343話 堂洞合戦 戦後 其の弐
ども、坊丸です。
堂洞城攻め戦勝の祝勝会に参加中の坊丸です。
柴田の親父殿が言ってた通り、柴田家中は信長伯父さんが戦勝気分で帰路についたところに追撃してきた斎藤家、武田家などの軍勢を追い払ったようです。
微妙に流れが違う感じもしますが、自分の手紙が有効であったと思いたいところ。
それにつけても、主君の危機を救うのって部下の鑑だよね〜。
それと、さっきから武田家とか秋山虎繁とか、自分の頭の中にある『信長公記』のデータ、堂洞合戦の部分に記載のない名前が出まくりなんですが、どういうこと?とりあえず、玄久さんや加藤さんに雑談の体で聞いてみようっと!
「くはぁ〜。やっぱり勝った後の酒は美味い!」
あ、玄久さんが既にガンガン呑んでらっしゃる。話し聞けるか、これ。
「この
アワビの水煮は美味いですなぁ~。あ、玄久隊長、盃があいていますな。どれ、お注ぎ致しましょう」
「お、加藤副長、すまんな。トトト。お、ちょうどだ。では、いただくとしよう」
って、一気に盃を煽る玄久さん。
既に三杯目ですが、呑むペース早いなぁ。
「このアワビの貝に残った煮汁に酒を加えて、っと」
盃に少し残った澄酒をアワビ貝殻に移してそれを飲む玄久さん。
「くぅ~、美味い」
なんか、酒呑んで唸っているな、玄久さん。ゲップとかしてるし。
あ、たぶん、これ、一気に酔っ払うやつだ。早めに話し聞いとかんと。
「玄久さん、加藤さんが玄久さんの事を隊長って言ってましたが、なんです、それ」
アワビをいただきながら、質問開始です。
「坊丸か。お主らが訓練していた鉄砲騎馬隊の隊長を、今回はな、俺が務めたのよ。で、俺が隊長、加藤殿が副長というわけだ。まぁ、加藤殿が隊長でも良いとは思うんだが、陪臣の上に新参であるからな。言う事を聞かんやつがいると困るから、名目上、俺が隊長を務めるように、と権六兄ぃがそう決めたのよ」
「それで、隊長、副長って呼び合ってたのですね」
「そういうことだ。戰場での加藤殿は、なかなかに堂に入っておったぞ。『竜騎一番隊、火縄の準備!構え!放て!』ってな」
箸を置いて火縄銃を撃つ真似をしながら説明する玄久さん。
なにそれ、加藤さんかっこよすぎじゃん!
「いやいや、玄久殿が隊を指揮して、さらに目標を指示していただいたおかげでございまするぞ。それがしは火縄銃を撃つ指示をしただけで」
いやいやと手を振るって謙遜する加藤さん。と言いながら、まんざらでもなさそうな微笑みが口元に浮かんでいます。
「ところで、竜騎一番隊ってなんですか?」
さっきから出てくる竜騎一番隊と言う厨ニ病的なナイスワードが気になるんですが、坊丸君的には。
「おい、坊丸。お前が竜騎一番隊って鉄砲騎馬隊に名前をつけたんじゃ無いのか?権六兄ぃも知らなかったようだったぞ」
「そうですぞ、鉄砲騎馬隊用の火縄銃を作った時に銃の持ち手の木材に焼印を入れてくれって坊丸様が素案を持ってきたじゃないですか。それをもとに焼印を持ち手部分の左右に入れたんですぞ」
あ、もしかして、あの焼印、部隊の名前ってことになっちゃったんですね…。
自分的には、竜騎兵のイメージで竜の焼印を入れてもらったんですよ。そして、なかなか鉄砲騎馬隊の参加者訓練者が増えないから、婆娑羅や傾奇者的な格好良さで人増えないかな、くらいの軽い気持ちで「竜騎一番隊」って焼印も入れてもらっただけなんですが…。
ハッハッハ。そんなことになるなんて、なんか、ごめんなさい。
「そうですか。あれがそのまま部隊名になったんだァ。それは良かったなぁ」
うん、困った感情が入り混じってメッチャ棒読みだけど気にしない。
そんな話をしていたら、柴田の親父殿も徳利と小さ目の盃を手にやってきました。
「おぅ、玄久、坊丸、清忠。呑んどるか」
そんな事を言いながら、どかっと腰を下ろす親父殿。
親父殿は、「呑んどるか」とか言ってましたが、自分は元服前だし呑みませんが。転生前はそこそこ酒呑みだったから、このアワビや昆布巻きで呑みたい気持ちはめちゃくちゃ有るけど。
座った親父殿に玄久さんがすかさず酒を注ぎました。
「では、勝利を祝して」
親父殿がそう言うと三人とも杯を持たあげ、軽く目礼してからグビリと盃を煽ります。慌てて付き合うように水を一口。
畜生〜、自分も水じゃなくて、酒で一緒にやりてぇ〜。
「玄久には悪かった。鉄砲騎馬隊、なんと言ったか竜騎一番隊の指揮を突然任せてしまってな」
「権六兄ぃ、良いって事よ。小さい別働隊とかは前にも任されていたしな、そうは変わらんよ」
と言うと玄久さんがグビリ。
「玄久、清忠の両名の率いる鉄砲騎馬隊のおかげで武田勢が無力化できた。あの砲撃で慌てふためいたようでな、儂と成政が敵本陣に乗り込んだ時は強い抵抗なんぞなかったものよ。まぁ、甲斐武田でも名の知れた大将、秋山伯耆守と槍を合わせたかった気持ちはあるがな」
評定の時にも出たんだけど、秋山虎繁とか秋山伯耆守とか、誰?
よし、困ったときの『信長公記』だな。秋山虎繁とか秋山で検索してみるか…。
とりあえず、勝栗をモクモクと食べているふりをして…。
うん、『信長公記』巻八 天正三年の時節のことを記載した中の十二節、岩村城落城の事 の中に岩村城に詰めた武田の将の中に「秋山信友」ってのがでてきたぞ。
秋山信友って、昔々にコウ◯ーの『信長◯野暮兎』で武田家にいた武将だな。
今回お話に出ている秋山虎繁と親戚がなにかなのかな?
「親父殿。一つ聞いても良いですか?」
「おぅ、なにか疑問か、坊丸」
まだ食べてない坊丸君の昆布巻きに箸を伸ばしながら答えるのはお行儀悪いと思うよ、親父殿。
「こたび、親父殿が討ち取った秋山虎繁というのは、有名な方ななのですか?それと、美濃の岩村城とか秋山信友という方と関連ある方なのですか?」
「ん、秋山虎繁は岩村や苗木に居る遠山家などの武田家へと取次する役割らしいぞ。時々、岩村城や苗木城にも来るらしい。今回はどういう風の吹き回しか斎藤や長井道利に味方しおった。まあ、そのせいで、儂らに討ち取られることになったんだがな」
そう言うと、坊丸君の昆布巻きをひょいと口に入れた後、ガバハと笑う親父殿。
「お、面白い話をしておりますな、坊丸様。ちなみに、秋山虎繁と秋山信友は同じ人物ですぞ。
津田掃部殿が伊那郡代の秋山殿と遣り取りした書状をそれがしのところに持ってきて、署名の崩しがきつくて信友か虎繁かわからんから比定してくれと言われたことが少し前にございましてな。数通確認したところ、諱は信友でなくて虎繁と確定させましたので、それがしが。いつの頃から伯耆守を名乗る様になったので、その後は伯耆守と官名で書状を送ることにいたしますよう、話しておきましたが」
って、いつの間にかすぐ後に中村文荷斎さんが。ビックリするなぁ。
あ、秋山虎繁と秋山信友って同じ人なんですか?情報ありがとうございます、文荷斎さん。
ん?秋山信友って頭の中にある『信長公記』のデータだと天正三年、あと十年後まで生きてるはずなんですけど…。
あれ?歴史、変わり始めている?
読者諸賢は秋山虎繁と秋山信友が同じ人物なのは既にご存知だとは思いますが、坊丸君はここで知りました。ヤレヤレ、だぜ。
「乾杯」は明治維新後に西洋から入ってきた文化なので、ここでは乾杯とは言わずに、杯を高くかざしたあと目礼してから一緒に呑む形になっております。
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