291話 生駒屋敷にて
ども、坊丸です。
スタミナ冷麦の試作が完了したので、生駒屋敷に連絡を取りました。
書状でやり取りをして、日程をきめたわけですが、なんとメイン食材の鴨を生駒家の方で準備してくれるとのことに。
商人と武家の両方の顔を持つ生駒氏なら、手配はこちらで行うより確かに容易かもね。ありがたいことなので、お願いしました。
あと、鰹も使うんですが、そっちは三河屋の三郎さんにどうにかしてもらいましょう。
で、当日。
三郎さんの必死の努力で柴田の屋敷に鰹が届きました。頑張ったね、三郎さん。
そして、玄久さんのお義父さんから豆腐や豆乳も頂き、政秀寺で手に入れた香辛料や夏らしい香味野菜、柚子などを持って生駒屋敷に伺いました。
生駒の本拠地は、小牧山城から北東に一里よりすこし遠いくらい(現代の距離の単位では4~5キロ)にある小折城なんですよね。
柴田の親父殿の引率でお滝さん、桃花さんを伴って訪問し、城門のところで取次をお願いします。
すると、既に周知徹底されていたのか、すぐに表御殿に通されました。そしてそこには、生駒家長殿と吉乃殿、生駒家家臣数名が待ち受けていました。
「柴田殿、津田殿、それとご家中の女子の方々、どうぞお座りください」
「本日は、これなる津田坊丸が吉乃殿に先日の小牧山城披露の際のお詫びを兼ねて病気平癒のためになる食事を振る舞いたいという無茶な要望を聞き届け下さり、ありがとうございます」
そういって着座後、頭を下げる親父殿。
「これ、坊丸。おぬしも頭を下げぬか」
そういうと、自分の頭に手を乗せる親父殿。あ、ここは一緒に頭を下げるタイミングだったんですね。すいませんね。気がつかなくて。
しょうがないので、頭を下げときます。
「生駒殿にはお初にお目にかかります。織田信行が一子、津田坊丸と申します。本日は当方の希望を聞き届けいただきありがとうございます」
「柴田様、坊丸殿。頭をお上げください。妹、吉乃より聞くところによれば、小牧山城のお披露目の際にふらついて倒れたとのこと。
その際に、坊丸殿が率先して介抱してくただいたと聞き及んでおります。妹吉乃ともども、こちらこそ礼を申さねばならないところでござります。
また、いただいた文の内容からは吉乃の病気平癒につながるような食事があるとか。
当家出入りの医師薬師の指示にて手に入る薬はいろいろ試しましたが、妹の体調は徐々に悪くなるばかり。
手を尽くしてもよくなる気配がなくほとほと困り果てておりました。本日はよろしくお願いいたし申す。
して、その病気平癒につながる食事とやらは当家の包丁人にも教えていただけますので?」
「どうなのだ、坊丸?」
「はっ。しからば、お答えさせていただきます。吉乃殿の病は、体をめぐる血に必要な物が足らぬことから起こっていると思われまする。なので、一度の食事で治るものではございませぬ。こちらのお屋敷でも継続的に食べていただき、必要なものを食事から補っていただかねばなりませぬ。
本日は台所をお借りして作りますゆえ、その際に生駒家の台所の方々にも作り方を見て覚えていただく所存にございます。できあがりましたら家長殿、吉乃殿に召し上がっていただき、お口に合うか確認していただく予定にございます」
「だ、そうだ。生駒殿」
「重ねががさね、ご配慮痛み入る。では、この後はいかがいたす?」
「それがしと柴田家包丁人、それとそこな補助役は台所に向かいたく存じます。親父殿はこちらでお待ち頂くことになるかと」
「分かり申した。では、当家の者に台所に案内させまする。門のところでお預かりした食材の入った葛籠は既に台所に運んであり申す。そして我々はここでしばし待ちましょうか、柴田殿」
そういう生駒家長殿のお言葉をうけて我々三人は台所に案内してもらいました。桃花さん、今日は料理人として来てますからね。忍びとして習性になってるでしょうけど、自然な動きのふりをして周囲を観察しないの。全くもう。
で、台所に到着。
戦国時代風スタミナ冷麦を三人で手分けしながらつくって行きます。
さすが生駒のお屋敷。まぁ、平城の小折城なんですがね。柴田の屋敷とは段違いに竈門の数が多いぜ。お陰で並列で色々できるのはありがたいね。
そして、お滝さんが生駒屋敷の包丁人に必要な素材や手順を教えていきます。ありがたい。
あんかけ冷や麦ができたところで、次に考えていたものを作成開始。
カツオの柵を少し炙ってまずはカツオのたたきに。ちなみにこちらも一度試作しておりますが、『せっかく生で食べられるカツオをわざわざ火を入れるなんて!』とお滝さんに言われたことは秘密だ。通常よりも薄めに切ってもらってっと。
その上に、ミョウガ、大葉、細切りの生姜をチラシてっと。で最後に垂れ味噌にゆずの絞り汁をかける。
はい、カツオのたたきのカルパッチョ風です。
病人の吉乃殿でも食べやすいように夏の香味野菜と柚の香りでさっぱりと頂けるカツオのたたきを目指しました。
ん?なんか、門のほうが騒がしいな。何かあったのかな?まぁ、そっちは生駒のお屋敷の方々に任せて、こちらはお料理を完成させていきましょう。
そして、もう一品。麺料理と鴨レバーがどうしても駄目ってときのため、サブの主食系メニューです。
カツオのたたきを作ったときの端切れをよく火を通してっと。
桃花さんと二人でシーチキンみたいに適宜ほぐしにほぐします。
キュウリは小口切り、ミョウガと大葉は少し細かく刻んで、シーチキン状態のカツオを混ぜ混ぜ。
ここに味噌と豆乳を投入。味を整えて、ご飯にぶっかける。
はい、戦国時代風冷や汁完成。
そして余った豆乳に火を加えて、湯で上げ湯葉を作成。そこに、購入後数年寝かせた味醂を少しかける。そこに旬のフルーツである桑の実をトッピング。
完成。湯で上げ生湯葉に数年寝かせた味醂をかけて、さらに桑の実を添えて。
お膳の基本は奇数ですからね。スタミナ冷や麦、カルパッチョ風カツオのたたき、戦国時代風冷や汁を小さめのお椀に盛って頂いて。
えぇっと、吉乃殿、生駒家長殿、二人分を出せるようにすればいいかな…。
あとから、菓子膳として湯で上げ生湯葉をスイーツ風にしたものを出してもらうように手配してっと。
あ、お滝さんは細かいところまで教えるのに台所に残りますか。
で、お膳が出るのに合わせて、生駒屋敷の広間に戻ったんですけどね。
おい、信長、お前なんでここに居る?
あ、いや、もとい。
信長伯父さん、どうしてここにいらっしゃりますか?
スタミナラーメンの話に注力しつつ、他のメニューを出してみました。
いずれも、鉄分の豊富なメニュー。
桑の実は、現在はマイナーな果実ですが、昔は初夏の果実として知られていました。ちなみに鉄分豊富。
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