284話 火車輪城にて 吉乃、倒れる
ども、坊丸です。
篝火焚きまくりからの火車輪城という名前の布告&松平との婚約の発表というサプライズ盛り込み過ぎな感じですよね、信長伯父さんは。
そして、五徳姫様の方にすっと左手を出す信長伯父さん。
ん?まだなにかあるの?
五徳姫様がすっと背筋を伸ばしたと思うと、ご挨拶が。
「織田が一に姫、五徳です。松平に嫁ぐことになりました。皆も、よしなに」
「で、あるぞ。皆も見知りおけ。その隣は次男茶筅丸、三男勘八丸だ。合わせて見知りおけ」
って、信長伯父さん、次男三男の紹介、雑ぅぅ。
それでも、その紹介に合わせてすこし頭を下げる二人。
リハではこんなこといってなかった気がするけど?まぁ、よく対応したよね、ふたりとも。
「では、皆のもの。これにて終いじゃ。火車輪城の篝火、帰り際、存分に楽しんで行け」
そう言うと、すっと立ち上がって広間からはける信長伯父さん。
それにつきしたがう帰蝶様と吉乃殿。
なんか、吉乃殿、立ち上がる時きつそうだったぞ。少しふらついてみえた。そう言えば、今日挨拶に伺ったときも顔色が蒼白い感じだったしなぁ。体調、大丈夫か?
まぁ、それはそうと、はける順番はリハしていないなと思いながら、どうしたものかと広間上段の左右の袖を確認。
佐脇さんと長谷川さん、お桂殿の三人がハンドサインで合図らしいものを送ってくれます。
たぶん、順番にはけろってことなんだろうけど…。
「奇妙丸様、出立を」
小声で後ろから奇妙丸様に耳打ち。
「う、うむ」
奇妙丸様が立ったのに合わせて虎丸君と理助が露払いとして動き出します。
その隙に五徳姫様に耳打ち。
「我らが動き出したら、五徳様も立ち上がり、後について来てください」
「坊兄ぃ、ありがと」
口上を述べるまででいっぱいいっぱいだったんでしょう。
帰ることについての合図をすると、明らかにホッとして、微笑む五徳姫様。うん、そっちの笑顔のほうが可愛らしいですよ。
あとは、茶筅丸様と勘八丸様にはけるタイミングを指示すれば、お終いのはず。
二人の前を通り過ぎるときに指示を出すしか無いか…。
あとは、聞き取ってくれるかだけど…。
で、二人の前を通り過ぎる時に指示を伝えたんですよ、坊丸は。
茶筅丸様には「五徳姫様の後に続くようにお立ち下さい」って、勘八丸様には「茶筅丸様の後に続くようにお立ち下さい」って、ね。
なのに、勘八丸様は茶筅丸様に言ったのを自分に言われたと勘違いしたらしく、広間の袖から振り返ったら、茶筅丸様と勘八丸様がほぼ同時に立ち上がる始末。
これじゃあ、次男三男が現状同格だってアピールしているみたいじゃんよ。
もう、知らんよ、自分。
で、また周りを見ると、佐脇さんと長谷川さんが微妙な面で茶筅丸様、勘八丸様の方見てるし。
いや、自分は悪くないからね!帰る時の手順リハしていないのが悪いんだからね!あと、人の助言をよく聞かない次男坊と三男坊もね!はける時の対応では、自分が一番仕事したんだからね!
って、思って二人の方を見ていたら少し先で人の倒れる様な音が。
そして、お桂殿はそっちに向かって疾風の如く移動していきます。
自分も、次男三男坊の方は放置することにして、その音の方に急いで移動。
って、そこには廊下にへたり込んでいる吉乃殿とその側に座っているお桂殿が。
大丈夫か?吉乃殿を助け起こそうとすると、お桂殿からお叱りが。
「坊丸殿!元服前とはいえそなたは男!殿の側室たる吉乃様に触ってはなりませぬ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!倒れている人がいたら、安否確認、バイタルチェックだ!とりあえず、人手を集めて!一番近い部屋に吉乃殿を寝かせるために布団を運ばせて!吉乃殿をそこに運ぶよ!吉乃殿!吉乃殿!分かりますか!」
「うぅぅ。ぼ、坊丸殿ですか…。歩いていたらフラフラして眼の前が暗くなって…」
よし、まともな受け答えができてる。意識は清明。
ちくしょう!その他のバイタルサインは、血圧計もサチュレーションモニターも無い、この場所この世界じゃ何もわかんねぇじゃんかよ!秒針がついた時計とか手元にねぇし!
とりあえず、触診で脈だけ見るか。自分の脈と比べると…、弱くて早いな。
そして、皮膚はやや乾燥してすこし張りが悪い感じ。けど、脱水ってほどじゃないな。手は…。爪が反り返ってスプーン状だ。ってことは!
「吉乃殿、失礼とは思いますが顔を触らせていただきます」
「坊丸殿!」
お桂殿、うるさいなぁ!今は診察中だぞ!
って、やっぱり眼瞼結膜は真っ白じゃねぇか!
初期研修医でも診断外さないレベルの典型的な鉄欠乏性貧血じゃねえかよ!なんで、誰も気がつかなかったんだよ!
蘭学は無理でも、漢方系の出入りの医者や薬師はいるだろ、織田家クラスなら!
はぁ〜〜。いかん、深呼吸、深呼吸だ。少しヒートアップし過ぎだぞ、自分。
今は、戦国時代。平成令和じゃないんだ。人の命は戦に出れば羽毛の様に軽いし、傷口に馬糞を塗り込む様な迷信がはびこっている時代なんだ。
転生前と同じに考えちゃ駄目なんだ。そんなの、わかってたはずたろ、自分。
「「お呼びですか、お桂様」」
って、くノ一の双子腰元さん達!よく来てくれた!
「奥御殿、最寄りの部屋に吉乃殿を運んで下さい。そこで休ませましょう。できれば布団を」
「承りました。梅香、布団の手配を。私が吉乃殿を運びます」
「わかりました、桃花姉様」
って、フラフラしてる人を一人で運ぶのは無理でしょ!
と、思ったら桃花姉様と呼ばれたくノ一腰元さん(姉)が吉乃殿をお姫様抱っこかよ!
何処にそんなパワー有るんだよ!何か不思議な身体強化の術とかあるの?まぁ、今はありがたいけど。
最寄りの部屋に吉乃殿を寝かせて、ふぅ、一安心。
そして、ありがとう、くノ一腰元ツインズ。
「お桂殿、先程は申し訳ございませんでした。眼の前で吉乃殿が倒れていたので、お助けせねば、と必死で。言葉が荒くなってしまいまいました。お許しください」
「いえ、吉乃様を救わんとする坊丸殿のお心、見事でした。此度は火急の場合です。今後ともゆるすとは申せませんが、今回は見なかったことに致します。
ところで何やら不思議な言葉を使ったり、薬師の真似事みたいなことをなさったりしておられましたが、何処でそんな心得が?」
「ハハハ。そんなことしてました?あと何か言ってました?
気の所為ですよ、気の所為。それに、『見なかったことにする』んでしょ?
そこも含めて、見なかったことにしておいてください。ハ、ハハハ」
まさか、転生前はそういうのを仕事にしてました!なんて言えないもんねぇ。
今回は、明らかにやらかしちまったなぁ、自分。
くノ一双子姉妹の名前が初めて明らかに!
他に茉奈佳奈とか、萌音萌歌とか達也和也をもじって達乃和乃とかも考えてましたが、無難に春の花に。あ、萌音萌歌さんのとこは姉妹ですね。達也和也は男だし。
しかし、坊丸くん、できるだけカタカナ言葉は使わない様に心がけていたのに、気が動転した上に転生前の職業倫理に引っ張られてやらかしちまいました。
最近は、子供の体に心も引っ張られている上、だいぶ戦国時代に馴染んだはずなのに、眼の前の倒れた吉乃さんを見て、一瞬、転生前の人格と職業倫理が吹き出した感じです。そういうのを表現できていれば良いのですが…
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