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338話 堂洞合戦 八の段

頭の中に戦場の動きは大まかにあるのですが、書く時間が無い…。

「なんと!柴田殿がこんなところにいるのか!殿に報告を!柴田殿、木曽川の北、太田宿に布陣の由と伝えよ!

誰ぞ、柴田殿の陣に向え!柴田殿、生駒殿に状況を知らせろ!加勢を頼む!」


河尻秀隆が母衣衆筆頭として、その場で指示を出す。


「権六殿の陣にはそれがしが!」


斜め後ろを走っていた母衣衆の佐々成政がそう答えると、丸に二つ雁金と生駒車が翻る陣に馬首を向け、一騎、駈けていく。


「殿にはそれがしが説明してまいります」


金森長近はそう答えると、馬首を翻し、信長の居る後方に向かっていく。


「柴田殿の兵が居ることで、戦況は変わるはず。殿の指示もあろう。少し速度を抑えて、殿に合流するぞ!」


猿啄、堂洞、そしてこの加治田からの帰路での戦いを経て練磨され、母衣衆筆頭の河尻秀隆は、たんなる母衣衆という立場から、一軍の将になりうる才覚を見せ始めていた。


そしてわずかばかり後、信長の側にて金森長近が柴田勝家、生駒親重が太田宿の北に布陣していることを告げると、信長の指示が出る。


「権六と伯父貴の陣近くまでまず行く!そしてそこから西の方に折れ、郷部山の南を廻って猿啄城に向かうぞ!

猿啄城におる兵と合流の上、長井や斎藤龍興の軍がまだ追ってくるようならこれを迎え撃つこととする。尻に喰らい付いて来る武田と遠山は権六に任せる。

しっかし、権六の奴め、良いところに居るものよ!こたびの戦に後詰でも良いから参加させてくれと言ってきたときは、権六の戦馬鹿の面がまぁた出たと思ったが、こうなるとありがたいものよ。はっはっは」


その様に指示をだすと、馬上で引き笑い気味に呵う信長であった。


同刻、柴田勝家と生駒親重の陣には佐々成政が飛び込んできた。


「柴田の義兄者(あにじゃ)に目通り願う!我は母衣衆の佐々成政!殿が危ないんじゃぁ!」


陣の近くで大声を上げた佐々成政を見て、すぐに柴田勝家のもとに伝令が走る


「内蔵助!どうした!殿が危ないとは如何いたした!」


「加治田からの帰路、斎藤龍興、長井道利の軍勢三千に待ち伏せされた!殿の手勢は馬廻りやいつも本陣に詰めている連中を中心に八百しかおらん。殿(しんがり)に森可成殿が二百を率いてのこっておる。徒歩の連中五百を丹羽殿がまとめておるので、殿の周りには母衣衆、馬廻りの騎馬の連中百ほどしかおらんのだ。しかも、蜂屋川のあたりから、武田の軍勢五百が湧いてでた。

義兄者!武田の兵から殿を守るため、戦ってくれぬか!殿を逃がす時間稼ぎだけでもいいのだ!頼む!」


そう言って、馬から降りると佐々成政は土下座する勢いで頭を下げる。

が、柴田勝家は驚いたような顔になり、言葉に詰まりすぐには返事ができない有様であった。そして、柴田勝家の近くに立つ生駒親重の顔もひきつったようになっている。


そう、柴田勝家と生駒親重の二人だけは、堂洞城落城のあとに見るように言われた坊丸の書状の内容を知っているのだ。そして、坊丸の書状に記載された内容と()()同じ状況が今、起こっていることを知ってしまった。


坊丸の書状には()()()()()()でおこった事象を太田牛一が記した『信長公記』の内容を踏まえて記載されているため、()()()()()で改変された事象である武田勢のことは一言も記載されていないのではあるが、佐々成政から語られた内容がよく似ていたため、まるで坊丸が今回起こることをピタリと言い当てたように二人は思ってしまい、驚愕と若干の恐怖を感じてしまったのであった。


「殿!」


佐々成政の依頼にすぐに返事をしない二人の様子を訝しみ、勝家に声をかける吉田次兵衛。

その声を聴いて、はっと我に返った柴田勝家は佐々成政に答えて言う。


「相分かった。主君の窮地を救うのは家臣として当然の務め。そして、敵が武田であれば、相手にとって不足なし!大いに奮戦して武門の誉れと致す」


「生駒様もそれで宜しゅうございまするか?」


吉田次兵衛が、一緒に戦ってくれるようまるで促すように生駒親重に声をかける。


「むろん、儂らも戦うぞ。最近織田に鞍替えした国人領主という立場であるしの。主君にして甥の命を織田方になった直後に救ったとあれば、信長にも面目を施せるし、末代までの誇りと致せるしな。それにともに戦うは、織田の猛将、鬼柴田。大変ではあるが、腕が鳴るな」


「生駒殿。合力、有り難し。さて、内蔵助。殿の元に報せに戻るがよかろう。我らは、速やかに武田を蹴散らす準備を致す故な」


「義兄者。殿への報告は他のものを立ててはくれぬか。自分もこの陣で武功を上げたいのだ。正直、堂洞攻めでは大した功をあげていなのでな」


そういうと今一度頭を下げる佐々成政。


「殿が許されれば良いのだがな。あの武田と戦うのであれば、武勇のあるものは一人でも多いほうが良いだろうから、な。あとで儂から殿にとりなしておく故、武田相手に暴れて見せろ」


一瞬、困った顔になった柴田勝家だったが、このとおりと上目遣いに拝んでくる佐々成政の様子をみて、すぐに折れた。


「有り難し!それでこそ、鬼柴田ってもんだ」


そういうと満面の笑顔を浮かべて感謝する佐々成政。その様子をみてさすがの柴田勝家も調子の良さに少し苦笑する有様だった。

そして、咳ばらいをした後、気を取り直して、周囲に指示を出し始める。


「では、殿に柴田と生駒の動きを伝えねばな。文荷斎!伝令を務めてくれるか?そしてそのまま殿の側におれ。何か殿からのご下命あればそれを持って戻れ。他の者は、大急ぎで戦いの準備を整えよ!」

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