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339話 堂洞合戦 九の段

信長が猿啄に向かって武田や遠山の連合軍から必死に逃げる後方では、既に武田勢が追いつき始めていた。

最後方の馬廻り衆は武田勢に追いつかれそうになると、自ら馬首を返し、その場にとどまって奮戦。関ケ原の戦いにおける島津家の「捨て奸(すてがまり)」の様にして、自らの命と引き換えに信長と武田勢の間に時間と距離を稼いでいった。


配下の献身にて竹中重治の冷徹な包囲と追撃策をどうにか逃れている信長であるが、柴田勝家の参戦によりに生き延びる目が見えてきたため、彼の目には強い光があった。


同刻、柴田勝家の陣では、武田、遠山を迎え撃つべく準備が進められた。

柴田隊三百の主将たる柴田勝家、生駒家二百を率いる生駒親重が並び、その前に義兄にして家老格の吉田次兵衛、一門衆の柴田勝定、柴田角内、譜代格の吉田玄久、溝口半左衛門、末盛衆与力衆の安孫子右京亮、藤江九蔵、毛受照昌らと生駒家の重臣数名が並ぶ。

そしてそこに、津田坊丸の唯一の直臣である加藤清忠が津田坊丸の代理として一席を与えられていた。


「柴田隊の騎馬隊を先鋒とさせていただく。騎馬隊は儂が率いる事とする」


そう言うと生駒親重の方を見る柴田勝家。視線を感じた生駒親重は大きく頷き、速やかに同意を示す。

ホッとした柴田勝家は続ける。


「柴田隊所属の鉄砲騎馬隊は、中村玄久が率いろ。徒士の衆は次兵衛が率いろ。生駒の衆については、騎馬隊、足軽共に柴田隊の後詰めとして動いてもらいまし」


「「「はっ」」」

「生駒家、承った」

「なっ!」


ほとんどの将は勝家の指示に従う旨の声をあげたが、ただ一人、中村玄久は驚きの声をあげる。


「義兄ぃ。俺は火縄銃の事はわからんぞ。時々は、坊丸と共に鉄砲騎馬隊の様子を見てはおるがな」


「玄久。安心しろ、鉄砲騎馬隊の副長に加藤清忠をつける。流石に加藤は坊丸の代理でもあるでな。他の者の上につけるわけにはいかん。加藤清忠、鉄砲騎馬隊の副長を申し渡す。騎馬隊全体の動き指示は玄久が、鉄砲を放つ指示は清忠が行え」


「それならば、わかる。吉田玄久、龍騎一番隊隊長の任、承った」

「加藤清忠、副長の任承りました」


竜騎一番隊という謎の言葉を聞いた柴田勝家は一瞬、目が点になった。


「玄久。なんだ、その竜騎一番隊というのは?」


「あ?義兄ぃの命名では無いのか?すると、坊丸が勝手に決めたのか…。竜騎一番隊というのは、鉄砲騎馬隊用の銃床に焼印してある文言だな。逆側には昇り龍の様な文様が焼印されているぞ。それがかっこいい、素晴らしいと若手がやる気になったおかげで鉄砲騎馬隊の人数が揃ったんだぞ、権六兄」


「そんな事があったのか…。ある時から急に鉄砲騎馬隊を希望する者が増えたのはそのせいだったか…」


「権六兄。鉄砲騎馬隊が弾を放つ時には声をかける。前を開けてくれよ。そうしないと、味方を撃つことになる」

「勝家様、宜しくお願い致します」


騎馬鉄砲隊の運用については、坊丸の頭の中では騎馬で移動して停止後に発砲するものであったが、たまたま玄久が見た騎馬鉄砲隊の訓練は騎馬移動中に発砲するという訓練の日であった。

そのため、玄久の頭の中では、騎馬鉄砲隊は移動しながら火縄銃を発砲し、その後に銃剣装備で他の騎馬武者に続くものだと思い込んでしまったのだ。

そして、加藤清忠は隊長の吉田玄久がそのような運用を今回は行いたいのだと思い込んでしまった。


「相分かった。玄久の声がかかったら騎馬隊を動かし、鉄砲騎馬隊の前方をあける。儂も後ろから火縄銃で撃たれたくはないからな」


そう言って笑う。つられて違いないなどという声とともに笑い声が上がる。


「よぉーし。では、軍議は仕舞いじゃ!これより殿の救援に行く。皆の者、ぬかるでないぞ!」


そして、柴田勝家の陣で準備が完了し、柴田勝家や主だった将が馬上の一人となったその時、信長と母衣衆が左前方から駈けてきた。


そして、信長が柴田勝家の陣に駆け寄ってきた。


「権六!後ろに武田の秋山虎繁が食らいついている。そなたの武を以て追い払え!励めよ!」


そう、自分の言いたい事を言うと馬首を西に向ける信長。


「委細承〜〜知!殿ぉ!今、この陣に居る母衣衆が一人、佐々内蔵助成政をお借り申〜す!」


「おう!貸してやる!成政!暴れてこい!」


信長は左手をあげながらそう言うと、勝家とその隣に立つ佐々成政に向けて一瞬笑みを向ける。

すぐに口を真一文字に結ぶと、馬に鞭を入れ、猿啄城に向けて走り去っていった。

そして、その後ろには母衣衆、馬廻衆が続く。


佐々成政は右手の槍を高く掲げ、主君と同僚達が西に走っていくのを見送る。


「よぉし!殿が行ったのであるから、すぐに武田がやって来るぞ、皆のもの、気張れよ」


そう言うと、柴田勝家は、愛馬に鞭を入れ、信長達がやって来た北の方に向け走り出す。

その髭面にはこの後の強敵と戦えいを予想してなのか、凄烈とも言えるような笑みが浮かんでいた。

毛受照昌は賤ヶ岳の戦いで柴田勝家の身代わりとなって奮戦した毛受勝照兄弟の父親です。

溝口半左衛門は亀田高綱の父親です。


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