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314話 加藤さんの診察と張機仲景

またまた、時間が空いてしまいました。なかなか、執筆時間とモチベーションのバランスが悪くて書き進められません。

ども、坊丸です。

政秀寺から小牧山城はそんなに遠くないのに、雲水の如き旅装に身を包んだ虎哉禅師に少し呆れながら、加藤さんのお宅を案内いたしております坊丸です。


先触れを寺男の人に頼んだんですが、自分の旅装ができた途端動き出す虎哉禅師。


先触れの意味わかってんのか?師父殿?


加藤さんから見ると、一応、坊丸君、主君なんだよ?先触れ必要なんだよ?


信長伯父さんといい、虎哉禅師といい、フリーダム過ぎるだろ。

真面目に先触れ出して、時間調整してから訪問している自分が馬鹿みたいじゃん。


はい、そんなわけで、小牧山城の城下町手前、数町のところで先触れに出した寺男さんと予定通りすれ違いました。


なんであんたらこんな所いるの?寺で待ってなかったの?みたいな顔をされましたが、それは師父殿のせいなので、自分のせいではないと強く訴えたい。


先触れの後の時間的余裕が少なめだけど大丈夫かなぁ〜、などと思いながら歩いていくと程なく加藤さんのお宅に到着。


「たのもぉ〜。政秀寺が副住職、虎哉宗乙とその弟子、津田坊丸でござる。加藤清忠殿が病と伺い、診察に馳せ参じた次第にて候」


あ、そんな感じで声かけるんだ、虎哉禅師。


「はっ、はい。お二方、お待ちしておりました。お早いおつきでございましたね」


ほら、伊都さん予想より早く来たから、明らかに焦ってるじゃん。


「伊都殿、度々申し訳ない。師父の虎哉禅師が医薬の心得ありとお聞きいたしましたので、清忠殿の診察をお願い致しました。宜しくお願いします」


「あ、はい。坊丸様にはうちの亭主の事を重ね重ね気にかけていただいてありがとうございます。そして、こちらが虎哉禅師様ですね。今日は宜しくお願い致します。ささ、どうぞ、こちらへ」


深々と頭を下げた伊都さん。そして、伊都さんの案内で加藤さんの寝所に通されるわけで。

で、挨拶もそこそこに、すぐに診察に取り掛かる虎哉禅師。


脈診て、舌診て、腹部の触診して。って、漢方医の診察全部きちんとやっとる感じ。

数日から十日くらいの永田徳本先生の診察や治療を見取りしただけでそこそこできちゃう、虎哉禅師って、凄え。

虎哉禅師って、やっぱり地頭(じあたま)がいいんだと思う。


そんな事を思いながら様子を見ていると、問診に移行。


「では、高い熱は無くなったが、咳と汚い痰が続くのだな。他にはどうじゃ」


「咳のため、体力がみるみる落ちております。咳のために、食事もままなりませぬ」


「うむ。で、そうあるか。すまんが、生薬の持ち合わせがないので、今は薬をすぐには渡せぬ。一度、寺に戻り、薬を調合した上で、こちらに持たせる。お代は、坊丸持ちでよいのだよな。のぉ、坊丸」


普段見せないような笑顔を向けてくるな、虎哉禅師。

ぼったくりはやめてくださいよ?


「はっ。加藤さんの健康のためならば、坊丸の支払いにて異存ございません」


かしこまって答えておくとしますか。


「坊丸様。この御恩は決して忘れませぬ」


そう言うと、布団の上で居住まいをただし、深々と頭を下げてくる加藤さん。


「加藤さん、面を上げて下さい。まだ、治ったわけではないのです。治った後、これまでと同様にこの坊丸を支えてくれればそれでよいのです」


「有り難き幸せ。病を克服した後は、今までと同様に、いや、今まで以上に坊丸様のお力になれるよう励みまする」


再び頭を下げる加藤さん。感動し過ぎだって。そんなに頭を下げられるとこっちが困っちゃうから、ねぇ。


で、そんなやり取りをした後、政秀寺に戻る事になりました。

自分も診断や生薬の配合などを見たい、後学のため等と言って、虎哉禅師についていきます。

まぁ、本当のところは虎哉禅師の診断に口出しする気満々なんですがね。


政秀寺に戻ると、虎哉禅師のお部屋に直行。

虎哉禅師は、柳行李から書き付けの束を大事そうに出してきました。きっと永田徳本先生の処で記録したメモの束なんだろうな。

それを見ながらからブツブツ言っておりますな。


「まずは、加藤殿の証じゃな。もともとはかなり体力のある様子だが、胸の傷と今回の病でだいぶ消耗しているから…」


「実証とするか、中間証とするか、でございますね」


自分の言葉を聞いて、目を丸くしてこちらを見てくる虎哉禅師。やだな、そんなに見つめないでくださいよ。


「坊丸。そなた、どこで医薬のことを習った」


あ、そういうことね。

子供がなんで医薬の知識があるのか?と不審がって訊ねておられる、と。


ハッハッハ。これは、やっちまったやつですね。

いつものように、やっちまったなぁ〜。


さて、どうやって、誤魔化そうか。

流石に、今は亡き信行パパの蔵書ってわけにもいかんだろうしね。どうしたもんかなぁ〜。


うん、困った時は夢枕作戦ですね。

令和の人だとオカルト扱いだけど、戦国時代の人はピュアなのか、夢枕に立った神仏のお告げは信じてもらえるからね。


「実は先日、加藤さんの家から戻った後に、神仏に病気平癒の祈願をしていたところ、薬師如来よりお告げがあり『7日の期間、毎日祈れば、知識を授ける』と。そう言われたので、毎日寝る前に欠かさず祈ったところ、夢枕に道士服のご老人が現れました。何を言っているか言葉はわかりませんでしたが、頭の中にその人のことばがひろがりました。

そして、その方は自分のことを語りました『張機 字を仲景。漢王朝に仕え、市井に下ってからは一族の病を癒すのに残りの人生を捧げた者だ』と」


うん、傷寒論の張仲景が薬師如来の使者として来てくれた、と。

どうよ、このカバーストーリー。


「なっ!医聖たる張仲景が夢枕に立っただと!」


あれ?もしかして、もっとだめだった?こりゃまた、やっちまった、かな?

張機 仲景


一般には張仲景で知られる。後漢末期の人。建安年間に長沙の太守を務める。

一族が当時の流行り病「傷寒」にて数多く亡くなったため、官を辞したあとは一族の張伯祖より学んだ医学を以て治療にあたる。その時の記録が「傷寒雑病論」であり、現在の漢方医学、中医学の基礎になっている。これらの功績を以て「医聖」と称えられている。

字から察するに次男のはず。


その他の詳細は、ウィキペディア様などをご参照ください。 


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