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370話 永禄十年 新年の儀 前段

ども、坊丸です。


昨日は、五徳姫様から頂いた最後の一粒の金平糖を死守しました。弟達から。

ま、そんな事があったのですが、あけて正月二日。


本年初登城です。そして新年の儀です。


で、本番。例年通り、信長伯父さん入場からの奇妙丸の入場です。そして奇妙丸様の周りには我ら奇妙丸様付きの小姓衆四名が居るのも例年通り。


ただし、今年は、なぜか五徳姫様も新年の挨拶に出席です。なので、五徳姫様の後ろ、小姓が控える位置にくノ一腰元の梅香さんが。まぁ、くノ一なんで実質護衛ですかね。そして五徳姫様たっての希望ということで、自分も五徳姫様の小姓役として参加。


ちなみに、本来自分がいるポジションには奇妙丸様の乳母役のお桂殿がいます。信長伯父さんの小姓衆が代理で入ってもいいんでしょうが、まぁ、お桂殿は信長伯父さんにも気に入られているようですし。しかも、滝川一益殿の親族で武芸の心得もあるから護衛役としては申し分ない。いや、それどころか、自分よりも護衛役としては優秀な可能性も。うん、自分で言っていてちょっと悲しくなった。


信長伯父さんが着座し、奇妙丸様も大広間上座の袖からいつものように歩いていきます。

いつもなら、奇妙丸様の後ろを歩いているのに、それを広間の袖から見ているのがすこし不思議な感覚。さて、五徳姫様の番だな。


って、五徳姫様が小刻みに震えていらっしゃりますよ。まぁ、普段からこういう場に出るわけではないから緊張するよね。まぁ、自分も年一、二回しかこういった場面ないんだけどね。とりあえず、五徳姫様になにか声掛けしないとね。年長の従兄弟として、こういう場面の経験者として。


「姫様、いかがいたしました?」


「坊兄様。私、上手にできるでしょうか」


「姫様、大丈夫です。その昔にも同じようなことがありましたし、そのときの姫様はとてもお上手にこなしておられました。今回も、奇妙丸様の隣まで行って座るだけです。そして皆の挨拶を受けたら、また戻るだけですよ。大丈夫ですよ」


「梅香もそばにおります。姫様の大好きな坊丸様もそばにおります。数日前に練習した通りに行えばいいのです。大丈夫です」


お、梅香さん、ナイスタイミングでの声掛けだね。そう、こういうときは安心させるのが大切だよね。


「坊兄様。一度、手をぎゅっとにぎってくださいまし。そうすれば、五徳はきっと勇気がでます」


え?ちょっと、どうしよう。五徳姫様は許婚いるし、ここでそんなスキンシップありなのか?


困って、梅香さんの方を見たら、強く頷かれましたよ。あ、ここは黙っておくから手を握って安心させろ、そして速やかに移動&着座まで持っていけ!ってことですね。はい、了解しました。


「姫様。大丈夫です。きっとうまくできます。あなたならできます。アナタだからできます」


こういうのは真剣味が大切ですからね。ぎゅっと手を握って、目線の高さを合わせて。そして、相手の目を見ながら、ほほえみながら応援メッセージを伝える。


「君ならできる!君だからできる!」ってね。いまでこそありふれた応援ワードだけど、転生前に聞いた話だと30年くらい前の洋ゲーの惹句らしい。最近は戦国時代に慣れてきたと思っていたけど、意外とこっちの時間線に来る前の変な記憶残ってるんだよね。


五徳姫様が頬を桜色に染めて、自分の手を握り返してきました。


「はい。坊兄様の応援のおかげでできる気がしてきました。頑張ります」


お互い握った手をはなすと、五徳姫様は深く息を吐きました。吐き切ったあと、今までの不安そうな顔はその姿を消し、凛とした顔に様変わりしておりました。うん、さすがは、織田の壱の姫。スイッチが入ると本当に様になるね。

何故か、梅香さんからジト目で見られましたが。手を握って応援しろって雰囲気で言っていたじゃん。

とりあえず、五徳姫様も問題なく上座に出座したので、梅香さんから視線は無視して小姓役としてのお仕事を果たしましょう。さ、五徳姫様と梅香さんの後から自分も歩いていこうっと。


そして五徳姫様の着座の後、信長伯父さんの新年の挨拶から始まります。


「新年にあたり、皆々の顔を見ることができ、(つつが)無く新年を迎えられたこと、誠に目出度い」


うん、いつものごとくシンプル。これぞ、信長伯父さんスタイル。


「新年にあたり、殿のご尊顔を拝することができ、誠に嬉しく存じ上げたてつかまつりまする。家臣一同を代表し、ご挨拶させていただきまする。明けましておめでとうございまする」


重臣筆頭の森可成殿がそう言うと、一斉に明けましておめでとうございますの発声です。うん、いつものごとく。これぞ、様式美。


「皆の挨拶を受けられ、誠に目出度い。

 昨年の夏、斎藤家の逆心により義秋様の上洛のお手伝いに参上すること叶わず、さらには多くの兵を川の中にて失ったことは痛恨の極みである。が、これで斎藤家を討つ名目が一つ増えた。今までは、義父斎藤道三の国譲り状のもと、我が妻帰蝶、義弟斎藤利治を美濃の主とするという名目であったが、昨年夏の名乗りにて我らは義秋様の陣営、きやつらは義栄陣営と敵対する陣営とあいなった。ゆえに義秋様の敵、斎藤龍興を必ずや討ち果たす。皆のもの、齋藤討伐の戦に備えおくが良い。

 それと、ここにいる五徳が九つとなった。かねてよりの徳川家との約束により本年中に家康殿の嫡男竹千代との婚儀を行う。佐久間信盛、林の爺は婚儀のこと恙無く行えるようあい務めよ」


「はは」「承りましてございます」


それをうけて、五徳姫様が恭しく一礼。


「佐久間殿、林殿。よしなにお頼み申します」


あ、この婚礼のお話がでるから今年は五徳姫様がここに呼ばれたのね。そして、緊張していたのね。今更わかったよ。

って、その状況でお嫁に行く予定の人の手を握ってじっと目を見つめるって、かなりアウトじゃねぇかよ!

「君ならできる!君だからできる!」の初出はどこかは不明ですが、1996年発売のプレイステーションソフト『スターワインダー』という3Dレースゲームとシューティングゲームを混ぜたような洋物移植ゲーのジャケット裏面には既にその言葉があります。自分としてはこれがメディアにのるようなものの初出だと思っております。

もし、それ以前にmassにのる、人口に膾炙するような事例があった場合は教えていただけると幸いです。


五徳姫が岡崎に輿入れしたのは永禄十年五月二十七日とされます。そして、松平信康が元服して信康の名乗りになるのが同年七月と言われます。なので、永禄十年の正月の段階では幼名の「竹千代」が正解です。

ちなみに「徳川」の名乗りは、永禄九年の末頃、朝廷より「藤原姓」と認定され「従五位下三河守」の叙位任官にあわせておこなわれておりますので、永禄十年正月段階では「松平家」ではなく「徳川家」が正解です。


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