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308話 加藤清忠、病臥す

しばらく間隔があきましたが、再開です。この後のお話しのネタ探しや裏取に時間がかかりすぎました。あと、本業の人事関係のことでだいぶ時間がとられました。

ども、坊丸です。


犬山城の北東、寂光院に敷いた陣から一時帰宅した柴田勝定、中村文荷斎が柴田の屋敷に挨拶に来ました。

メインで兵糧攻めをしている丹羽長秀殿、佐久間信盛殿、佐久間盛次殿の支援みたいな役割ですが、柴田の親父殿はだいぶ張り切っているらしく、木曽街道、善師野方面から兵糧入れしている寺々を焼き討ちした御様子。がんばれ~、親父殿。


そんななか、交代の面々のなかに、加藤さんもいるとのこと。

ただ、以前の古傷があるなかだいぶ無理をしたのでしょうか?

咳をしていたので、柴田の屋敷には顔を出さずにすぐに休養に入ったとのことでした。


一日二日経てば、元気になって顔を見せてくれるかな?と思っていましたが、はや五日。


十一月に入り、冷たい風が吹くようになり、加藤さんの体調は大丈夫かとさすがに心配になるわけです。


加藤清忠殿は、小牧山城城下に引っ越してきたのは知っていましたが、いままでほぼ毎日柴田の屋敷に顔を出してくれていたので、城下の何処に住んでいるか知らないという事実に初めて気づく、今日このごろ。


一応、部下な訳だし本当はもっと把握してないといけないものでしょうか?

転生前でも部下とかいたこととか無いから知らんけど。


そんなわけで、加藤さんの住まいについてお滝さんやお妙さん、桃花さんに聞いてみる事に。


って、何故か一番新参の桃花さんが詳細な場所を知っているとのこと。


あ、もしかして、鉄砲関連の重要人物として住所などの個人情報がしっかり把握されてましたか?加藤さん。

そして、仕事してますね、桃花さん。


住所がわかったので、すぐに出発しようとしたら、お妙さんから止められました。


一応とはいえ主君になるんだから、いきなり加藤さんのお家に押しかけるように行ってはいけないそうです。


柴田家の中間にひとっ走り先触れに行ってもらい、その後で出発することに。


で、四半刻ほど体に良さそうな蜂蜜をお土産に持っていく準備したりしてキルタイム

しました。

生駒屋敷で先触れとほぼ同時に到着した信長伯父さんと同じ事はしないようにしないとね、ハハハ。


一人で行くのは駄目って話になり、護衛と案内を兼ねて桃花さんが同行してくれることになりました。


小牧山を下って大手門から直臣の方々の住まうエリアを抜けて、っと。


小牧山城の城下は結構きちんと区画が割り振られていて、京都みたいな碁盤の目状になっています。


大手門から真っ直ぐの大手通に平行する様に左右に三本、直交するように太めの道数本と細めの道がたくさん。

東西は十町、南北十二町と聞いてますから、東西1キロちょい、南北十1.3キロくらいというところでしょうか。


直臣のエリアから南西に少し行ったところに加藤さんのお宅が。


「加藤殿のお宅はこちらになります」


「はい。じゃ、ありがとうございました。帰りは一人で帰れるんで」


そう言うと困った顔をする桃花さん。

うん、いつも頑張って澄ました感じが多い桃花さん、その困った顔は素が見えた感じがして少しかわいいですよ。


「今は坊丸様の護衛も兼ねておりますので、それは困ります。それにこちらの蜂蜜もお渡ししませんと」


「あっ、そうでしたね。じゃ、一緒に」


「はい」


少しほっとした顔の桃花さん。そして、玄関にて来訪した旨を告げてくれました。

今は陪臣とはいえ武士なんですが、さすがに、少し前まで鍛冶屋さんなので、門番役の中間さんとか雇えないわけです。なので、普通に玄関から声がけ。


桃花さんが声をかけると加藤さんの奥さん、伊都さんがすぐに玄関まで来ました。


「これはこれは、坊丸様。わざわざお見舞いいただき、痛み入ります。狭苦しい家ですが、どうぞお上がりください」


って、鍛冶場も兼ねていた前のお宅よりスッキリ片付いているし、広いけどね。

履物を脱いで上がろうとしたら、桃花さんに止められました。何すんの、早く上がろうよ。加藤さんのお見舞いなんだから、様子確認しないと。


「坊丸様、まずは手土産を」


あ、そういうことね。ごめんなさい。


「伊都さん、こちらは石田村から柴田家に納められる蜂蜜です。賽の目に切った大根を漬け込んで、薄まった汁を飲むと咳や喉痛に良いとされますから加藤さんに作ってあげてください。あ、夜叉若くんは何歳でしたっけ?小さい子はハチミツ食べないほうが良かったはずだから」


「これは貴重なものをありがとうございます。夜叉若は、数えで三つになりました」


ってことは満で数えると二歳頃かな。なら、大丈夫だな。


「そうですね。乳飲み子でなければ蜂蜜も大丈夫なはずだから、夜叉若くんも蜂蜜食べても大丈夫そうですね。ま、まずは清忠さんに先ほど説明した汁を飲ませてあげてください。漬け込んだ大根もしばらくすると甘さが染みて美味しく食べられるはずですよ」


「わざわざ、うちの(ひと)の為にありがとうございます。しかも、咳に効くものを持って来ていただけるなんて、本当に痛み入ります」


蜂蜜の入った小壺を押しいただいて感謝してくれる伊都さん。うん、蜂蜜、持ってきて良かった。


一度、蜂蜜の小壺を台所の方に置きに行った伊都さんが加藤さんのところに案内してくれました。


布団から体を起こした加藤さんがそこには居ました。

すこし頬がこけ、一時よりも痩せてしまった様子の加藤さんが。


「これはこれは、坊丸様。お見舞い、痛み入ります。本来であれば、寂光院から引き揚げできた時にご挨拶すべきだったのですが、当日は熱もあり、ご挨拶できませんでした。ゴホッ。申し訳ござませんでした」


加藤さんの言葉には、コンコンという咳と時に重いゴホッという咳がまじります。咳が多くて辛そうだ。


「加藤さん、だいぶ痩せてしまった様ですが、大丈夫ですか?」


「はっ。大丈夫、と言いたいところですが、あまり芳しくはありませぬ。今も時々、熱が出る様子ですし、それよりも辛いのは痰が絡んだ咳がひっきりなしに…ゴホッ。申し訳ありません」


「あなた。坊丸様より蜂蜜をいただきましたよ。咳に効くのだそうよ」


「重ね重ね、ご配慮ありがとうございます、坊丸様。ゴホッ。今少し養生しましたら出仕したす所存。まことに申し訳ござりませぬ」


そういうと布団の上で身を正して両手をついて頭を下げる加藤さん。

やっぱり体調は良くなさそうです。


「まずはしっかり療養して下さい。加藤さんは自分が城持ち大名になったら一番家老になってもらうんですからね。こんな病に負けないでくださいよ」


「はっはっは。そうですな、早く良くなって坊丸様と一緒に功をあげませぬとな」


そういって笑ってくれますが、いつもより力のない微笑み。胸郭に古傷があり、呼吸機能が弱めだからね、加藤さん。


症状からすると気管支炎か軽い肺炎だろうけど…。抗生物質もない戦国時代、本人の体力と免疫力で治してもらうしかないのか…。

くそっ。転生前の知識があっても、感染症の前に自分は無力だ…。




蜂蜜と大根のシロップは江戸時代には記録がある民間療法のようです。ちょっとだけ時代が早い感じでしょうか。

昭和時代にはおばあちゃんが冬になると作り始めたりするもんでした。そして咳をすると冷蔵庫から出てくる大根のはちみつ漬け。

同様に咳をしたら、缶に入った粉の龍角散を付属のプラスティックの小匙で飲まされたもんです。今は龍角散ダイレクトとか龍角散のど飴になってだいぶ服用し易くなりましたよね。


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