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350話 永禄九年 新年の儀 前段

ども、坊丸です。


昨日は、加藤さん父子と弟達、お妙さん、桃花さんと新年の儀っぽいものをしました。

途中で桃花さんは柴田家新年の儀の後の宴の手伝いに呼ばれて行ってしまいましたが。

夜叉若くんと弟達も金平糖をひと粒だけ食べて後は懐紙に包んでおりました。夜叉若くんは伊都さんへのお土産にするのかな?

その後は坊丸歌留多ことトランプで少し遊んで加藤さん父子はご帰宅。夜叉若くんは、すぐにルールを覚えることができるので、結構地頭良さげな印象。自分が偉くなったら副官みたいな感じにできると、いいなぁ。

で、その後は自分も柴田の宴の方に呼ばれたのでお妙さんと顔を出しておきました。なんか、こう、微妙に忙しい正月一日です。


で、あけて正月二日。

本年初登城です。そして本物の新年の儀です。津田家や柴田家なんかの新年の儀の後も似非物って訳では無いのですが、やっぱり新年の儀って言うと信長、伯父さんがやる奴ってイメージ何だよね。


そして、奇妙丸様の小姓役もだいぶ板についてきましたし、師走の中旬に奇妙丸様や同僚三人と何回か立ち位置とか確認しましたから、まぁ、大丈夫でしょう。きっと、多分。


で、本番。例年通り、信長伯父さん入場からの奇妙丸の入場です。そして奇妙丸様の周りには我ら奇妙丸様付きの小姓衆四名が居るのも例年通り。

そして信長伯父さんの新年の挨拶から始まります。


「新年にあたり、皆々の顔を見ることができ、恙無(つつがな)新年を迎えられたこと、誠に目出度い」


うん、いつものごとくシンプル。

これぞ、信長伯父さんのスタイル。

まぁ、型のごとくの挨拶の応酬をしてから、新年の抱負や指示を語る流れですからね。ここは変わらんのですよ。


「新年にあたり、殿のご尊顔を拝することができ、誠に嬉しく存じ上げたてつかまつりまする。家臣一同を代表し、ご挨拶させていただきまする。明けましておめでとうございまする」


重臣筆頭の森可成殿がそう言うと、一斉に明けましておめでとうございますの発声です。

うん、様式美。


「皆の挨拶を受けられ、誠に目出度い。さて、昨年の正月は、犬山攻めの途中であったため、出陣中の諸将については挨拶を受けられなかった。新年の儀に参加が二年ぶりの者もおろう。だが、その者らの奮戦があってこそ、今年こうして皆の顔を見ることができたのだ。真に大儀である。

さて、昨年は犬山を落とし、猿啄を落した。猿啄城を落とすにあたり、長秀、秀隆の功は特筆すべきものがあった。そして加治田の佐藤忠能は、当家に馬を繋いだが、堂洞の岸一族は先見の明無く、我々の前に族滅となった。

加治田からの帰路に武田家遠山勢らが襲い来るとは思わんかったが、勝家、生駒の伯父上の奮戦にてこれも退けた。

関の長井道利がその後も加治田に手を出したが、我が義弟(おとうと)の斎藤新五郎利治、佐藤忠能、忠康父子の奮戦により逆に関から長井道利を追い落とすことが出来た。

この戦いにて佐藤忠康を失ったことは、真に残念なことである。利治と佐藤忠能の娘御を娶せ、加治田佐藤家と長良川の戦い以降斎藤利治利堯兄弟を頼ってきた斎藤家旧臣を一つとし、中美濃の抑えとする。

佐藤忠能よ、利治を後見してやってくれ。そして新五郎よ、忠能を義父(ちち)として敬い、そなたの父にして我が義父、斉藤道三殿の後継として彼の地にて我を支えよ」


「承りました」「義兄(あにうえ)の力となれるよう励みまする」


「うむ。加治田の地は今後の稲葉山攻めに重要な要地である。二人とも力を合わせて治めよ。また、森可成の中美濃での功も大きい。堂洞での戦の後、兼山湊、烏峰城を落としたこと誠に重畳。烏峰城城主を命じる。合わせて、肥田、久々利をそなたの寄騎につける。東美濃の遠山党、信濃の武田に備えよ。小口と烏峰の両方にて、美濃斎藤と遠山武田の両方に備えるのは流石にそなたといえども困難であろう。今年春の麦の収穫の後、処替えとし烏峰城城主専任にする。小口城には弟の信包を入れるぞ」


「承りましてございます」「小口城に城主の任、拝命いたします」


「殿、烏峰城城主になるにあたり、一つお願いがございます」


「可成、どのような願いじゃ、言うて見い」


「はっ。しからば。烏峰城の名前を変更したく。兼山湊に準じて、金山城と名を改めさせていただきたく存じます」


「うむ、烏峰城の改名のこと、特にさし許す。以後、烏峰城はそなたの名付けし名、金山城と呼ぶが良い」


「ありがたき幸せ」


「猿啄は河尻秀隆に任す。励め」


「ハッ。それがしも、猿啄を勝山と名を改めたく。お許しいただきたく」


「うむ、その改名についても許す。さて、本年の目標であるが、わが織田家は一乗院覚慶様の上洛のお手伝いを行う。既に知っているものもおろうが、昨年十一月、一乗院覚慶様の使者として和田惟政殿が火車輪城に参られた。和田殿の話では、足利家の当主として上洛して次の将軍を目指すということだ。織田家以外にも、南近江の六角、北近江の京極、美濃の斎藤、越前の朝倉も覚慶様の上洛に兵を出すと言う。いままで、美濃斎藤を討伐すべく邁進してきたが、覚慶様上洛がなるまでは覚慶様を支える同輩となることとなった故、斎藤を攻めること、断腸の思いではあるが、一時差し止める」


「っ!」「なッ!」

「斎藤家討伐よりも一乗院覚慶様の上洛を優先する殿の天下安寧に関する思い、承りましてございます」

「「「承りましてございます」」」


一瞬、驚きの声が上がるものの、森可成が大声で信長の意を了承したため、群臣もそれに習った。


「合わせて、甲斐武田とは婚礼がなった。津田掃部の働き、見事である。堂洞の戦では一時、敵となったが、甲斐武田と今後相争うことはなくなろう。が、相手は武田信玄。儂と長井道利を天秤にかけて来るような(やから)である。婚礼が相成ったとはいえ、気を許すことはできん。可成、肝に銘じておけ」


「ハッ。この森可成、美濃斎藤に対しては矛となり、甲斐武田に対しては盾となり、織田家のために尽くしまする」


「その言や、良し。皆も可成を鑑として励め」


「殿、甲斐武田について、一つご報告がございます」


「掃部、この場で言うということは、皆にも聞かせたいとのことなのだな。許す。申せ」


「ハッ。婚礼がまとまり、新年の儀に合わせて尾張に戻る前から、武田家嫡男の武田義信の姿が急に見えなくなりました。探りを入れましたが、皆、口が固く、詳細はわかりませんでしたが、どうやら今川家のことをめぐりになやらお家騒動があった様子。武田義信は甲府のどこぞの寺に幽閉されたとの噂でございます。未確認ではございますが、信玄公の次男は盲目のため、出家しておりますし、三男は幼くしてなくなっております。故に、殿の養女が嫁ぎし、四郎勝頼殿が嫡男となると思われます」


「で、あるか。ならば、信玄坊主もすこしは当方との盟を重んじるやもしれんな。掃部、重ね重ね、ご苦労。褒めてとらす」


「ハッ。ありがたき幸せ」


津田掃部助忠寛が久しぶりに褒められてますな。怒られて平伏するのではなく、褒められて頭を下げる姿は本当に久しぶりに見た。良かったねぇ。まぁ、城主に再任してもらうにはもうすこし功績がないと難しいかもしれないけど。


「信興と滝川一益は、海西郡の服部党の隙をついた攻撃見事。市江島、立田を奪い取ったこと、褒めてとらす。信興、それらが奪い返されぬよう城塞を築き治めよ。一益、その補佐を命ずる。励め」


「「ハハッ」」


お、美濃のほうにばかり目を向けてたけど、さすが滝川一益殿。ジワリジワリと伊勢方面への攻撃や調略を行っている様子。

服部党の隙を見てってことは、偉い人不在の時を見計らって攻め込んだのかな?で、信興叔父さんに手柄を譲ったと。そんなところでしょうか。

「永禄八年 永禄の変と武田家のこと」で記載した内容をどうにか折り込みました。

琵琶湖南岸に重臣をならべたこと、有力重臣に大きな権限と所領を与えて前線に領地変更していくシステムは実はもっと前から考えていたし、それに近いことをやっていたのではないかと考えました。このために、木曽川沿いに家老格を並べる描写をしたり、森可成を木曽川近くの小口城から武田への抑えの美濃金山城に領地変更したりという描写を入れました。

このため描写をしたいがために、史実にない小口城主を森可成にするという伏線をずっと前に張りました。やっと、使えたよ…。

ちなみに、信長が手に入れたあとの小口城城主は史実では不明です。なので、織田信包が城主に任じられたのも創作です。


「恙」は「病」の古語。また、「恙」は中国の伝説的君主「黄帝」に討たれた魔獣もしくは妖怪。獣も人も食い殺したという。殺されなかった者も病を得て死に至るという。

なお、日本にも飛鳥時代の頃、石見国に虫型の吸血妖怪がおり、これを「恙」と呼んだ。後に陰陽師に討伐されたという。

これらの故事を踏まえて血を吸い病をもたらすダニ類が日本ではいつしか「ツツガムシ」と呼ばれるようになったようです。そして「ツツガムシ病」は科学の力でリケッチア感染症と判明するわけです。


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