348話 永禄八年 大晦日
ども、坊丸です。
永禄八年も今日でおしまいです。今年も色々ありました。
今年の初めは犬山城攻め。前年の秋からの出陣に従軍した加藤清忠さんが体調を崩して死にそうになったのも大変でした。
犬山城城主に柴田の親父殿の義兄、佐久間盛次さんが任命されて佐久間家もその縁者の柴田家も大喜びでした。おかげで、理介達が柴田の屋敷に遊びに来る機会が減り、すこし寂しいやら、静かになってほっとしているやら。
なんせ、理介のやつ、一時期は柴田家の朝の武芸の修練にほぼ連日顔出してましたからね。しかもその後、朝飯まで食っていきやがるし。
奇妙丸様の武芸の訓練相手を良く勤めているんだからそれだけで満足すればいいのに。
こっちは、信長伯父さんから鉄砲騎馬隊の実用化なんていう面倒くさいご下命を受けて大変だったのに。鉄砲騎馬隊については滝川一益さんも巻き込んでしまったからねぇ。まぁ、滝川一益さんは信長伯父さんの鉄砲指南役を兼ねてるから正規のお仕事と言えばそうなんですが。
いつものチーム坊丸で鉄砲騎馬隊用の短銃身のライフル火縄銃を作ったり、河原で柴田の若衆、寄騎衆の教練したりといろいろありました。
堂洞合戦で鉄砲騎馬隊に実戦経験を積ませつつ、堂洞城落城翌日の追撃戦の被害減らせると良いよねって程度で小細工をしたら、なぜか柴田の親父殿が武田の秋山信友を討ち取ったらしいし。あれ?信友だっけ?虎繁だっけ?脳内の『信長公記』だと秋山信友って書いてあるから、ついついそっちに引っ張られるんだよねぇ。
それはさておき、今日は大晦日。年越しそばの文化はもっと後のものではありますが、柴田家ではもう普通のことになりつつあります。主に自分のせいで。
今年も、魚屋の三郎さんが天婦羅や唐揚げ用の魚介を準備してくれました。
まぁ、さすがに小牧山城中腹の柴田の屋敷には直接届けられないので、城下にある屋敷を取次にしてますが。
そして、今年は、なんといっても石田村より鶏が届けられております。
鶏を食べて良いっていう信長伯父さんからの免許は、本来、自分にだけ出されているんですがね。先日、堂洞合戦の祝勝会で鶏のから揚げをだしたら、もう、みんなハマっちゃって、ね。
なし崩し的に、坊丸君が鶏のから揚げを作る指示を出した時は周囲にいる人もなんとなくOKな感じになってます。良いのか?ほんとに?
まぁ、柴田の親父殿も次兵衛さんも文句言わないから良いみたいです。
で、今年は、せっかくだから「唐揚げ蕎麦」を作る予定。
あ、いつもの鯛の天婦羅や蛸から揚げも作りますよ。鶏から揚げだけ以外にも年末の年越し料理は坊丸君作のお料理を食べるのが当たり前になっているし。
若衆や中間、親父殿がみんなで餅つきしている時に、お滝さんと一緒に料理の相談をしている10歳児っておかしくない?あ、数えだと11歳で明日からは12歳になりますが。
はい、そんなわけで「唐揚げ蕎麦」です。
ちなみに皆さん知ってます?唐揚げ蕎麦。かけ蕎麦に唐揚げトッピングしたんでしょうって思ってます?はい、正解です。
でもね、自分としてはすこーしだけこだわりがあるんですよ。おもにこの時間線に来る前の記憶なんですがね。
茨城県北部の爺ちゃん婆ちゃんのところに、夏休みに一人で遊びに行ったことが何度かあるんですよ。そんな話を高校生の時、友人にしたら、その中の一人「立ち食い蕎麦マニア」に言われたんですよ。
「時間があるなら我孫子の立ち食い蕎麦『やよい軒』で唐揚げ蕎麦を食っていけ」ってね。
鈍行の常磐線で水戸の先までいくとなると、なかなかの長旅なんですよ。
文庫本を読みながら、ときどき車窓の田園風景をぼんやり見るような旅です。
一昔前の高校生ですからね、今の方々と違って時間はあるし、金はない。文庫本と青春18切符が旅のお供ですよ。一本遅らせて途中で腹ごしらえしてもいいかな、なんて思って食べたんです。我孫子駅の「唐揚げ蕎麦」。
カリッとした衣のから揚げが、ドドーンと乗ったかけ蕎麦です。
衣がめんつゆを吸うとまた良い味わいなんですよ。
はい、そういうわけで、お滝さんと一緒に作り上げました。
唐揚げ蕎麦。って言っても、お滝さんに柴田の親父殿や婆上様の手前、最初から蕎麦に乗せた状態で出すわけにはいかないって言われちゃいました。
なので、天婦羅も鶏から揚げも蛸から揚げも別皿てんこ盛りで出すから、自分で適当に上に乗せてくれって言われました。
大広間で親父殿の挨拶が終わったので、忘年会モードで大宴会開始です!
鯛の天婦羅と蛸のから揚げが大皿で出たので、どんぶりを手に準備万端ですよ!
「はーい、おまたせ!鶏のから揚げだよ!」
お滝さんがドンと大皿を置いたとたん、いままで数か所に分かれてで座になって呑んでた若衆・中間のひとがもの凄い勢いで皿に群がりました!
やっべ!何とか一つ確保したけど、もう、鶏のから揚げ、なくなっちまったよ!
オー!ノー!よし、台所に行って残ってないか確認だ。
「お滝さん、まだ唐揚げ残ってます?」
「さっきので全部だよ。なんだ、一つは手に持ってるじゃないか、良かったね、坊丸様」
「ちなみに、鶏肉は残ってます?今から追加で揚げてもらうというわけには…」
「残念だね、坊丸様。鶏肉も全部使いきっちまったよ。あきらめな。あたしゃ、正月料理を重箱に詰めたら、今日は帰るよ。正月は餅とこの正月料理で過ごしておくれよ。あ、蕎麦とそばつゆはまだ残ってるから、よかったら食べておくれよ。若い連中にも蕎麦の残り有ることを伝えてくれると嬉しいね」
そ、そんなぁ。頑張って年越し蕎麦の仕込みから頑張ったのにぃぃぃ。
ちなみに勝田駅にも「唐揚げ蕎麦」をだす立ち食い蕎麦屋さんがあるそうです。
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