357話 三好長逸、動く
花粉症はなかなか辛い。書く気力が起きません。どうにか書きましたので、続きをどうぞ。
三好軍が逢坂の関を越えた翌日。
三好宗渭は兵をまとめて、高島城に戻ったが、三好長逸は少しの兵を率い京に残った。
京、三好長逸の屋敷。
三好宗渭と入れ替わる様に岩成友通が長逸の元にやってきた
「長逸殿、無沙汰しております。して、首尾は?」
「友通、訪問、ご苦労であるな。奴らがほうぼうに書状を送っておることは知っておったが、その書状をそっくりいただいて来た。屋敷の下男に化けた伊賀者も残してある。これで矢島御所の奴らの動きは筒抜けよ」
「上首尾にございますな。で、矢島御所の奴らはどのように動く様子でござまするか?」
「一通り、書状に目を通したが、各地の戦を停める様に動いている。具体的には六角と京極浅井、美濃斎藤と尾張織田、東国の上杉や北条などだな。争う大名家を仲裁し、覚慶の名声を高める。その結果として支持と支援を得るつもりだろうよ。そのうえで、上洛への支援と派兵を求めている様だな」
「一乗院覚慶様は今は還俗し、足利義秋と名乗っているかと」
「あぁ、そうだったな。だが、還俗したばかりで義秋にそんな知恵はあるまい。多分、三淵藤英、細川藤孝の兄弟が考えた絵図であろうな。書状を読む限り、足利義秋は越後上杉を頼りにしている様子。が、京と奈良しか知らぬ義秋の考えそうなことよ。
越後から上杉は兵を率いての上洛など夢のまた夢。将軍宣下の為の露払いとなれば、義輝様に挨拶に少数の兵を率いて上洛したのはわけが違う。
北条は停戦に合意し守るだろうが、武田信玄は例え将軍候補からの約束でも、必要とあらば無視して反故にする様な漢であるからな。背後が安心できねば如何に上杉とて動くことはできまい」
「では、足利義秋と矢島御所の連中は恐るるにたらず、ということですかな?」
岩成友通が顎を擦りながら三好長逸に尋ねる。
「ところが、そうも言っておられん様だ。六角が義秋についているからな。河内畠山は我らに敵対しているから義秋についているだけであろうし、今は我らが優勢で奴らは義秋支援には動けん。後は、尾張織田が兵を出すと言っておるようだな。
義秋のもとで兵を動かし上洛を支えるとすれば、壱に六角、弐に尾張織田、あとは若狭武田や京極浅井という事になりそうであるな」
「越前の朝倉は如何です?朝倉宗滴亡き後も越前で栄華を誇っているとか」
「嘘か真か知らんが越前には足利の末裔がおるらしい。鞍谷公方とかいったな。其の方がおるのであれば、二人の公方候補を抱え込むのは難儀だろうて。それに朝倉の書状を見るに支持はするが支援はあまり乗り気でないと見た」
そう言うといくつかの書状を岩成友通の方に投げてよこす三好長逸。
「どれ、見せていただきます」
書状を読む岩成友通のことは気にせず、庭の方を見ながら考える素振りの長逸。
「長逸殿の申される通りですな。これであれば、六角と織田を仲違いさせれば敵は半分で済みますな」
「それは、儂も考えた。じゃが、それだと南近江に義秋が居座る可能性が高い。それは、好ましくはない。友通。義継様の名で阿波の長治と篠原長房に使いを頼む。阿波にいる足利義栄様を動かす。儂も義栄様に将軍候補として畿内に動座いただくよう書状をしたためる」
「宜しいので?」
三好三人衆として三好長逸を永禄の変以降ちかくで見てきた岩成友通は、三好長逸がどうやら足利将軍家を神輿として担ぐつもりが無いことをなんとなく感じていた。
永禄の変の直後に三好長逸が自身で朝廷に参内し将軍弑逆について釈明を行うと、了解を得たうえでさらに金子を下賜されるなど、不思議なことに三好長逸は朝廷からそれなりに信頼されている。このため、あの三好長慶も亡く将軍不在という三好政権がなんとかやってこれた面があるのだ。
そして、三好長逸はどうやら三好長慶が足利義輝も細川管領家も京より追い出して天下の政務を担った時期が三好にとって最も良かったと思っている様子であること、現状はそれに近いことができており満足していることも岩成友通は肌で感じていた。
それ故に、その長逸が将軍家を担ぎだす事に違和感を感じたのだ。
「致し方あるまい。義秋が将軍候補として形を整えるのであれば、こちらも対抗馬を準備するしか無い」
ふぅ〜と溜息つく三好長逸。やはり本心では将軍候補を担ぐのをよく思っていないのが、岩成友通にも見て取れた。
「わかりました。長逸殿が納得しているのであれば、それがしに異存はございません」
「すまんな、友通。頼んだ」
「では、早速、義継様のもとに戻り、阿波に人を遣わします。しからば、ごめん」
岩成友通は三好家中の新参衆の取りまとめだけでなく、政務官としてもそれなりに優秀である。方針が決まれば善は急げとばかりにすぐに動き出す。
それを見送り、広間に一人となった長逸は自身の手に戻った書状を見ながら策を練る。
「ふむ。矢島御所の連中は、停戦を促してその兵を動かす事までは考えているか…。が、それでは与えられるのは名誉のみ。実利は与えてはいないな。まぁ、矢島御所にはまだ人も財も幕府としての形も何も無い。致し方無いか。
で、あれば、対策は一つ。義栄様のもと、義継様に管領になっていただく。伊勢貞助殿に政所の形を整えていただけば幕府としての形式は整う。まだありもしない幕府の役職を餌にして六角や斎藤を誑かすかのぉ。
そうよな、六角には六角定頼殿が就任したという管領代をちらつかせるか。美濃斎藤は…。確か斎藤龍興の父、義龍は一色の名乗りを認められたはず。一色といえば侍所よな。侍所所司でもちらつかせれば…。クックック。三淵、細川の兄弟に、年季の差を見せてやるかな」
歴史好きの皆さんなら、ご存知の室町幕府の三管領四職。
斯波、畠山、細川の三管領家と一色、赤松、山名、京極の侍所所司を務める四家をさします。
斎藤義龍は母が一色の血縁者だからという無茶な論理で自分も一色だと強弁し、多分それなりの献金工作などをして足利義輝から一色の名乗りを許され、一色の一門として幕府相伴衆に任
じられています。
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