかった。あ、下手な現代知識は振りかざさずに素直に、そうそれ!って言っておきましたよ。
クイーンは、百人一首から身分高めの十二単の方々をチョイスして、最大公約数的な下絵を作り、お妙さんの妄想をプラスしたものが採用されております。親父殿や文荷斎さんはお市の方様やお犬の方様をそのまま描けば良いとかほざきくさっておりましたが。
キングは、閻魔大王坐像と天神様こと菅原道真公の肖像画をミックスした感じ。百人一首の貴公子達だと、ナイトの騎馬像に負けちゃうからね。絵柄的に順番が逆になっちゃうといけないので、キングを偉そうで威圧感のある感じに仕上げております。
はい、そして皆さん気になっていたであろう、オセ◯なんですが…
まず第一に名前が変わりました。「源平挟み碁」に。
「挟み碁」の部分はまぁいいとして。
「源平」が追加されてしまいました。
何故に「源平」かって?それは、紅白だから。ほら、平安末期の源平合戦で源氏は白い旗を平家は赤い旗を掲げて戦ったのになぞらえているそうです。
紅白歌合戦や野球とかの紅白戦もここから来ているのかな?
石が白と黒だと婚礼調度として華やかさにかけるって話があったじゃないですか。
なので、一応、作ったんですよ。半面が白で半面が赤のバージョンも。
そしたら、そっちのほうが好評でしてね。結局、紅白の石が正式採用になったわけです。
「紅白」と「白黒」だったら紅白のほうが縁起が良さそうって話もありましてね。
そんな流れができはじめたら、オセ◯の石は白と黒、そして盤の色は緑っていう自分の固定概念を無理に押し通すわけにもいかず…。
紅白の石を用いた挟んで遊ぶ囲碁のような陣取りに近いゲームってんで、「挟み碁」「源平碁」の二つが自然発生的な仮称として生まれてきたわけです。
どっちの名前にするかチーム坊丸プラスお妙さん桃花さんを加えて検討した結果、どっちも捨てがたいよねってなり、あわせて呼ぶのが正式名称になりました。ちと長い気もしますがね。
ちなみに、石は三河産蛤を薄く加工して、片面を銀朱を用いて赤く塗っております。
さっき紅白って言ったのに紅じゃなくて朱色かよ!っていうツッコミは禁止ですよ。
赤色系で劣化しない染料として銀朱を用いることになったわけですよ。銀朱は神社の鳥居とかに赤から朱色をつけるのに用いられるわけなので、まぁ、ご利益ありそうってことになったわけなんですよ。そして、実際に手配してくれた熱田神宮の千秋季重殿や津島神社、尾張三山の神職とそれらの社に関連する宮大工さんたちに感謝多謝。どこの神社も五徳姫様の婚礼調度に使うから融通してくれって頼んだらすぐに手配してくれました。やっぱり尾張織田と三河徳川の婚姻同盟に期待してるのかな?
盤面の方は、織田家出入りの商人の伝手で将棋盤を作っている職人さんにアプローチ。信長伯父さんて囲碁や将棋を好むから、実は榧の木製の高級品をいくつか持ってるらしいんですわ。
それらを作った職人さんに通常よりこぶりな将棋盤しかも八✕八マスの奴をお願いしたわけです。
文荷斎さんが職人さんのもとに赴いて、試作品を見せながら説得したらしい。で、さっきの宮大工さんたちに頼んで出来上がった挟み碁盤に飾りを彫り込んでいただいたわけですよ。
碁盤なのに、四聖獣が掘り込んであるし。四聖獣の周りにも亀甲紋や唐草紋、紗綾型紋、籠目紋などが、側面には「波に千鳥」や扇や牡丹、桜に藤、雪をいだいた松、梅や竹なんかの縁起の良さそうな物が散りばめられております。
四聖獣の持っている属性や季節なんかに合わせた吉祥文の配置だと、文荷斎さんが申しておりました。こういうのやらせると文荷斎の知識が渾身の輝きを見せるよね、ウンウン。
ていうか、ゲームの考案は自分てことになっとるけれども、実物を作るにあたってはほとんど文荷斎さんの手配だからね。ハッハッハッ。
さて、お伺いをたてて婚礼調度を納入に行きますか。
え、なになに。自分も頑張ったんだから、納入の現場に立ち会わせて欲しいって文荷斎さんが言ってるの?なぁんだ、織田家の姫様ズに会いたいから頑張ってたんですね、文荷斎さん。
はいはい、わかりましたよ。文荷斎さんにもご同行していてただきましょう!
足利尊氏像と言われていたものがいつの間にか騎馬武者像に変わる罠。
ちなみに京都国立博物館所蔵。e国宝のページで鑑賞可能。馬の躍動感、武者の表情などから評価の高い作品。
足利義詮の花押が騎馬武者の頭の上に書かれていることから、長らく父足利尊氏を描かせたものと言われ、松平定信編の「集古十種」にも尊氏像とされております。現在では高師直や高師詮の説が出ているそうです。
髻が切れていることや矢の一本が折れていることなどが見て取れます。
このことを踏まえて、筆者はこの騎馬武者像のモデルは「楠木正行」という説を提案します。親族や自分に近い人物をわざわざ髻が切れ、矢も尽きそうな敗色を伺わせる様に描かないのではないかという点と足利義詮が小楠公楠木正行の墓の隣に墓を作って欲しいといったという伝説からです。武者像の敗色を感じさせる様子は敵方である小楠公が討ち取られる前の様子を描いたとすれば納得がいくからですね。
まぁ、足利義詮が小楠公の隣に葬って欲しいって言ったのは伝説であり真実ではないという論もあるようですが。
四聖獣はみんな大好き「青龍」「朱雀」「玄武」「白虎」さん。
青竜:東、青、春
朱雀:南、赤(朱)、夏
白虎:西、白、秋
玄武:北、黒(玄)、冬
をご担当しております。
平安京平城京の内裏の南正門が朱雀門なのもここからですね。




