336話 堂洞合戦 六の段
しばらく間隔が開きましたが、再開です。
きりが良いところで区切ったので、少し短目。
織田信長と長井道利、斎藤龍興が会敵する半刻程前、秋山虎繁、遠山直廉、肥田忠政らの居る陣に長井道利から使者が来た。
「秋山様、肥田様、遠山様に申し上げまする。我が主、長井道利様より御三方にご連絡がございます。堂洞城は陥落しましたが、次の策があるとのこと。昨晩、加治田に入った信長は、本陣周りの兵千のみを伴ったとのこと。他の兵は、堂洞、猿啄、鵜沼などに分散させたとのこと。加治田よりこの少なくなった兵を率いる信長が小牧山に帰路につくと考えられます。加治田より十分離れたのを見計らって狼煙を上げますれば、それに合わせて御三方には動いていただきたいとのことでございます」
「ふむ。して、どの様にせよと?」
代表して、秋山虎繁が質問する。
「はっ。北西、関の方向より、わが主長井道利が千の兵にて、西、迫間の方向より美濃の国主斎藤龍興様が二千の兵にて信長を囲みまする。信長が我らと戦わば、御三方には、信長の背後より叩いていただきたくお願い致します。三方より包囲するようにして戦えば信長を討つことができると主の長井道利が申しておりました。もし、信長が戦わず逃げるようであれば、逃げる信長を追い回して追撃していただきたく存じます」
土地勘が無い秋山虎繁は、肥田忠政、土岐十郎左衛門の方を見ながら聞いた。
「肥田殿、土岐殿。如何思う?」
「はっ。今の話のとおりであれば、織田の軍勢を加茂野から太田の間程で捉えることになるかと。ここより南西に少し行ったところにござりますな」
その言葉を受けて、使者が再び口を開く。
「それにつきましては、長井家預かりにして軍師の竹中重治殿より、追加のお話がござりまする。竹中殿の読みでは信長は、戦うふりをして加茂野のあたりより祝坂、猿啄城の方角に逃げるだろうとのこと。御三方には、そこを狙って追撃、殲滅して欲しいとのことでござりました」
「ふぅむ。長井殿の軍師は信長が逃げると読んだか。まぁ、包囲戦、追撃戦どちらでも対応できるようにしておこう。肥田殿、土岐殿、それを踏まえて案内を頼む」
「はっ」「承りました」
肥田忠政、土岐十郎左衛門ともに中美濃の豪族で、斎藤家に馬を繋ぐ者である。だが、東美濃の遠山党が秋山虎繁の配下に近い様相である為に自然と両名も配下のような雰囲気で対応してしまうのだった。
それに武田家中でも武名名高い秋山虎繁に頼まれれば、それだけで誉れ高く感じてしまい断りようも無いのではあった。
長井道利の使者と秋山虎繁らがあっていたその頃、太田の渡し付近の河原に陣を敷く柴田勝家と生駒親重のもとに物見が戻ってきました。
「肥田忠政の軍勢、武田、遠山の軍勢を見つけました!場所は蜂屋、蜂屋川の付近!堂洞の南東のあたり、兵は総勢五百程でございまする!」
「よくやった!まずは休め!」
「柴田殿、やはり肥田勢らは飛騨川を越えておったな」
「そうでござりまするな、生駒殿。こちらと敵は同数程度。この敵を抑えるが良いか、殿のもとに赴くが良いか、思案のしどころでごいますな」
「加治田方向の物見が戻りました。信長様は既に加治田城を出立し、加茂野方面に向かっている様子にございまする!関の長井道利の軍勢にも何やら動きありとのことにござりまする!」
「と、言うことらしいぞ、柴田殿。坊丸の言う通りになってきたようだぞ。どうする?」
「で、あれば、我らは太田宿の北東にて殿をお出迎えいたしましょう。皆のもの、移動だ!向かう先は太田宿の先、そのあたりになったら殿に戦勝のお祝いとお迎えにあがったと使者を立てる。皆のもの!長井道利や肥田忠政と一戦交えるつもりにて、疾く、準備致せ!」
本来の時間線ではこの戦場には居ないはずの二つの軍勢が、竹中重治の智謀と津田坊丸の『信長公記』の知識により導かれるようにして信長のもとに向かい、動き出すのであった。
成人の日以降、急に仕事が本格稼働の域を超えて降ってきたので、コンスタントに執筆できませんでした。
秋山虎繁は、かつては秋山信友の名前で知られていました。現在は書状その他の署名が虎繁と判定され、秋山虎繁の名前が正しいとされてます。
諱から考えれば、武田信虎の偏諱をもらうことができる地位にあるような親世代が居たか、信虎時代には既に抜擢される功績を挙げていたかのいずれかということになります。
譜代家老格の子息らしいので、前者だとは思います。
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