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345話 堂洞合戦 戦後 其の四

ども、坊丸です。


佐々成政さんが柴田の親父殿を探してこっちに来ました。

いやいや、柴田の親父殿はすぐ見つかるでしょ。体も声もでかいし。

っていうか、成政さん、評定始まった時は、重臣一門扱いだったから、吉田次兵衛さんとか柴田勝定さんがいる一番前の列に座ってたはずだし。そこ、柴田の親父殿から一番近い場所だし。どうして親父殿のことを見失った?むしろ、どうやって見失うことができたた?そんなことを思っていると、成政さんが親父殿の側に着座。


「内蔵助殿、注ぎまするぞ」


成政さんに対して色々疑問や感想が心のなかに湧き出ているわけですが、成政さんが座ったとたん、成政さんの手に持った盃に酒を注ぎ始める玄久さん。

よく呑んで、よく注ぐ、よく食べて、よく笑う。そんな感じが玄久さんらしくて良いなぁ。


「おっ、すまんな。たしか、玄久だっか」


「はっ、お見知りおきありがたく存じます」


玄久さんが酒を注ぎながら、成政さんと会話しはじめましたが、柴田の親父殿が口を挟みましたよ。


「成政よ。そなた、ここに居て良いのか?先日の城での評定で、殿は関の長井道利の次の動きに備えて、加治田に斎藤利治殿を派遣すると言っておられた。斎藤殿は長良川の戦いの後、織田家に身を寄せたお方。故に家臣も少なく寄騎が居ないので、信長様直下の母衣衆や馬廻衆をつけるかとおもったのだが」


「俺は今回は外れるように殿から言われておるのですよ、義兄上。武田や遠山との戦いで功を上げたから他の者に譲れと。それとは別に森殿が久々利や兼山湊を攻めるらしいですぞ。そちらは森殿の兵と寄騎だけでやるようですが」


「ふうむ。加治田に加えて久々利や兼山湊を抑えれば、中美濃は関の長井道利勢だけになるな。森殿の武勇があれば肥田も討ち滅ぼすのは難しくあるまいしな」


「あ、いや。俺も詳しくは知らんが、蜂屋殿や金森殿を取次に肥田忠政は織田に降ってきたらしいですぞ。噂では久々利頼興も土田の生駒殿に取次を頼んだが、にべ無く断られたとのことですぞ。義兄上も見たと思うが、生駒殿は先の戦いで久々利勢や肥田勢を苛烈に攻め立てていましたからなぁ。そこらへんが関係あるのかもしれませぬ」


「中美濃の国人衆のなかでの力関係があるのであろうよ。肥田忠政はすぐに降るのを認めて、久々利頼興は認められないのか…」


いや、なんとなくですが、土田の生駒殿の意向では無いと思いますがね。久々利頼興は、兼山湊も押さえているでしょ?

信長伯父さんは、そういう水運や交通の要所は押さえておきたいのだと思いますが。

曽祖父(ひいじいちゃん)の信定さん、祖父(じいちゃん)の信秀さんが津島の港や熱田を押さえて、経済力を蓄えたから織田弾正忠家は飛躍できたわけで。

兼山湊は木曽川水系の大切な川港なんでしょ?信長伯父さん的に押さえたいに決まってるって。

だから、兼山湊を取るまで久々利家の降伏を認めない、認められないんだと思うよ。


「兼山湊は東美濃の出入り口、木曽川の大切な港にございます。遠山勢、武田勢を見張るには必須かと。信長様ならば、その価値をおわかりにならないはずがございません。ならばこそ、美濃に縁があり、筆頭家老の森様が攻め手に選ばれたのかと存じます」


うん、遠山、武田の押さえの意味もあるのか。さすが、文荷斎さんだね。


「あ?そんなこたぁ、わかっているよ。今、柴田の義兄上と話してんだよ。てか、お前、誰だ?」


うわぁ、成政さん、いきなり口が悪くなりましたよ。柴田の親父殿と話していたのを邪魔されたと思ってるのかな?

そして、文荷斎さんの笑顔が凍りついた上にコメカミがピクピクしてますが。大丈夫ですか?文荷斎さん?


「これこれは、申し遅れました。末森城城番、いわゆる末森衆が一人、柴田勝家様の寄騎を務めます中村文荷斎宗教(むねのり)と申します。以後、お見知り置きを」


「文荷斎は、儂が信行様の家老をしていた頃からの縁でな。もとは信行様の右筆を主に務めていた者だ。儂が末森城代、城主を務めるにあたりそのまま残ってもらって、城番と寄騎を務めもらっておる。末森での政務ではかなり力になってくれておる。次兵衛と並んで当家での治世の要よ」


「そうですか。文荷斎とやら。済まなかったな。佐々家当主、佐々内蔵助成政だ。知ってはいると思うが、信長様の母衣衆をしている」


一応、頭を下げる成政さん。礼儀もできるんだから、粗野なわけではないんだよね。文荷斎さん、治世の要だって。買われてるねぇ。ちなみに知性の方も家中トップクラスだと思いますが。


「それはそうと、義兄上。堂洞合戦では、撤退戦のおり、殿に口をきいてくれて、ありがたかった。母衣衆にもかかわらず、殿の側を離れたが、あれのおかげで怒られずに済んだし、むしろ、武田勢や遠山勢を相手の武功を殿に褒めていただけたぞ。礼を言う。誠にありがたし」


「いやいや、こちらこそ良かった。あれで、そなたが殿から大目玉でも食らってはたまらんからな。それにそなたの武は武田勢遠山勢にも十分通じていたしな。おかげで儂の負担が減ったわ」


柴田の親父殿の言葉を聞いて目を輝かせている成政さん。何?柴田の親父殿に懐いてるの、成政さんは?


「いつも、母衣衆として信長様身の回りの護衛や伝令、信長様の指示で敵に突っ込むことはあるが、今回、義兄上が兵を率いるのを見れたのは良かった。信長様の用兵も見てはいるはずだが、そのときは、信長様の指示をこなすことに精一杯だからな」


「そうか、それは良かった。母衣衆として殿の下知を忠実に行う事も大切だが、何故、殿がそういう命令を出したかも考えながら動くようにすると良いぞ。信長様はご下命の際、多くを語らず、それを受けてそのものがどう動くか見ているようなところがある故な」


「そんなものか」


「そうだ。ただの武辺者では信長様のもとでは偉くはなれんぞ。ご下命の意図を読み取って動く者を引き上げているように、儂は思う」


「武辺だけでは、駄目か…。義兄上の様な用兵も身につけねばならんし、ご下命の意図を読むだけの知恵も付けねばならんのか…。まだまだ、だな、俺は」


そう言うと、盃をグビっと煽る成政さん。

徳利を玄久さんから受け取り、空いた盃に酒を注ぐ親父殿。

そして、いつの間にか皆の盃に酒を注いでいる文荷斎さん。


「それがわかっただけ、上出来じゃ。よぉし、皆のもの、もう一献呑むぞ」


親父殿が盃に口をつけるのを合図に周りの皆が呑みはじめました。

うん、この柴田家中の雰囲気、良いね。大好きだよ。

つられて、自分も盃を口に。


ブッファァァァァァァ。ゴッホ、ゴホゴホッ。これ、酒だ!吹き出しちまったよ!

って、文荷斎さん、自分にも注いでくれたのは良いけど、あなた、子供に酒を注ぎましたね!

堂洞合戦に起こった関加治田合戦、金山城(烏峰城)攻略戦、それに引き続く高野口の戦いを坊丸、勝家視点で見たら、こんな感じ、と言うところまでこ堂洞合戦戦後篇で書きたかったわけです。肥田忠政や久々利頼興のデータやら何やらを確認しながら書くので時間がかかるかかる…。


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