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295話 生駒屋敷にて 菓子膳の前に無茶振りが

ども、坊丸です。

桃花さんにお桂殿に今回の生駒屋敷訪問の情報を渡したかどう確認するだけのはずが、めっちゃ詰問してしまいました。やっちまったなぁ。でも、一度口から出た言葉は戻らないからね。覆水盆に返らずってやつです。


ま、忍びだし。あれくらいの精神攻撃に耐えられないことはないでしょ、きっと。

とりあえず、生駒家長殿と親父殿に膳を出しましょうか。


「坊丸、戻りました。菓子膳は今しばらくお待ちを。まずは生駒殿と親父殿に些少ではありますが、伯父上と吉乃殿にお出ししたものをお持ちいたしました」


「おお、有り難し」

「坊丸、すまんな。屋敷で振る舞ってもらっても良かったのだが」

「いえ、本来の予定では生駒殿に召し上がっていただき、吉乃殿の療養にご理解いただきたく考えておりましたので、これくらいはさせていただきたく」


二人の膳は本来の予定よりも少ない、本当に数口分しかない試食レベルの量なので本当に申し訳ないのですが…。あ、信長伯父さんは食べ終わって手持ち無沙汰ですね。吉乃殿はプランマー・ビンソン症候群に至っているから舌炎・口内炎が多発している影響かもともとおちょぼ口でたべるのか、まだ残っておりますな。ときどき、吉乃殿の方を見て気にしている様子の信長伯父さんがすこし微笑ましいですな。


「坊丸、療養のためとの食事だと聞いていたので、薬のようなものをが出るかと思っていたが、美味かった。まぁ、もうすこしガツンとしたものが食いたいな」


あのぉ~。信長伯父さん?療養膳の意味わかってます?まぁ、主君の希望なので対応しますけど。


「伯父上の希望とあらば、対応いたします。いたしますが、宜しいので?」


「宜しいか?とはどういうことだ?準備できるなら致せ」


「承りました。では、今一度台所に戻ります」


はぁ~。また、無茶振り来たよ。さて、どうするかな。ガツンとしたものって言われてもあいまいなんだよなぁ~。一応、腹案はあるけどさぁ。


「坊丸です。お滝さん。伯父上からもっとガツンとしたものを喰いたいと言われました」


「はぁ!これから菓子膳だろ。だいたい準備できたからこれから出すところだったのに、今からなにか作るのかい?どうするんだい、坊丸様!」


「考えてあります。今から全く別物を作るのは無理ですから、今まで作ったものを改良します。鴨の肝を揚げた揚げ油残ってます?後、大蒜(にんにく)って持ってきてましたっけ?カツオは?」


「全部、あるよ。でも、大蒜と油でどうするんだい」


「カツオのたたきを改良します。今回は、吉乃殿が食べる予定はないので、分厚い刺し身にしてください。香味野菜はそのままで。残った油で薄く切った大蒜を揚げてください」


「幸い、生駒屋敷の台所の衆に揚げ肝と厚揚げの餡掛けを作って見せたばかりだからすぐできるよ。薄く切った大蒜ならすぐにでも揚がるだろうしね」


手早く大蒜を刻んだお滝さんは、少し前まで鴨の肝を揚げていた油の中にそれらを投入。

台所に広がる大蒜の香り。この時代は、大蒜は生臭物扱いされることもあるので、すこし嫌な顔をする女中さんもいますが、今は君命に従っているので、無視させていただきます。


「揚がったよ。これをカツオのたたきに載せれば良いのかい」


「はい、それでお願いします」


「これじゃあ、揚げた大蒜が加わっただけでさほど変化がないように見えるけど、大丈夫かい、坊丸様」


「揚げた油も料理に使います。膳を出す直前まで熱していてください。それと、熱した油を入れる小さめの壺を準備してください。伯父上の眼の前でその熱した油をカツオのたたきにかけて完成させます。桃花さん!いつまでも凹んでないで手伝ってください。伯父上は桃花さんの素性を知っているだろうから、一番問題にならずに最後の作業ができるのは貴方なんですから!」


「は、はい。わかりました。手順を教えていただきたく存じます」


なんか、桃花さんが自分に対してすこし余所余所しくなっちまったけど、まぁ、仕方ないか。

明日、お桂殿の元に逃げ帰っても構わないけど、今は柴田の屋敷の女中さんですからね、つかわせていただきますよ。


「生駒屋敷の女中さんにカツオのたたきを伯父上の前まで運んでもらいます。桃花さんは熱した油の入った小壺をもって一緒に伯父上の前まで進んでください。自分が『最後の仕上げをさせていただきます』って言ったら、膳をすこし伯父上から遠ざけてその後に熱した油をカツオのたたきの上にかけてください。くれぐれも油が伯父上の方に跳ねないように気をつけてください、いいですね」


「わかりました。やります。やらせてください」


うん、桃花さんが素直にやってくれるようなので、良かった。良かった。熱した油で火傷のリスクがすこしあるからね。万に一つ、信長伯父さんや吉乃殿に火傷を負わせないようにしないとね。他の女中さんだと、驚いて危ないかもしれないけど、桃花さんならくノ一なんだし、大蒜油の音と匂いにびっくりすることはないでしょう。


「で、どうするんだい、坊丸様。菓子膳と一緒に持っていくのかい、別にするのかい?」


「菓子膳を出した女中さんが台所に戻ったら、カツオのたたきと大蒜油を出してください。お願いします」

カツオのたたきに熱した大蒜油をかける料理は「ののじ」さんという和食とジビエのお店で頂いたことがあるメニューです。

カツオの刺し身に大蒜を薬味につけるはよく見ますが、ガーリックの香りと旨味を移したオイルで目の前でカツオがカツオのたたきになっていく姿は圧巻でした。カツオのたたきとアヒージョのいいとこ取りな上に客の目の前で完成させるパフォーマンス性。舌で、鼻で、目で見て美味しい料理でした。今回は、その料理を思い出しながら書いております。


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