272話 ライフル火縄銃、試射いたします 後段
ども、坊丸です。
信長伯父さんにライフル火縄銃を見せました。製作者の加藤さんですら、実際に撃ってみるまで自分の改良の意図を理解できなかったのに、信長伯父さんは何となく直感で理解しくさりました。すごいな、織田信長。
で、弾込めしていないライフル火縄銃を信長伯父さん、滝川殿の前で加藤さんに手助けしてもらいながら装填作業をして見せました。
いつもは、巻き藁に腹当てや腹巻をつけた実戦的な的を使いますが、今回は命中精度を見てほしかったので、滝川殿に頼んで弓道で使うような的、霞的を用意してもらいました。
まずは、信長伯父さん、滝川殿に自身の愛用の火縄銃で試射いただきました。
当然、お二方とも霞的の真ん中を狙ったものと思いますが、信長伯父さんは的の下の端に、滝川殿も真ん中から右にずれたところに着弾。
その後、ライフル火縄銃をお二方に試射いただきました。
信長伯父さんは的の中央に、滝川殿は中央やや上に着弾。
「うむ、これは良いな。狙ったところに正確に飛んでいくぞ」
「ふむ、今までの火縄銃の経験から弓矢の如くわずかに下に落ちると思ったのですが…。読みよりも下にぶれるのがすくないようですな。もう一回撃たせてもらって良いですかな」
「儂ももう一発撃つぞ。今のは偶然かもしれんからな」
二人がそんなことを言い出したので、加藤さんの方を見ると鉄砲箪笥からすでに早合を出しています。そして自分に渡してきました。あ、これ、自分が間に入るやつね。
二人に椎の実弾丸の早合を渡すと、滝川殿は手早く、信長伯父さんは本当に銃口に入るのかサイズを見比べたり、銃口に弾を当ててみたりして確認しながら弾込め。
「ふむ、思ったよりも引っかからないのだな。だが、カルカはすこし太くするか、玉の形に合わせるが良いかもしれんぞ」
「はっ。ご意見ありがとうございます。伯父上のご意見を参考にさらに改良して参ります」
こういうのは、反論せずに参考にさせてもらうって言っといたほうが良いよね。上司対策としては。
二回目の試射では、二人とも霞的のほぼ真ん中に当てました。
滝川殿の一射目からの修正する能力、高いねぇ。さすが、現鉄砲指南役。
信長伯父さんの右ほおの口角がすこし上がってます。二発ともど真ん中に当てたのでご機嫌戻ったのかな?
「坊丸、これは良いな。これは数が作れるのか?たくさん作れれば、もう、堺や国友の連中に大枚払わずとも良くなる。むしろ、堺や国友の銃よりもよりよいものであるしな」
「はっ。いまはまだ、我が臣にして鍛冶師の加藤清忠のみが作れる状態でございます。願わくば、小牧山の城内か城下に工房をつくっていただきたくお願い申し上げます。また、この工夫が他の大名などに知られない工夫も必要かと愚考します」
「で、あるか。当面はそなたらで作れるだけ作れ。できたものは、国友のものと同額にて買い上げる。滝川、坊丸やそこな加藤と相談し、小牧山に城が完成した後、いずれかの郭に火縄銃の工房を作れ。他の大名に工夫が盗まれぬ工夫も合わせて行え。そなたの手のものも使って良い」
「はっ、承りましてございます」
滝川殿がそう答えると、みんなの視線が自分と加藤さんに向けられました。
あ、ここは、自分たちも答えないといけないタイミングだったんですね。加藤さんの顔を見た後、タイミングを合わせて答えることに。
「承りました」「承りましてございます」
満足そうにうなずいた信長伯父さんとほっとした顔の柴田の親父殿。
さて、ここで、もう一発、ネタを披露しますか。
「伯父上にもう一つ、見ていただきたくお願い申し上げます」
「許す。坊丸、まだ何かあるのか?」
「はっ。これまで、臣は早合の工夫、雨でも火縄銃を打てるように工夫いたしました。こたびは、銃の性能自体を上げるようにいたしました。次の工夫は、弾を撃ち尽くした後、あるいは敵が近くまで来てしまった時のことにございます」
「確かにな。火縄銃は、近づかれては無用の長物。大雨でもな。かと言って、敵が近づいたときに兵どもに戦場に投げ棄てられては、懐に痛い。良い、申せ」
「はっ。しからば。加藤殿、あれを。滝川殿、お貸しした銃をお返ししていただきたく」
「はっ」
加藤さんが槍の穂先と銃身の先端にアタッチできる金具を取り出してくれました。
そして滝川殿から帰ってきたライフル火縄銃に槍の穂先とアタッチメント用の金具を装着。
はい、皆さんお分かりですね。いわゆる一つの銃剣です。
母方のおじいちゃんに戦争体験を聞き取りした時に行っていたから知っていました。現代では連射可能で射程距離の長い銃が普通だから、あまりメジャーじゃないかもしれませんが。
銃剣をつければ、弾切れや故障した時も短槍として対応できますからね。銃剣道でしたっけ?そういうのもあるとか、亡くなった爺ちゃんが言ってました。
銃剣を装着後、自分の方に捧げるように渡してくる加藤さん。
しょうがないので、銃剣装着の火縄銃を槍のように突く動きをしてみました。って、七歳児では、うまく振るえません。周囲から漏れる失笑。
だって、仕方ないじゃないかぁ。現代社会だと小学生よ、自分。
困ったので、柴田の親父殿の方を見て、にっこり笑い、銃剣装備の火縄銃を親父殿のほうにかざしてみました。
いきなり振られてびっくりしたのか、大きく目を見開いて、自分の顔を指さす親父殿。ごめんね、親父殿、無茶振りして。
それでも、銃剣装備の火縄銃を受け取った柴田の親父殿は、銃床を持って槍の様に突き出し、大きく振ったりして普段の朝の鍛錬の動きを手短にやってくれました。
演武みたいでカッコいいですよ、親父殿。
「以上でございます。お目汚しにございました」
そう言って、信長伯父さんに向けて一礼する親父殿。
「よい。流石、鬼柴田よな。普段使う朱槍でなくても十分動けていたな。で、使ってみてどうであった?勝家?」
「は。しからば。銃の台木の部分を握って突き出す際に、すっぽ抜けないか不安でございました。かなり激しく振りましたが、槍の穂先の部分は抜けたり動いたりいたしませんでした。本物の槍とはくらべものにはなりませんが手槍だと思えば、十分かと」
「で、あるか。勝家がそういうなら戦場でも使い物になりそうであるな。坊丸、加藤。すでに当家にて購入した国友筒にもこの後付けの槍をつけることはできそうか?」
「はっ。後付けでも銃剣を装備できるようにすることは可能かと思われます。可能であれば、自分と加藤の両名にて織田家所有の火縄銃を一通り見せていただきたく」
「良い。許す。一益、後日、坊丸と加藤に鉄砲蔵を案内致せ。こちらについてもそなたら三人で相談し、準備いたせ」
「「「ははっ」」」
「新たな工夫をした火縄銃は今後、国友、堺の火縄銃と区別するため、織田筒と呼ぶことと致す。あの、後付けの槍先のようなものは、銃剣と申すのか。銃剣をつけて振るうことを想定して、銃の台木の部分の工夫もせよ。良いな」
「「承りましてございます」」
「坊丸、加藤。こたびの工夫、良いものであった。褒めてとらす。後日、褒美として金子を与える。今後も励め」
「「ははっ」」
前装式ライフル化火縄銃を信長伯父さんに見せるだけのはずが、なんか仕事がいっぱい増えちまったよ…。とほほ。
誤字脱字報告に「霞的」を「標的」の間違いではないかという指摘が物凄く多数ありました…。
弓道で使う的に「霞的」というのがありますので、そちらを使用しております。
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