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270話 伊賀者と甲賀者、服部党と甲賀二十一家

ども、坊丸です。


新年の儀が終わった後、奇妙丸様と歌留多で遊んだり、プリンをいただいたりして奇妙丸様達と親交を深め、お役目終了、良かった良かったとなるはずが、何故か、小姓衆のうち自分だけ、お桂殿から居残りの指示が。

何故だ…。


他の三人が腰元さん達に案内されて奥御殿から出ていくなか、独りだけ、そのままひとり居残りなので、奴らをお見送りすることになったわけです。


三人は、表での待遇と違い、奥御殿では自分の待遇が連枝扱いで少しばかり良いので、何か話でもあるんだろうってな程度で何も不思議に思わず、去っていきやがります。


表だと同じ奇妙丸様の小姓でも重臣の嫡男三人に比べると、謀叛人の息子で柴田家預かりの自分の扱いは一段下の印象ですが、奥御殿では、しばらく前に帰蝶様が自分を普通の連枝扱いするように皆に命じたので、他の三人と扱いの差は無いか、奥御殿という織田家のプライベート空間な分、わずかに連枝の自分の扱いがいい印象。

いやぁ、帰蝶様、ありがとうございます。


でも、そのおかげで、今はひとりぼっちになっても違和感がない有様。禍福は糾える縄の如しってやつですか?少し違う気もしますが。


今は、奇妙丸様の私室なので、奇妙丸様はそのままおられるわけですが、このままお話し開始なのかな?そうだとすると、余計なんの話か予想がつきません。


って、思っていたら、お桂殿から「別室で二人で話したいので失礼いたします」と、奇妙丸様に、断りが入りました。

で、案内された四畳半の小さいお部屋。夕日が差し込む四畳半の部屋でちゃぶ台を挟んで二人きりで差し向かいに座るなんて状況ですか?

違いますか。でも、お桂殿と狭い部屋に二人きり。

お桂殿は、帰蝶様より少し柔らかさがありつつ、クールビューティ系、綺麗系の要素もある方なんで、転生前の自分なら狭い部屋に二人きりでちょっとドキドキしてしまっていたかもしれません。


でも、心は大人でも、現状は数えで八つになったばかりの子供の体。

しかも、プリンを食べている時のお桂殿の視線のことを考えると、注意やお叱りの可能性が高い状況。

しっかし、なにか、やらかしたっけかなぁ…。


「さて、坊丸殿。単刀直入にお聞きします。最近、三河の松平殿にねらわれるような覚えはありますか?」


はぁ?三河の松平って、もう少しで徳川家康に改名するはずの松平元康殿でしょう?特に、なんの縁もありませんが?狙われてるってどういうこと?


「松平殿に特に狙われる覚えなどございませんが?」


「ふむ。坊丸殿には身に覚えがないと…。先の清須での同盟交渉の少し前から松平の忍び、伊賀の服部党がこの城を探っておりました。当初は松平殿の警護の下調べ、つまりは清須で松平殿を暗殺する用意がないかを探っていたようでした。我が兄、一益の尽力にて同盟がまとまったあとは、さすがに伊賀者が探ってくることも減るであろうと思われたのですが…」


あぁ、敵将を和睦と言って呼び出しておいてのレッツ暗殺は古今東西、謀が好きな方々がよく殺る手ですもんね。

って、服部党って、服部半蔵の一党?服部半蔵って、半蔵門の名の由来になった徳川の家臣で有名なあのひと?そして、配下の忍者達のこと?

謎は深まるばかりです。

でも、それはそうと、同盟結んだ後は静かになるでしょ?同盟したんだし。


「同盟後は織田や清須の城を詳細に探る必要はなくなりますでしょうから、忍びのものも減ったのでしょう?」


「不思議なことに、同盟後の方が伊賀者の暗躍が増えたのです。服部の手のものが何やら清須の城を探っていたのですが、霜月の頃より、清須の城だけでなく柴田殿の屋敷の方にも出没している様子なのです」


えぇ!もしかして、自分狙い?清須同盟に柴田の親父殿はなんも活躍してないしねぇ…。


あ、自分、饗応膳のメニュー作りましたよ。まさか、それか?


「そう言えば、プリンとか作ったか…。あっ、それでの先程のプリンか…」


「坊丸殿は聡くて助かりますな。兄の一益も、甲賀の縁者もその線を考えておりまする」


「つまり、見たこともない料理を作り出した張本人を調べていた、と」


「それだけではありませぬでしょう?坊丸殿は、酒の改良をしたり、焙烙玉を作ったり、米の取れ高を良くしたり、新たな農具を作ったりと、八面六臂の働きぶり。

織田の躍進の一助になっているのは間違いないかと。帰蝶様もそう評しておりますし。それに、鉄砲の工夫については、兄一益は本当に感心しておりましたよ」


なんか、高評価をいただき、ありがとうございます。

思いつくまま、出来ることをしてきただけなんですが、他の人の口から羅列されると実に色々やってきたなぁ、と思うわけです。

まぁ、その分、やらかしたことも多いんですが。

それはさておき、鉄砲の話が出たから、信長伯父さんの鉄砲指南役でもある滝川一益殿に前装式ライフル化火縄銃を見てもらう伝手をつけとこう。


「服部党に探られているとの事なので、伯父上や滝川殿に見てもらいたい改良を施した火縄銃がございます。お桂殿から滝川殿に一報入れていただく事は出来ますでしょうか?」


急に真顔になってつなぎを頼んだので、少しばかり驚いた様子のお桂殿でしたが、改良した火縄銃という言葉から事の重要性に気づいたのか、すぐに真顔になりました。


「わかりました。兄に話しておきます。それと、今後は甲賀の縁者に、それとなく坊丸殿や柴田の屋敷を警備させます。兄より柴田様には話を通しておきますが、坊丸殿もそのつもりでお含みおきあるよう」


「わかりました。ところで、先程から何度がでている『甲賀の縁者』って、甲賀忍者の事ですか?」


「忍者、ですか。あまり聞き慣れない呼び方ですね…。

先程からの甲賀の縁者の事というのは、忍びのもの、乱波、透破と呼ばれる者ですね」


「大変申し訳無いのですが、教えていただきたいので、あえて聞きます。滝川殿、お桂殿も忍びのものなのですか?」


「我ら兄妹も多少の体術の心得はありますが、本職の透破、乱破の様な技の切れ、冴えはありませんよ」


あっ、二人は忍者じゃないんだ。足音しない腰元さんとか近くにいるから、二人も忍者だと思ってたよ。


「では、忍びのものと何処で縁なんぞ結んだんですか?」


「まぁ、話すと長いのですが…。かい摘んで話すと、我が滝川の家は、甲賀の地侍、国人領主といった家系なのです。そして、その祖先は甲賀二十一家の一つ大原家につながるものなのですよ。甲賀二十一家は、現在の甲賀の忍のものの祖たる存在。故に我らも甲賀の忍びに縁があるのでございます」


あ、そういうことだったんですか…。


「今の話は、他言無用、とかでございますか?」


「ふふ。面白い事をおっしゃいますね、坊丸殿は。我らが甲賀の忍と縁があるのは、殿や池田殿はご存知のことです。大声で触れ歩くことでもないので、坊丸殿もまぁ、ペラペラとふれ歩くことがなければ、それで結構ですよ」


「わ、わかりました。心に留めときます。では、火縄銃の事、宜しく一益殿にお伝え下さい」

そう言って1つ頭を下げておきます。


「坊丸殿、これからもよしなに」


お桂殿が頭を下げるので、こちらもまたまた頭を下げておきます。


その後は、すぐに解放されたけど、いやぁ~、色々びっくりしたなぁ、もぅ。

滝川一益と信忠の乳母 慈徳院一枝宗桂大姉は当作品では母違いの兄妹というの設定。


滝川氏は、甲賀の地侍、国人領主階級で甲賀二十一家の大原氏の傍流という説を採用しています。甲賀の国人領主ならば、甲賀忍者の流れをくむ存在だろうという考えで、ガチ忍者では無いのですが、一益、お桂殿ともそれに近いことはできちゃう様な存在という設定です。


甲賀二十一家には池田家という家もあり、ここが池田恒興の家系の祖になる設定で、大原氏傍流の滝川家と池田家は滝川一益と池田恒興の数世代前に血縁関係があったと予想しています。


ちなみに甲賀二十一家には多喜家もしくは滝家と言うところもあるので、多喜家と違いを明確にするため一益の祖先は滝川と名乗ったという解釈をしています。


お桂殿が忍者というワードに引っかかるっていますが、忍者という表現は昭和の作家達が使い出したワードだからです。それまでは忍び、忍びのもの、忍術使い、乱破、透破などの表現の方がメジャーのようです。


こんなに無駄な下調べするから筆がおそいんですよね…。


少しでも「面白い!」「続きが気になる」と思った方は、下の★でご評価いただけると、作品継続のモチベーションになります。

宜しくお願いします。

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