342話 堂洞合戦 戦後 其の壱
堂洞合戦と言う信長の戦いの中でもマイナーな戦で十壱話使ってしまいました…。そんなマイナーな戦の話に付き合ってくれた読者に感謝を。今回は、坊丸視点です。
ども、坊丸です。
永禄八年九月になりました。
信長伯父さんが堂洞城攻めに出陣して四日。もう小牧山城に戻って来ました。
なんと、出陣した翌日の八月二十八日には堂洞城を落城させたそうです。
出たよ、織田信長の速攻&力攻め。凄いよね〜。早いよねぇ〜。
おかげで、本日は、柴田家のお屋敷は戦勝の宴会ですよ。
ま、そのおかげで、加藤清忠さんだけじゃなくて柴田家の面々に戦の状況や鉄砲騎馬隊の実戦での問題点とか聞けるから良いんですが。
「坊丸様、勝家様がお呼びですよ〜。皆が集まったからそろそろ宴会と報告会をあわせて始めるって話しです」
桃花さんが台所に呼びに来たので、そろそろ顔出しますか。
「お滝さん、行ってきますね。鶏の唐揚げの仕込は大丈夫そうですから、評定が終わって宴会になったらどんどん出しちゃって下さい。あ、酒もお願いしますね」
そう、お滝さんに声を掛けると、大きめの揚げ物鍋から目を離さずに返事が来ました。
「あいよ、行ってきな。しかし、朝告鳥を食べて良いって織田の殿様から許可取ってきちまうとわねぇ〜。そして、こんなにたくさん揚げる事になるとは思わなかったよ。坊丸様には仕込みの手伝いまでしてもらっちまって、済まなかったねぇ」
その声を聞きながら、柴田家の広間に向かっていきます。
広間の上座に柴田の親父殿がすでに着座していました。
「申し訳ございません。遅れました」
「坊丸。本来ならこの戦にお主は出ていないからな、呼ばれないと思っても致し方あるまい。しかし、そなたは鉄砲騎馬隊の立役者であるからな、玄久の隣に座れ。加藤清忠もその脇に控えるが良い」
いや、宴会モードになった時につまみになりそうな料理を運ぶ手伝いしながらそのまま居座って色々聞こうとは思っておりましたがね。
呼ばれたんで、正式参加扱いなんで良かったです。そして、鉄砲騎馬隊の一員扱いなんですね、自分。了解しました。まぁ、宴会中も近くに玄久さんと加藤さんが居るなら安心だしね。
あれ?なんてか知らないけど、佐々成政さんが居るな?なんでだ?
「さて、皆の衆。こたびの堂洞城攻め、ご苦労だった。まぁ、我らは堂洞城は攻めせてはいないがな」
そこで起こる家臣団の一笑い。
む、親父殿、話のつかみが上手くなってるな。
「それはさておき、我らの働きで殿を加治田からの帰路に狙う斎藤の動きを封じた。この事は、昨日、城での戦後の評定にて褒めていただいた。敵の動きの機微を見るに敏にして、勝ち戦の後も気を引き締めていたこと、武士の鑑。相模の北条氏綱殿は、勝って兜の緒を締めよと言ったらしいがその言を守ることあっぱれ、とのことじゃ。これもまた、皆のおかげじゃ」
そう言って家臣団に向けて大きく頷き、その後、こちらをチラッと見る親父殿。
堂洞城が落ちた後の方が危険って報せたのは自分だしね。余計な事を言うなっていう合図でしょうか?わからんけど。
「しかも、殿を追っていたのは武田の秋山虎繁だったらしい。首は無かったが、緋縅の鎧を着けた武者の死体があったのと、近くには三階菱の家紋の旗指し物。武田と話し合いをしておる津田掃部の見立てでは、年格好と旗指し物よりこの武者は伊那郡代の秋山虎繁に違いあるまいとのことだ。武田の騎馬隊を退け、高名な将を討ち取ったこと、我が柴田の武名が更に上がることであろう。こたびの戦に参加してくれた皆の衆には重ねて礼を申す」
そう言って頭を下げる親父殿。
それを受けて平伏し返す家臣団。
「ただ、残念なことにこたび戦では所領をいただくことは叶わなかった。加治田の佐藤忠能殿の加増と河尻秀隆殿の猿啄城城主就任のみとなった。しかし、我らの活躍を殿は認めてくださり、かなりの金子と感状をくださることになった。金子については後日、皆に配るゆえ、しばし、待たれたし」
所領の加増が無いと聞き、少し不満の声がもれたようですが、報奨金が配られるとあって、表立って不満を示す人はいないご様子。
「さて、堅い話しはここまでじゃ。では、宴といたそう!」
親父殿のその言葉を受けて、厨からどしどし運んでこられるお膳達。
お膳のメインはアワビの水煮かな?小皿には茹でた栗と昆布巻。酒が注がれるのであろう朱塗りの盃。自分、呑んで良いんですかね?元服すらして無いけど?
「こたびは、大急ぎの出陣であったゆえ、三献の儀すら省略してしまった。本来は戦勝祈願の為の料理ではあるが、勝ち戦の後にしみじみ味わうのも、また、一興と思し召せ。さ、皆々、酒を注いでもらえ」
寄騎衆や親族衆の女手にも手伝ってもらってるらしく、加藤さんの奥さん、伊都さんも配膳の手伝いをしてますね。
あ、お妙さんが玄久さんに澄酒を注いでるぞ。自分の番だけど、酒注いでくれるのかな?
「はい、坊丸さまにはこちらの徳利を」
と言って、胸元から徳利が。それ、どうやってしまっていたの?いやいや、これ酒なの?そして、色っぽいな。
あ、いや、坊丸君は元服前の童なので、劣情は持たないはず。たぶんだけど。
お妙さんの肌の温もりがする徳利を受け取ってちょっとドギマギしてしまいましたがね。
「フフ。坊丸様、それは中身は水ですよ。坊丸様用に持って参りました。お酒ではないですから安心してお飲み下さいね」
そう言うと、微笑んで、隣の加藤さんのところにお酒を注ぎにいくお妙さん。
ハハハ。どうやら中身がお酒かどうか心配していると思われたようだぞ。良かった。良かった。
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