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285話 火車輪城 信長、心配する

ども、坊丸です。


リハの時から吉乃さんは顔色が悪いなぁ、と思っていたのですが、お披露目会の後に倒れてしまいました。

まぁ、匙状爪と眼瞼結膜の蒼白な感じから鉄欠乏性貧血でフラフラしたんだと思います。


「お桂様、とりあえず吉乃様付きの腰元衆に声をかけて参ります」


と言ってくノ一腰元ツインズが退席。


吉乃殿とお桂殿と自分だけになりました。


「お桂殿、今少し、人が来るまで目をつぶっていただけるとありがたいのですが…」


「はぁ、薬師の真似事をまだやるおつもりですか?」


「そうなります」

そう言ってにっこり微笑むと、諦めた様な笑顔を返すお桂殿。うん、その沈黙と笑顔は了承と受け取りますよ?


「では、吉乃殿、失礼します。この様にふらつくようになったのは、いつからですか?」


「五徳を産んだあとから、ですね。産後の肥立ちが今まで以上に悪く、ふらつくようになりました」


「他に気になることはございますか?」


「最近は、口の中が荒れることが多く、痛みのせいでより一層食が進みませぬ。食事を飲み込むのも苦労することがあります…」


吉乃殿の声がだんだん消え入るような声になって行きます。


うん、口内炎と嚥下障害が出ているってことは、プランマー・ビンソン症候群になってるな、これは。


「薬師、医師はなんと?」


「気虚血虚になっているとこかで、『それを補う様な薬が必要』ということで、処方していただいております」


ま、でしょうね。

この時代の漢方メインの医師が鉄欠乏性貧血について診断治療できるはずもないか…。


たぶん原因は、出産後に十分な栄養、鉄分が摂取出来てないことだな。


女性は経血で定期的に出血する上に、出産時にも出血するからね。

出産を3回繰り返すうちに慢性的な鉄欠乏状態になった、そして、その時の出血分の鉄分がうまく補給できてないのが続いている。

その状態が長期化したのでプランマー・ビンソン症候群になった。

で、口内炎や嚥下障害でよけいに栄養の摂取が悪くなるっていう悪循環だろうね。


鉄分の補給なら、鉄剤がない戦国時代でも、頑張れば可能だから、吉乃殿は治せるかも!いや、奇妙丸様や五徳姫様のためにも治ってもらわなければ!


「吉乃殿、この病は治せるやもしれま」


って、誰か来た。黙っとこ&端に移動しとこ。


「失礼します。吉乃様がこちらにお休みになっていると聞かましたので、参りました」


あ、吉乃殿付きの腰元さん女中さん達だね。これであとは引き継げるかな。とりあえず、黙って後ろに下がっておこう。

あとは、どうやって鉄分の多い食事を吉乃殿に差し上げるからだけど…。


あ、吉乃殿の腰元さん達からお前なんでこんなところに居るんだ?って冷たい視線が!

困ったなぁ。なにか言われる前に退散するか?


「吉乃様は、こちらでお休みです。

ここにいる津田坊丸殿は、私が吉乃殿の介抱する際に人手が足らなかったために手伝いを頼みました。

男ではありますが、童で織田の連枝でもあります。他の男衆に頼むわけにもいかないでしょうから、次善の策としてやむなく頼みました。

そういったわけですから、そう気にせずとも宜しいのですよ」


あ、お桂殿が助け舟を出してくれた。

ここは一つ頭を下げて、やり過ごすことにするか。


って、ドタドタ派手な足音が近づいてくる。

これはきっと…。


「吉乃!倒れたと聞いた!無事か!」


やっぱり、信長伯父さんでしたね。


「殿、わざわざ申し訳ありません。少しふらついて…。今少し休ませていただけば、大丈夫です」


そう言うと、力なく微笑む吉乃殿。

いや、絶対駄目なやつでしょ、それ。


「殿。お方様は、広間より奥御殿に渡る途中でふらついてしまい、その後倒れてしまいました。我が手の者とそこな坊丸殿でお方様をこちらに移し、休んでいただいております」


名前が出たので、部屋の隅で小さく平伏。


「お桂、坊丸。大儀。吉乃、大事無いなら、良い。小牧山は清須より生駒屋敷に近いので、落成の披露目に参加してもらったが…。やはり、体はまだ悪いか。共にこの城で過ごせれば、と思っていたのだがな」


信長伯父さんが愛妾を思う優しい言葉を口にするところを見ちゃったよ。それに、吉乃殿の側で片膝をついて少し悔やんだような残念な様な表情をしている姿も。


「殿。心配をおかけして申し訳ありませぬ…」


「いや、儂の方こそすまぬ。吉乃の体のことを軽く考え、この城に呼んだ儂も悪かった。すまぬ。どうする?今しばらく生駒屋敷にて療養するか?」


「はい…。もし、殿のお許しが得られるなら、今しばらく生駒屋敷にて過ごしたいと思います」


「ん、許す。儂が生駒屋敷に時々行く。それで良い」


そう言うと、吉乃殿の手を取り、じっとその目を見つめる信長伯父さん。

本当に、吉乃殿が好きなんだんなぁ、と分かる瞬間でした。


少し二人で見つめ合ったあった後、吉乃殿がフッと微笑みました。


「殿、生駒屋敷に来る時は、先触れを出してくださいね。いきなりですと、化粧が間に合いませんから」


「あい分かった。生駒屋敷に行く時は先触れを出す。今少し、休め」


そう言うと、こちらを見る信長伯父さん。


「お桂。奇妙の小姓役、重臣の嫡男達を広間に連れていけ。坊丸もお桂とともに行け。残した重臣達との話は終わった故な。吉乃の腰元衆は、吉乃が休むのに必要な品を吉乃の部屋より持って参れ。皆、疾く、行け」


「承りました」「はっ」

「「行ってまいります」」


信長伯父さん、吉乃殿と二人にしろって言うことだろうけど…。言い方が少し回りくどいかな。

まぁ、みんな分かっているとは思うけど、ね。

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