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273話 新加納の戦い 壱の段

新加納の戦いの間は、坊丸でできません。あしからず。

永禄六年四月。信長は稲葉山城に向けて軍を動かす。


()()()()、この時点で信長の居城は清須城であり、小口城は犬山織田の勢力下にある。信長軍は犬山織田の勢力下、黒田城と小口城の間を抜けて、木曽川を渡り各務原付近から稲葉山城の方に向かったのだろう。そして、新加納にて長井道利が率いる斎藤軍と遭遇戦が起こり、竹中重治の伏兵策により敗北、敗走するも木下秀吉の機転にて大過なく撤退しえたと一部の資料では伝わっている。


しかしながら、()()()()()()()坊丸が前年の小口城攻城戦にて岩室長門の死亡を避けようとした結果、織田信長は小口城を落とした。そして、森可成が小口城城主として対美濃斎藤、対犬山織田の最前線として指揮官を務めている状態である。


小口城を支配下に置いた信長は、小口城攻めのように初手から奇策を用いることはなかった。兵五千余を以て清須城を発ち、小口城に向かう。先陣は池田恒興。そして楽田城から合流した坂井政尚。

第二陣に小口城より合流した森可成。第三陣に柴田勝家。第四陣は丹羽長秀。最後に信長率いる旗本衆からなる本陣。

楽田城、小口城から合流した将兵を含めると、木曽川を渡り美濃に攻め入った兵は約六千。

それとは別に墨俣から別働隊として木下秀吉と川並衆、合わせて五百。

史実では新加納の戦いに参加した織田軍の兵は五千七百と伝えられるが、この時間線では、織田家は墨俣近辺、小口城近辺をも領有し、川並衆も織田に協力的であることから、その数は別働隊を含め約六千五百。

しかも、対今川、対松平の抑えとして残った佐久間信盛、対伊勢長島の抑えとして残る滝川一益、留守居の佐久間盛次、林秀貞を除くとこの時点で織田家中で名のある将は軒並み参加している状態である。


信長以下六千は木曽川を渡り、各務原から井の口方面に向け旧中山道を進軍する。そして、その間、墨俣を出陣した秀吉隊は長良川を渡り、現在の境川に沿って井の口の南西、現在の岐阜県庁方面に進軍の動きを見せる。


信長軍の動きを見た斎藤家は、西美濃、中美濃の諸家に兵を出すように命じた。

が、信長軍の動きは早く、中美濃の諸家が軍勢を集めるころにはすでに各務原に進軍。実質的に西美濃の軍勢と中美濃の諸家の兵を分断することに成功する。

さらには、西美濃の諸家も落ち目に見える斎藤家への兵の供出を渋る有様であった。


斎藤家がどうにかしてかき集めた兵は三千。

大垣の稲葉家が将は出さなかったが数百。その数百を稲葉家と婚姻関係にある牧村半之助が預かり、自身の兵や西美濃の諸家の兵と合わせて千弱で第一陣を形成する。

第二陣は斎藤家六重臣に数えられる日根野弘就とその弟盛就。

本陣たる第三陣は『蝮の弟』こと長井隼人佐道利。そして本陣には、第一次稲葉山城の戦いで伏兵策を成功させ、長井道利に高く評価された竹中半兵衛重治も詰めている。


斎藤軍は信長軍が旧中山道を進軍してくるという情報を得て、稲葉山城下から出陣して少し後、軍議が開かれた。

なお、稲葉山城内でも一度軍議は開かれてはいるのだが、長井道利から見て軍才に劣る主君斎藤龍興とその寵臣の斎藤飛騨守の意見も聞かねばならなかった。


だが、そこは海千山千の長井道利である。戦場ではその場その場の判断が大切である事を主張して最終決定権を自身にゆだねさせたのだ。

つまるところ、長井道利は斎藤龍興、斎藤飛騨守の意見を無視する気満々だったわけである。


「各々方、城内での軍議は一度白紙に戻す故、忌憚なく意見をのべていただきたい。で、信長の動き、どう見る?」


「信長の動きも気になりますが、墨俣城から出た小勢も気になりますな。合流されてより兵力差が開いては難儀致しましょう。まずは、こちらを討ち、その後信長本隊に備えるが良いかと」


日根野弘就が秀吉隊への攻撃を主張し、弟の盛就も同意する。


「牧村殿はどう思う?」


「はっ。まずは、若輩の身なれば、長井様のご下知に従いまする。普通に考えれば、信長軍は加納宿あたりで合流すると思われます。ただ…」


「ただ、なんじゃ。今はどのような意見でも聞くぞ」


「はっ。しからば…。織田が何故、墨俣より小勢を出したのか、腑に落ちませぬ。わざわざ、兵を分けるよりも一塊で動かした動かした方が良いに決まっておりますれば」


「ふむ、儂もそこが気になっておる。まるで、撃ってくれと言わんばかりの小勢。囮もしくは釣り出す為の軍勢に見えるのだ。竹中殿はいかが見る?」


長井道利は、色白で細身の竹中重治を、西美濃の新鋭である牧村半之助や家中の重鎮である日根野兄弟と同等に扱う姿を見せた。


「はっ。しからば。此度の織田の動き、今までとはちと異なる印象にございます。牧村殿は合流すると申されましたが、果たして本当にそうでしょうか?

長井様のおっしゃるとおり、囮か釣りの為の軍勢と読みまする。墨俣勢を討とうと追えば多分、逃げ回られましょう。そしてその隙に織田の本隊が稲葉山城を狙うかと。ただ、気になることが」


「気になること?竹中殿、気になることとは?」


「何故、各務原辺りからのこちらに向かってくるのか、でございます。墨俣勢と合流するにしても、囮にするにしても、もう少し加納宿に近い場所で、木曾川を渡ればよろしいかと。そうしない理由があるはず…」


そう言って軍議の場に広げられた西美濃、中美濃の地図をじっと見つめる竹中重治。顎に左手を当て少し考え込んだ。

一度、目を見開くと、右手に持った扇子にて自身の太腿を一つ、打った。


「そうか。わかり申した。それがしの読みどおりであれば、伏兵にて、織田勢を一網打尽にすることも可能になるかと」


色白で優男である竹中重治は、いつもの涼しげな微笑みから、わずかに両口角をあげ、長井道利の方を見たのだった。

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