330話 機会
ども、坊丸です。
柴田の親父殿と鉄砲騎馬隊の実働実験を名目とした後詰めの話をした翌日、柴田勝家と一緒に小牧山城に登城しています。
「殿にはお忙しいところ、大変申し訳ございません。本日は報告とお願いがあってやってまいりました」
「権六。儂は堂洞攻めに向けて忙しい。手短に申せ」
苛ついているほどではないが、戦前で少し気が急いている様子の信長伯父さん。
その雰囲気を読み取った柴田の親父殿は、前置きやご機嫌伺いの言葉を飛ばしてすぐに本題に入るご様子。
自分はなにか言われるまで空気になることを心に決めました。うん、
「しからば、隣に控えおります坊丸にご下命いただいた騎馬鉄砲隊、当家にて人馬ともに十五騎分まずは仕上がりましてござります。
こたびの堂洞攻めにて実戦をわずかなりともこの者達に経験させたく存じますれば、この柴田勝家、騎馬鉄砲隊を含めて率い、出陣したくお願いいたしまする」
「権六。美濃攻めの主攻は、かつて話した通り、森可成、丹羽長秀を以て当てる。残念だがそなたに出番は無いと心得よ」
「はっ。それは重々存じております。故に後詰めとして控えておりますれば、何卒、この柴田勝家と騎馬鉄砲隊にも出陣の機会だけでもお与えくだされ。
森殿、五郎左の活躍の機会を奪うような真似は決して致しませぬ。中美濃の肥田、久々利らを抑えるのに木曽川の南岸にて目を光らせる所存。なにとぞ、ご許可をいただきたくお願い申し上げまする」
そう言って深く平伏する親父殿。
自分もタイミングをあわせて床に額をこすりつける勢いで平伏します。
「米田の肥田忠政、兼山湊を抑える久々利頼興か…。確かに長井道利であれば、奴らを動かすような策を練ってくるやも知れぬな。で、勝家。奴らを抑えるのは、どうする」
「はっ。殿のお許しがいただければ、土田の近くに布陣致したく存じます。木曽川の北岸に陣を敷いて良いのであれば、美濃太田あたりに布陣致したく」
そう言うと平伏する状態から顔だけ上げて信長伯父さんの方を見る親父殿。目を一度細めてから、斜め上を睨むような表情をする信長伯父さん。
そして、こちらを感情を殺したような無表情の面持ちで見ると、結論を口にします。
「勝家。木曽川の南岸にて後詰めすることを許す。数は鉄砲騎馬隊を含め三百。土田の伯父上にも参陣の触れを出す。肥田、久々利が動いたら、これを討つことを許す。それ以外はこちらよりの指示があるまで川を越える準備のみして待て」
「ハハッ。出陣のお許しをいただき、ありがとうございます」
「以上か?以上であれば、勝家、出陣の準備に取りかかれ」
「ハッ。急ぎ、家に戻り、一族郎党、寄騎衆に出陣の準備をさせまする。しからば、御免」
そう言うと親父殿はスッと立ち上がり、信長伯父さんに頭を軽く下げると大股に大広間から出ていこうとします。
自分も慌てて立ち上がり、同様に伯父上に頭を下げると、親父殿を追いかけました。
「権六!遅れるなよ!」
少しからかうような口調の信長伯父さんの声が背中に降ってきますが、親父殿が振り返らずに進むので、自分も同様に振り返らずにズンズン進み、大急ぎで柴田の屋敷に帰宅することに。
小牧山を下るようにして、一気に中腹の柴田の屋敷まで戻りました。
ていうか、親父殿、追いかけるだけでこっちは大変なんですけど。柴田の親父殿の背中からは戦に出陣する前の獰猛さと出陣できる喜びの混じったオーラみたいなものが感じられるし。親父殿とすれ違う城内の方々が一瞬後ずさるような感じだったから、表情もきっと獰猛な笑みを浮かべていたに違いないと思うんですよね。
「今戻った。次兵衛!戦の準備だ!堂洞攻めの後詰めという立場だが、出陣の機会を、戦功をあげる機会をもぎ取ってきたぁ!」
「と、殿。なんですと!」
「今言った通りだ!昨日、坊丸から鉄砲騎馬隊に実戦経験を積ませたいといわれてな!それに後詰めの必要がありそうな話を付け加えて、殿に話した。その結果、出陣の機会を得られたというわけじゃ。数は三百。向かうは美濃の土田から太田の渡しあたり。期日は明後日!大急ぎで準備じゃ!」
「委細、承知。明後日の午の刻まえには準備を整えまする。では、すぐにかかりまする」
そういうと、若衆中間を集めて指示を矢継ぎ早に出し始める親父殿と吉田次兵衛さん。
うん、自分はやることないね。あ、加藤さんに出陣のこと伝えないと。鉄砲騎馬隊のこともあるし、また代理で出陣してもらうからね。手の空いてる中間さんにでもひとっ走り伝えてもらおうかな。
それと信長伯父さんのピンチをどうにかして親父殿に伝えないとね…。流石に信長伯父さんとの謁見の場面では言い出せる雰囲気ではなかっからね…。
『信長公記』に書いてある通りの流れだと、堂洞城を落とす、加治田城に宿泊、加治田城で首実検、小牧山城に引き上げようとしたところを三千の兵で襲われるって流れだったよね。加治田に泊まったのを知ったので、そこから帰路を強襲する様にみえるから…。
三国志演義の諸葛亮がやるみたいにこういう状況になったらこの手紙を読んでねってかんじの指示書をお渡し大作戦でいってみますか!
少しでも「面白い!」「続きが気になる」と思った方は、下の★でご評価いただけると、作品継続のモチベーションになります。
宜しくお願いします。




