333話 堂洞合戦 参の段
大晦日から三が日で書き溜めた分を連日投稿してまいりましたが、連日投稿は本日で終了になると思います。
信長が加治田城に向かった後、半刻程して、木曽川南岸、野田の渡しの近くに布陣する柴田勝家、生駒親重の陣にも堂洞城を落としたという報せが入る。
「勝ったか。肥田だけでなく、遠山、武田の秋山が出張ってきたのが分かった時は肝が冷えたが、さすがは信長様じゃ、たった一日で堂洞を落としなすった」
たった一日での勝ち戦を決めたことにすなおに、感嘆の声を上げる柴田勝家。
「全くだ。まさか、一日とは…。我が甥ながら、何たる戦上手。父の信秀殿の方が優れた武人、領主と思っていたが、評価を改めねばな」
そして、戦勝の報を聞いた瞬間に一度立ち上がった生駒親重は、ほっとした表情で軽口をたたきながら床几に腰掛ける。
それを聞いた柴田勝家は生真面目な表情で答える。
「桶狭間をまぐれの勝ちと思って信長様を侮る者が多いのは、重々承知しております。が、あの方はまことに戦上手。
信行様の命にて一度戦ったこの柴田勝家、身に沁みて感じておりまする。
兵を奮い立たせる檄、戦の流れ、勝ち筋を読む戦勘の良さ、引くときの思い切り、いずれもなかなか身に付くものではありませぬ」
「信秀殿の代から織田の戦のほとんどに参加する鬼柴田にそこまで言わせるか…」
「信長様の下で戦うのはこれからなんぼあっても嫌ではありませぬが、信長様と矛を交えるのはまっこと御免被りまする」
「ハッハッハ。了解した。これから、信長殿の下で戦うのが楽しみになった」
「で、生駒殿はどうなさいますか?勝ち戦と決まれば、城に引き上げても宜しいかと存じますが…」
「さて、どうするかのぉ。兵は引き上げさせてもらうかのぉ。柴田殿はこの後は野営するのであろう?流石にかなり陽が落ち始めておるからな」
「そうなりまするな」
「では、儂は鬼柴田と勝ち戦を肴に一献酌み交わしてから引き上げるとするかな」
悪戯な笑みを浮かべて野営での酒宴を提案する生駒親重であった。
そんな生駒親重の様子に苦笑いをした柴田勝家は、坊丸から信長本隊から戦勝の触れがきたら開封する様に言われた書状のことを思い出した。
「生駒殿、しばしお待ちを」
そういうと、坊丸から出陣前にわたされた書状を取り出す柴田勝家。
そこには、以下の様な内容が書いてあった。
「一筆啓上。この手紙を開いているということは、伯父上が堂洞を落とした報せが親父殿のもとに届いたものと存じます。堂洞に向けて出陣する前日、枕元に立った父上と会ったことのない爺上より伯父上の危機を知らされました。
爺上がのたまうには、『伯父上が堂洞を落とすのは必定、なれど真に危険なのは堂洞を落とした翌日、加治田に泊まり加治田から小牧山への帰路。蝮の弟と孫が三千の兵を率いてその首筋近くまで迫るだろう』とのことでした。
親父殿には、伯父上の帰路に待ち受ける危機を防いでいただきたく伏してお願い申し上げます」
その手紙を読み終わった勝家は、生駒親重にその手紙を渡しつつ、近くにいる中間に物見役二名を呼びに行かせた。
「なんだ、これは?」
「坊丸、信行様の忘れ形見、津田坊丸の書いた書状でございます。殿の危機は、明日、小牧山への帰路とのこと。生駒殿にお願いがございます。明日、信長様の帰路を安全なものに致すため、明日までともに戦っていただけませぬか」
そういうと、大きく頭を下げる勝家。
「ん。しかし、なんだな。これが本当なら、大甥の坊丸とやらは、狐狸妖怪の類ということになるな」
あきれた様な感じで呟く生駒親重。
「坊丸は、ときどき、先の未来が見えているのではないかと思う時がございます。桶狭間にて殿が小姓衆のみ連れて出陣したとき、あの小僧は殿が出陣するときに備えて殿の動きを見逃さぬように城を見張るようにそれがしに進言しよりました。そして、熱田神宮にて殿が待っているのでそこに向かえ、とも言いよりました。いつも、神仏のお告げだの、誰それが枕元に立っただの言いますが、そういった言い方をしたときは、まず間違いなくその通りになり申す。荒唐無稽とは思いまするが、生駒殿、信じていただきたく」
そして、さらに深く頭を下げる勝家。
「ふうむ。我が甥信長は大うつけから麒麟児に化けたが、大甥の坊丸は狐狸妖怪から何に化けるかのぉ。そして、鬼柴田にそこまで買われている坊丸にも、すこしだけ興味があるな。相分かった。この生駒とその一党、信長殿の窮地を救うために柴田殿にご助力申し上げよう」
「ありがとうございまする。物見役、一名は堂洞へ。殿や本隊がいれば、戦勝の寿ぎを伝えよ。殿がいなければ、すぐに戻ってまいれ!もう一名は加治田へ。殿がそこにいれば、戦勝の寿ぎを伝え、柴田と生駒は明日木曽川北岸で出迎えると伝え、ここに戻れ。疾く、行け」
そして、一刻ほど後、闇が深くなるそのころ。
野田の渡し、木曽川南岸の柴田・生駒の陣に堂洞に向かった物見、早馬が戻る。
その物見から、堂洞に信長が居ないことを伝えられた柴田勝家、生駒親重は坊丸の予言通りであることを知り、驚きのあまり嘆息することになる。
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