321話 佐久間盛次邸にて 前段
ども、坊丸です。
今日は、佐久間盛次殿のお屋敷に柴田の親父殿、吉田次兵衛さんに連れられて来ております。
まぁ、小牧山城の重臣格の屋敷が並ぶエリアに佐久間盛次殿のお屋敷もあるので、大手門からの坂道を挟んで斜向かいに訪問しているだけなんですが。
あ、近くてもキチンと先触れは出してあるそうですよ。さすがは次兵衛さん、仕事が丁寧ですね~。
「たのもう〜。柴田勝家とその一党、盛次殿の犬山城城主就任のお祝いに参った」
うん、柴田の親父殿。そんなに大きな声を出さなくても分かるから、ね。
佐久間さんちの門番役の中間の方がすぐに奥に取り次いでくれたので、速やかに広間に到着。
あ、なんか賑やかに懇談しておりますな。
って、佐々成政殿が既にきてますね。
ん?アルコールくさくね?
上座に佐久間盛次殿が、その左右にたぶん家宰格、重臣数名もいらっしゃいますね。
みんなの前に膳と徳利、杯が出てますから、既に宴会モードですね、これ。
体は子供の自分は、どうせ呑めないから既に帰りたい気持ちがムクムクと湧き上がっております。
ま、顔には出さないけどねぇ〜。
「おお、権六殿!次兵衛!それに坊丸もか!はようこっちに来て座れ!」
盛次殿が酔っているせいでだいぶ砕けておられますな。
普段は真面目なかんじでどんなときも礼節を大切にする感じのキャラなんですが。
「では、失礼するぞ」
「「失礼します」」
佐々成政殿が、すこし動いて、盛次殿の正面に当たる場所を柴田の親父殿に譲ります。
流石に、佐々成政殿に気を使って、次兵衛さんは親父殿の斜め後ろに座る様子なので、自分もそれに倣って、っと。
「佐久間盛次殿、此度の犬山城城主就任、おめでとうございます」
「「おめでとうございまする」」
柴田の親父殿の言葉と礼に合わせて一礼。
「城主就任にあたり、色々とご入用と思い、ささやかながら祝の品をお持ちしました。次兵衛、頼む」
「はっ、すぐに使える様にと考え、金子と米を準備しました。それに当家所蔵の関の名刀を一振り。目録にございます。後日、お届けに上がりますので、宜しくお願い致しまする」
そう言うと、懐から目録を取り出し、立ち上がって佐久間家の重臣の人に渡す次兵衛さん。
それを受け取った家臣の方が確認して、盛次殿に取り次ぎます。
さっと目を通して、目録を家臣の方に返す盛次殿。
「権六殿。気づかいありがたし。
城主となったのはありがたいが、犬山城はなかなかに酷い状態でな。
正直、城の修繕、街の復興、なんやかんやで物入りでな。金子と兵糧はいくらあってもありがたいものであるからな。
そうそう、皆の者、権六のところの家宰、吉田次兵衛殿は大体のものが知ってろうな。その隣に居るのが、津田坊丸殿よ、皆、見知り置くが良い」
今まで、佐久間家家中の方々からこの小僧なんだ?なんで居るんだ?という視線を向けられていましたが、わざわざ主君から紹介されたので、少し雰囲気が変わりましたね。
あ、吉田次兵衛さんがチラッとこっち見たから、これは自己紹介する流れですね。
「はっ。佐久間盛次様にはわざわざわのご紹介、ありがたく存じまする。織田信行が一子、津田坊丸にござりまする。今は柴田勝家様の預かりの身なれど、織田家ご嫡男奇妙丸様の小姓等も務めさせて頂いておりまする。以後、見知り置きの程、宜しくお願い致しまする」
って、ここで仰々しく一礼っと。
頭を下げたままで居ると佐久間家家臣の方々の方から、『信行様の忘れがたみ…』とか、『奇妙丸の小姓だと…』『直臣か…』などのつぶやきが漏れ聞こえますが、ここは聞き流しておきますよ。
「坊丸殿、どうする?奥に行って理助たちと遊んでいてもよいのだぞ?」
「いえ、本日は佐久間盛次様の犬山城城主就任のお祝いに来ておりますれば、今しばらくは同席致したく」
「あいわかった。しかし、坊丸殿は聡いな。元服前の童と話している気がせぬわ。理助や久六とは、ちと、違うかの」
「柴田様、吉田次兵衛様、政秀寺の虎哉禅師のご指導のお陰にございます」
「信行様の一件があったにも関わらず、殿が気に入る訳よな。浮野の後、末森での問答の際はたまげたものよ」
あ、あの場にいたんすね、盛次殿。あれは、一世一代の大勝負みたいなもんでしたから。
「あの時は、命懸けでございましたので。なれど、伯父上に忠義を尽くす思いと天下人になっていただく気持ちはいささかも変わってはおりませぬ」
「あの折は、この童、何を言っておるのか?と思ったがなぁ。信長様は、今や尾張をほぼ統べた。いずれ美濃斎藤家を攻めたてて、屈伏させるであろうしな。濃尾二カ国の主とならば、天下人も見えてくるか…」
「坊丸は、そうなると確信しております」
って、そうなるの知ってるからね。本来の時間線での流れも「信長公記」の知識で確認可能だし。
「盛次殿、今日はそなたの城主就任の祝いじゃ。坊丸の話、脇に置いておこうぞ」
そっすね、柴田の親父殿の言う通りなので、自分絡みの話はおしまいにしましょうよ、ね。
この佐久間邸での話は一話にまとめるつもりだったんですが…
佐久間盛次さんが予想以上に勝手に動きだしました。困ったことです。
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