305話 犬山城攻め 火付けと包囲と反感と
ども、坊丸です。
永禄七年 秋になりました。犬山城はまだ落ちていません。
城攻め=力攻めの信長伯父さんには珍しく、包囲しての兵糧攻めを選択したとのことです。
力攻めなら、追加兵力が必要になって自分も活躍の場があると思っていた柴田の親父殿にとっては残念な選択らしく、今回は出番がなさそうだとぼやいておりました。
自分としては、柴田家家中のみんなが戦に行かなくて済むわけで、柴田家の面々の戦死の確率が減るならば、それはそれで嬉しいわけです。
ですが、そんなことを口にしようものなら、「武士は戦場で散ってこそ華」とか、「常在戦場、死を恐れる様なことは申すで無い」とか怒られるに決まっているんですよね。ハハハ。
そんなわけで、無駄に怒られるのも嫌なので、夕食時に酒を呑んでは「戦に出れない、呼ばれない」と愚痴る親父殿に「戦場に出れば親父殿が一番戦功をあげるはずです」と「親父殿の槍働きする姿を自分も見たいものです」とか適当なことを言って、うんうん頷いておきます。
どうです。坊丸くんも少しは戦国時代になじんで大人の対応ができるようになったでしょう?
まぁ、そういうわけで口には出さないけれども、柴田家が戦に駆り出されないなら、それはそれで良いじゃん!と、そんな風に思ってた時もありました。ありましたよ、ええ。
ほら、ちょっとしたきっかけで潮目が変わることってあるじゃあないですか。
うん、今回はね、信長伯父さんがやっぱり包囲戦や兵糧攻めにしびれを切らしたのが悪いんだと思うんですよ。
具体的にいうと、犬山城の城下町に火をつけました。
めちゃくちゃ広い範囲を焼き払ったそうです。城下を焼くことで敵にプレッシャーを与えたり、城下での兵の移動を明視下におけるようになったり、籠城方の拠点を焼き潰したりと、放火は戦術的には効果が大きいのはわかります。わかるんですが…。
そこに住んでる人のことを考えるとね…。つらいよね…。木造家屋は良く燃えるからね…。家を失って焼きだされるよね…。
悲しいけど、これって戦なのよね…、って犬山の方々が納得してくれるはずもなく、犬山の古刹、臨済宗妙心寺派の瑞泉寺をはじめとする妙心寺派の僧侶の方々が猛反発し始めたそうです。
はい、そんなわけで、当初は中立的だった瑞泉寺をはじめとする犬山の臨済宗の寺院が軒並み、信長伯父さんのやり方に反発して、犬山織田の味方になりました。
やったね、信長伯父さん。こういうのを自業自得っていうんだよね、きっと。
で、こまった信長伯父さんは、政秀寺の沢彦禅師、自分の師父の虎哉禅師を瑞泉寺などに派遣して説得を試みたが、無駄だったようです。
怒りに我を忘れて、話に聞く耳を持たない僧侶って、悟りの境地から遥か遠くにいると思うんですけど、皆さん、どう思います?
しばらく前に、虎哉禅師から仏教における三毒「貪瞋痴」の講話を聴かせていただいたんですが。気を付けるべき三つの煩悩のうち「瞋」こと「瞋恚」は怒りをさすと聞いた記憶が…。
犬山織田の味方になると決めた各寺院の僧侶の方々が、丹羽殿、両佐久間殿の包囲の目を盗んで食料やら物資やらを犬山城内に供給し始めちゃったらしいのです。
あ、ちなみに、犬山城はすぐ北側に木曽川がありそこから水堀をとっているし、城の北側に取水口として水之手曲輪、水之手櫓というのがあるらしいので水が無くて干上がることは考えづらいと治兵衛さんが言ってました。
ちなみに、各寺院の方々は、織田家の包囲の一番手薄な木曽街道の善師野宿方面から食料などを運び入れてるらしいとのこと。
どうにかそのルートを潰さないといけないということになり、現時点で出陣していない武将で、その任にあたれるのは誰かという話になったところ、白羽の矢が立ったのが柴田の親父殿。
いやはや、全くゲリラ的な活動をしている地元の寺院を取り締まるってのは、なかなかに恨みを買いそうな嫌な役割だと思うわけです。
が、親父殿は軍功を上げる機会が巡ってきたと、喜んでいるようですが。
ちなみに虎哉禅師によると、善師野地区には善徳寺を始めとして臨済宗妙心寺派の寺院が複数あるそうです。
複数の地元寺院を見張ったり取り締まったりするのは大変だと思うけどなぁ。
翌日、自分の勉学の送り迎えと称して何故か政秀寺に同行する柴田の親父殿。
沢彦禅師と虎哉禅師に日頃自分の勉学を見てもらっているお礼を言いに行くとか言ってますが、明らかに宗教方面の知恵を借りに行くんですよね?親父殿?
清須城の時と違って小牧山城から政秀寺は距離が近いので徒歩で四半刻もかからずに到着です。
政秀寺の山門を二人でくぐり、本堂の方に歩いていくと、寺男と宗尋さんが境内の掃除をしておりました。
「宗尋さん、おはようございます」
「坊丸殿、おはようございます。本日は柴田様もご同道ですか。なんぞ、ございましたか?」
箒を手に穏やかに微笑んで挨拶をした後、すこし首をかしげる宗尋殿。
「無沙汰申しております、宗尋殿。本日は、沢彦禅師に折り入って相談したいことがございました故、参上いたしました。禅師にお目通り叶いましょうや?」
「はい、禅師は瑞泉寺の住職に手紙を書くと申しておりましたので、そちらが終われば、面会は可能かと存じます」
あ、そのお手紙って、親父殿が訪問するきっかけになった事案と同じ用件ですよ、きっと。
「さようか。では、面会いたしたいので、禅師にそれがしが訪れていることをことづけ願えまいか?」
「わかりました。では、拙僧は禅師に話してまいります。柴田様は本堂の方でお待ちを。坊丸様は、虎哉禅師と学びの時間ですね。虎哉禅師は自室におられますので、途中まで一緒に参りましょう」
虎哉禅師と自分も沢彦禅師と親父殿のお話しに巻き込まれるかと思ったけど、別口になる感じですか。
沢彦禅師と親父殿のお話し、聞きたかったような、聞きたくなかったような。
火付け盗賊改め方の話とか、第二次世界大戦の焼夷弾の話とか火炎旋風の話とか盛り込もうとしましたが、蛇足感が半端ない仕上がりになったので、割愛しました。
少しでも「面白い!」「続きが気になる」と思った方は、下の★でご評価いただけると、作品継続のモチベーションになります。
宜しくお願いします。




