274話 新加納の戦い 弐の段
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竹中重治の意見を聞いた長井道利、日根野弘就らは早速、軍を動かす。
布陣したのは、新加納宿よりやや北に位置する野一色権現山、琴塚古墳を背にしたあたりである。
そして、先の陣割りに従って、新加納宿の方向、南東方向を向くように斎藤軍二千数百が備えている。
が、本陣の竹中重治、第二陣の日根野盛就の姿は、各々の陣には見えなかった。
その頃、信長率いる本陣は新加納宿に差し掛かっていた。
すでに先頭をいく第一陣の池田恒興、坂井政尚らは、新加納宿を出たところであった。そして彼らは野一色権現山の麓に斎藤家の幟が多数立つのを発見。すぐに本陣に伝令が出されたのだった。
その報告を馬上にて聞いた信長は顔をしかめた。
「殿、いかがなされました?」
黒母衣衆筆頭の河尻秀隆が周辺警戒をしつつ、馬を寄せて信長に質問する。先程の伝令の内容を踏まえ、何かしらの指示が出ると考えたのだろう。
「いや、なんでもない。敵にも全体の見えるものがおるようだ。囮の秀吉隊に食いつかず、本隊へ対応してきおった。伝令によると旗指物から総大将は長井道利らしいが、意外にやりおるかもしれん」
実際には、織田勢の動きを読んで待ち構える地点を決めたのは竹中重治なのだが、この時点で信長がそのようなことを知るよしもなかった。
河尻秀隆に対しては平静を装っていたが、内心、信長は自分の策を読み切った者が居たことに驚いていた。
では、信長の策とは如何なるものなのか?本来ならば少しづつ作中にて明らかにするのが筋ではあるが、主人公たる坊丸がほぼ関与していない戦いであることを鑑み、あえて今回は読者諸賢に今回の信長の策を明かしてしまうこととする。
信長の今回の稲葉山攻めの策は以下の如くである。
まず第一に、本隊を各務原付近にて木曾川を渡河。中山道を進んだあと、加納宿に向かう素振りをみせる。
その間、墨俣城を出陣した秀吉隊は、井之口から加納宿に向けて進軍。火付けや麦の青刈りなどをして、斎藤軍を誘き出す。
秀吉隊は、誘き出した斎藤軍とは積極的には戦わず、挑発と撤退を繰り返し、墨俣方向に誘導。
その隙に、信長率いる本隊は、新加納宿から北に転進。野一色権現山と三峰山の間を抜け、日野を経由して更に北上。北山、舟伏山の間を抜けて長良川の川岸に到達。
長良川を渡り、長良川川岸を進む。稲葉山城の北まで進み、長良川を再渡河。そこから稲葉山城を攻めるという奇作であった。
森可成、金森長近、蜂屋頼隆など美濃にゆかりのあるもの、滝川一益経由で雇い入れた甲賀の忍などの情報を駆使した結果、信長は、新加納から日野を経由して長良川まで到達する道筋がある事を突き止めた。
さらにその道筋を軍勢が抜けられるかを調べ上げ、その結果が今回の信長の侵攻に結びついたのだった。
しかも、この時点で信長は、ごく一部のものにしか、真の侵攻ルートを話していない。
ほとんどの者には新加納宿を出た所で一度陣をはり、秀吉隊が合流できそうかどうかを見て、そこからどう攻めるか決める、としか説明していないのだ。
「斎藤が野一色の権現山にいるのであれば、好機。予定通り、新加納宿を出た所で一度軍をまとめ、その後、斎藤軍を叩く。
各備えの大将に予定通り、新加納宿を出た所で陣を張るように伝えよ!」
あたかも予定通りという信長の下知を受けて、母衣衆、小姓衆が各部隊に伝令に走っていく。
その姿を見送る信長の心のうちは、言いしれぬ悪い予感から漣が立つのであった。
そして、その予感は的中する。
第一陣に伝令が届く前、先陣の池田恒興、坂井政尚隊は斎藤家の先手、牧村半之助隊の挑発を受けてこれと戦闘を開始してしまっていた。
戦場において、司令部、本陣からの指示が来る前、偶発的な会敵からの突発的な戦闘の発生は、古来から起こりがちな事象である。
そして、双方ともに偶発的な会敵であれば、彼我に大きな有利不利は発生しない。
が、今回は、斎藤家お得意の有利な地点で待ち構えての防衛戦である。
すなわち、一方的に織田軍不利の状態での戦闘が開始されてしまったのだ。
野一色権現山の南、一番新加納宿に近い位置に布陣した斎藤家の先陣、牧村半之助隊は織田軍先陣の池田恒興、坂井政尚隊に攻撃をおこなうべく進軍を開始した。
野一色権現山に翻る旗指し物を見て警戒しつつ、信長の指示どおり新加納宿の西のはずれ、少林寺のそばで陣を張り始めていた池田恒興、坂井政尚隊は当然のように牧村半之助隊の接近に気が付き、すぐに陣容を変更し、臨戦態勢を整える。
流石に完全な臨戦態勢を整えるまでは行かなかったものの、池田恒興、坂井政尚とも歴戦の将である。不意をつかれての奇襲というような事態はさけられた。
池田、坂井両名の見立てでは、敵は千程度。自分の陣にいる将兵も池田、坂井の両名のそれを合わせれば千程度。
同じ陣幕にいた両名は一番槍の争いなどはせず、協力して斎藤軍に当たることを確認すると、各々の麾下の将兵に指示を出しつつ、周囲を鼓舞しながら自身も戦闘を開始するのであった。
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