327話 メイキング・オブ・ドラグーン 後段
ども、坊丸です。
親父殿と滝川殿から鉄砲騎馬隊用の鉄砲の改良、銃架付きの鞍の開発、銃剣が装着可能な工夫などの無茶振りを頂いて、数日経ちました。
色々考えはありますが、自分の力では物を生み出せないので、職人さん達に招集をかけます。
騎馬鉄砲隊の隊員候補にして鍛冶師の加藤さん。
木工関係といえばとりあえず、この人、福島さん。
さすがに馬の鞍は福島さんでも細かいところはわからないということで、福島さんの知り合いの馬具職人さんも来ていただきました。鞍屋の藤兵衛さんです。パチパチパチ。
馬具や銃剣の使い勝手の参考に使い手側の意見も聞かないと駄目かな?っていうので親父殿に誰が人を…って、頼んだら、吉田玄久さんがアドバイザーとして参加することになりました!
玄久さん、親父殿や吉田次兵衛は忙しいからって、お前やっとけ!って感じで、仕事を丸投げされたらしいんですよ。酷いね。
ま、信長伯父さんから仕事を振られるときは自分も似たような感じですからね。この時代はこれがデフォルトなんでしょう。きっと、たぶん。
「えっと、皆さん、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。とりあえず、福島さん。鞍職人の藤兵衛さんを皆さんにご紹介を」
「こいつが、鞍職人の藤兵衛だ。木工関連で時々取引したりしている。よろしくな。藤兵衛も挨拶しとけ」
そう言うと、藤兵衛さんの方を見て挨拶を促す福島さん。
「どうも。鞍屋の藤兵衛だ。、いや、です。うちは、木工で鞍を組むところまでやっている。漆を塗ったり、螺鈿細工をしたりするような丁寧な仕上げは、別の職人がやっているから、そこいらは。
なので、仕上げの部分は聞かないでくれ。
とりあえず、宜しく頼む」
そう言うと、頭を下げる藤兵衛さん。朴訥な職人さんぽいです。
丁寧な仕上げの鞍ねぇ~。
こっちの時間線に来る前、博物館で見るような鞍にはメチャメチャ丁寧に黒漆と螺鈿で仕上げられてましたからね。たぶんそう言うのを言ってるのかな?
こっちの時間線では、ほとんどの鞍は素朴な木組みの実用性一点ばりの物がほとんどで、柴田家にも黒漆で仕上げられた伝統工芸品みたいな綺麗な鞍は親父殿専用のが一つあるだけですからね。
博物館にあるような螺鈿細工に蒔絵まであるような鞍はそんなに持ってる人いないんでしょうね。
そんな話をしていると、藤兵衛さんが素組の鞍を出してきました。
「で、坊丸様。火縄銃を乗せる台ってのはどういうふうにつけるおつもりなので?」
福島さんが鞍を触りながら聞いてきます。
「前の立ってる部分に引っ掛けるかんじで。前後を渡している部分の少し前に出っ張っているところに乗せるようにしたいです」
「前の立ってる部分でなくて、前輪な。前後を渡している部分は居木、少し前に出ているところは居木先だな。
おい、市兵衛。この小僧、大丈夫か?鞍の改良とやらをやるってのに、鞍の各部位の名前も知らねぇぞ」
「小僧ではない。坊丸様だ」
ムッとした感じで加藤さんが言います。
「まぁまぁ。坊丸は、武家の子息なのに、まぁ、少し知識が偏っていてな。変な知識はたくさんあるし、知恵も回るのだが、馬具の名前などは得意ではないのだ。なぁ、そうだな、坊丸」
玄久さん、なんか、全然フォローになってないんですけど…。
「まぁ、そういうことらしいです」
藤兵衛さん以外がウンウンうなづいて納得しているのが少し気になりますが、まぁ、それで納得してくれるなら、それでいいです。
「ちなみに、こんな感じで…」
さらさらと図面を書いてみると、みんなしげしげと見つめると、色々意見が出始めます。
「鞍ごと新しく作るよりは、既にある鞍に付属するようにしたいです」
「確かにその方が、新しい鞍を作らんでよいか…」
「馬具を組み合わせる紐を前輪の上から洲浜を通して銃を置く台とやらを固定すれば…」
ウンウン、みんなで議論しながら物を作るのって良いよね。
「あ、ただ銃を置くだけだと落ちるかもしれないから鉤爪状の部品を作って挟む感じにしたいです。こんな感じで軸を通して上げ下げ出来るようにしたいんです」
と、図面にイメージを書きつけてみる。
「ということは…」
「降ろすのと、跳ね上げるのをできるだけ一度に出来るように…」
「ところで坊丸様。ここに置くとすると、短銃身の火縄銃はどれほどの長さにするおつもりで」
お、加藤さん、核心的な事を聞いてくるね。
「鞍から左右に少しづつはみ出す感じにするので、二尺五寸から七寸(約75センチ〜81センチ)くらいですかね。銃床を短めにして、銃身は一尺五寸から七寸(約45センチ〜51センチ)くらいは欲しいですね」
「分かりました。織田筒ならば、その長さでもそれなりに命中精度を出せるかとは思います。銃剣、銃槍とやらはどう着けるのでしょうか?」
「刀の目釘穴と同じ様にしようかと。茎に当たる部分の目釘穴を長さを決めて弐箇所あけるようします。そこにあうように銃身の左側に目釘代わりの突起を作れば止められると思うんですよね」
「ふむ、それならば最低限の変化と重量の増加で済みまするな」
「試作が終わったら見せてくれ。ぶれたり外れたりしないか、俺が試してやる」
制作者目線、鉄砲撃ち目線の加藤さんと槍として使えるか確認したい玄久さん。視点が違うのが面白いですな。
そういえば、鉄砲騎馬隊ってヨーロッパだと「竜騎兵隊」って言うんだよね。
たしか、銃身に龍の飾りがあったかららしいけど。
パクリたいけど、銃身に無駄な飾りをつけて重くしたくないしなぁ。
あ、銃床は木でできているからね、そこに龍の焼印を入れてもらおうかな。
あと、「竜騎一番隊」っていう焼印も作ってもらおうっと。
こう言うわかりやすい格好良さで、騎馬鉄砲隊に若衆や中間の人達を惹きつけられるといいんだけど。
ちょっと厨二病っぽいかなぁ?
いや、傾奇者の先駆けってことにしとこう!うん、そう思い込もう!
あ、加藤さん、追加でこんな感じの焼印も作って!
馬具の鞍のうち、日本式の鞍を和鞍と言います。唐鞍、移鞍、大和鞍、軍陣鞍、水引鞍に分かれます。
この話では大和鞍、軍陣鞍をベースに話を書いています。
短銃身の火縄銃の長さの決定については、鞍のサイズ、木曽馬のサイズを参考にして決めました。
鞍のサイズについては文化財オンラインの大和鞍各種のサイズを、木曽馬のサイズは「信州大学農学部紀要」1984年7月の「木曽馬の体型調査について」辻井弘忠らの論文を参考にさせていただきました。
ちなみに、一般的な火縄銃のサイズは133センチ前後(四尺四寸)、銃身は100センチ前後(三尺三寸)のようです。
調べた内容の数%しか本文中に差し込めなかったので、後書きで少しでも披露してやろうとおもうのが衒学趣味の人の悪い癖。
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