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256話 無茶振りはヤマドリとともに

ども、坊丸です。


どうにも、カルパッチョの呼称が婆上様の変換により、軽波長もしくは軽八になりそうな今日このごろ。

もう、名前なんてどうでもいいんですがね。親しんでいただければ。あ、何故か目から汗が。


タコのカルパッチョ&スズキのムニエルを提供した翌朝、残ったスズキで作ったスズキのベッコウ漬けを朝食に出してもらいました。


朝イチに茶色くなったスズキの刺し身を出された親父殿と婆上様、きっと驚くだろう、いろいろ聞いてくるだろうと思っていましたが、そんな事はありませんでした。


ベッコウ漬けの入った碗をじっと見た後、二人同時にため息を付いて、「坊丸、説明せい」「説明を」と言ったのみでしたよ。

何故か、二人の顔はいろいろ諦めたような微妙な表情でしたが。


朝ごはんのときに、そんな顔しちゃ、美味しいものも美味しくいただけませんよ、ふたりとも。やれやれ。


唐辛子と垂れ味噌を混ぜたタレに一晩、スズキの刺し身を漬け込んだものと説明したところ、ホッとしたご様子。

茶色にタレが染み込んだ刺し身をみて、やはり悪くなったものが出てきたと疑っていたようです。

坊丸君もお滝さんもそんなもの出さないってば。


ふたりともどんな料理か理解していただいた後は、美味しく召し上がっていました。

時々、柴田の親父殿が「辛っ」って言った後に飯をかき込んでいました。わんぱくだなあ。


朝ご飯の後は、いつもの如く勉学という名の次兵衛さんのお手伝い。その前に、台所に寄ってお千ちゃんに市場で雉や雁など野鳥の肉を買ってきてほしいと依頼しておきます。


一刻ほど書類の検算や確認を手伝ったら解放されました。

急いで台所に行くと、お千ちゃんとお滝さんが夕食の仕込みを始めています。うん、鳥らしいものは二人の周りにはないね。

お千ちゃんの話を聞くに、市は立っていたそうですが鳥の商いは無かったとのこと。


やむを得ないので、清須城の井上左膳殿に無心するしかあるまいよ。


書類仕事から解放されたばかりなのに、泣く泣く次兵衛さんのところに戻って、書状をしたためることに。

やれやれ、だぜ。


井上左膳殿宛に現在の成果と三の膳用の料理の試作に何でもいいから鳥を一羽ほしい旨の書状を書くことに。


『柴田家預り津田坊丸より料理頭井上左膳殿に、松平殿の饗応の料理についてご報告申し上げ候


一の膳については、茹でダコを差し替える料理を作り候


茹でダコの刺し身と香味野菜を垂れ味噌や酢で作りしタレに絡めて食す料理を考案いたし候


二の膳については、鮑の水煮に変わる料理を作り候


鮑を牛酪と垂れ味噌で焼きし料理にて候


菓子膳については、砂糖と牛乳を用いて空也蒸しに類する料理を考案、試作いたし候


ただ、三の膳については饗応料理に使うに適した鳥を手配をいたしかね候


この為、三の膳の新しき料理のみいまだ、形にならず苦心いたし候


申し訳なきところなれど、お役目を果たすため、井上左膳殿の差配にて一羽、鳥を譲り受けたく候


三の膳の鳥料理の目途が立ち次第、清須の城におもむきて、それがしが考案いたせし料理を井上殿以下包丁方の皆の衆に供覧いたしたく存じ候


なにとぞ、鳥一羽の無心をお聞き届けいただきたく候』


っと、こんな感じの文面で良いかな。


後は、柴田の親父殿に添え状を書いてもらって、と。

この時間なら、書院で次兵衛が仕上げた書類の決済をしてるはずだからね。


親父殿と次兵衛さんに書状を確認&添削してもらったら、柴田の親父殿の添え状と一緒に清須城に届けてもらいましょう。


中間の方がすぐにひとっ走り行ってくれることになりました。

なんと、昨日のタコ刺しのお礼を兼ねて大急ぎで仕事してくれるんだって。いやぁ、やっぱり、差し入れは大事だね。


しばらくして、先程の中間さんが雉っぽい鳥一羽と書状を持って大急ぎで帰ってきました。


てっきり、鳥肉の手配に数日はかかるものと思っていたので、まさかの当日にいただけるなんてラッキー!と、思ってましたよ。このときは。


大慌てで中間さんが柴田の親父殿に取り次ぎを頼んでる声が聞こえました。


お返事の書状をいただいたので、親父殿にすぐに渡したいのだろうな、と思いつつ、自分は台所の方へ。


お、いただきものの鳥一羽がありますね。

お滝さんがすぐに状態をチェックしている様子。

頭が取り除かれているから、血抜きは終わっているのかな?


「お滝さん、清須のお城からいただいた鳥ですね」


「お、坊丸様。お城に無心すると言ってたから、数日したら何かしらいただけるとは思ってたけど、まさか当日にヤマドリ一羽を貰えるなんてびっくりだよ」


「ヤマドリ?ですか?雉ではなく?」


「これはヤマドリだね。雉に似ているけどね。雉の雄は派手な緑色をしてるだろ?こいつは赤味がかった茶色をしているだろう。雉の雌とヤマドリの雌は似ているけどね。雉は美味の三鳥五魚の一つだけど、ヤマドリは違うしね」


「美味の三鳥五魚ですか」


「あぁ、昔の料理人偉い人が美味な鳥として、鶴、雉、雁としているんだよ。ヤマドリはそこには入ってないだ」


「へぇ~」


と、そんなやり取りをしていたら、お妙さんがなんか慌てて呼びに来ました。何事ですか?


「坊丸様、勝家様がお呼びです。至急参られたし、とのことでございます」


え?何かあったの?城に無心したのがまずかったのかななぁ。でも、書状を作るときは何も言われなかったけど。とりあえず、行きましょう。


「坊丸です。お呼びとのことで参上いたしました」


「おお、坊丸。そこに座れ。で、だ。清須城から下賜されたヤマドリはもう見たな。

そのヤマドリと一緒にきた書状にな、松平殿の会談の日程が一日から、一泊二日に変わったとある。

それに伴い、饗応料理も一食ではなく、お迎え御膳、夕膳、翌朝の膳の三食に変わったそうだ。井上左膳が、予定以外の二食にも坊丸の料理を入れてほしいとのことだ」


「えっ?」


「ん?なんだ、不審か。松平殿との盟約についての会談の日程が変わることを知らせる滝川一益めの書状も一緒にあるし、殿の添え状もある。間違いないぞ」


いや、そっちじゃなくて、だいたい終わったと思っていた仕事が、目の前で急に増えたことにびっくりしているんですが…。


まだ、料理考えるのか…。

どうする、坊丸…。あ、目から汗が。

三鳥五魚のうち五魚の方は、鯉、鯛、スズキ、鰈、フカになります。

ヤマドリは狩猟対象の鳥類なので、ジビエ料理のお店などで実際に食すことができます。まぁ、捕れたときには、ということになるので、現代では可なりレア物です。


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宜しくお願いします。

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