254話 胡椒とバターとタコ、そして時々、権六。
ども、坊丸です。
カルパッチョを作るためにイタリアンドレッシング的なものを作ろうと思いましたが、オリーブオイルはないわけで。残念ながら、レモンもないわけで。しかも、代用の柑橘類もこの季節、いいものがない…。胡椒はどうなんでしょうか?
どうする、坊丸。
とりあえず、タコ、茹でてもらおう。
で、タコを茹でてもらっている間に、お滝さんに確認です。
「お滝さん、今の季節は柑橘類って何があります?あと、胡椒って調味料として手に入りますかね?」
「柑橘類?そうだねぇ。青柚子がもう少ししたら出るけど、まだ先だね。今の季節は、特にないと思うよ。それに、胡椒って、あれは薬だろ?政秀寺の虎哉様に聞いてご覧よ。薬の元になる植物を育てたりしているんだから、もしかしたら少しくらいなら持っているかも知れないよ」
まじか…。この時代は胡椒って、薬扱いか…。調味料として流通しているわけではないんだ…。
あ、そう言えば、唐辛子あったな。少し前に唐辛子味噌で食卓に出たし。まだあるかな。
「わかりました。柑橘類も胡椒も料理には使えない、と。ちなみに少し前に唐辛子味噌を使ってましたけど、唐辛子は、まだあります?」
「あぁ、津島の商人が九州あたりで流行っている辛い野菜だって持ってきたやつだね。
物珍しいものなんだろうけど、あの辛さでは料理には使いづらいってあんまり売れなかったらしいよ。
あたしも、教わった唐辛子味噌くらいしか使い道を知らないしねぇ。
でも、坊丸様なら何かいい使い方を思いつくかもって、思ってね。
安く買い叩いといたから、まだたくさんあるよ」
ナイスです!お滝さん!
とりあえず、ごま油と垂れ味噌、酢、刻んだ青唐辛子でドレッシングの試作を開始。
またまた、お妙さんもいつの間にか近くに湧いていますが、気にしない。ていうか、お妙さんにドレッシング作りに協力してもらおうっと。
ドレッシング作りに二人とも協力してくれる流れでしたが、残念、お千ちゃんは辛いものが苦手なのが判明。
どうやらお千ちゃんは、甘味専門のようです。
そうこうしているうちにタコが茹で上がりました。
ドレッシング作りの戦力外になったお千ちゃんに、薬味と説明して大葉、茗荷、青唐辛子、生姜やニンニクを刻んでもらいました。
流石はお千ちゃん、単純作業を繰り返すのには強い子だぜ。
あ、きゅうりの斜め切りもお願いしますね。
で、お滝さんには茹でダコを薄造りにしてもらいます。単なる削ぎ切りでなくさざなみ切りにしてくれました。さすがはお滝さん、芸が細かい。
切ったタコを手早く皿に盛っていくお滝さん。
って、やっぱり手前と奥を意識した風景のある盛り方にしますよねぇ。
や、和食の刺盛りなら、これが正解なんですが、今回は、和風のカルパッチョのつもりですからね。
盛り方を少し変えてもらって。
「あ、お滝さん。タコの薄造りなんですが、真ん中あけてを一周丸く並べる感じでお願いします。
その内側にきゅうりの斜め切りも同じ様に並べて下さい。で、空いた真ん中に薬味をドバっと盛って下さい。で、お妙さんと自分が作ったこのタレを回しかけてっと。はい、タコのカルパッチョの完成です」
「へぇ。こういう盛り付け方もあるんだねえ。ついつい刺し身の盛り方にしちまったが、野菜とタコを上から掛けたタレで同時に食べる料理なんだね。
うん、美味そうだ。これは、そのままうちの殿様と大奥様に出すから、一回り小さく盛り付けて見るよ。練習を兼ねてね」
出来上がったものは、柴田の親父殿と婆上様に出すから食べちゃ駄目って内容を聞いた瞬間、お妙さんが、エッ!って顔になったのを坊丸は見逃しませんでしたよ。
一回り小さいのを作るって言った瞬間に大きくうなずいたのもね。
で、三人でタコの和風カルパッチョ美味しくいただきました。
え?四人じゃないのかって?
お千ちゃんは、ドレッシングの掛かっていないところのタコと垂れ味噌、煎り酒で普通のタコ刺しとして食べてましたからね。カウントに入れません。
試作料理を作っている裏で、昨日、今日と届けてもらった牛乳を柴田家の中間、若衆に振って振って振り抜いてもらってバターを確保。
バターが出来たかどうか確認に行ったらやっぱり柴田家の親父殿も怒涛の勢いで竹筒を振っておられました。
バターを回収しつつ、余ったタコ刺しを若衆の皆さんに振る舞う、優しい坊丸君です。
疲れた体にタンパク質とタウリン豊富なタコで立派な体に仕上げてください、若衆の皆さん。
あ、柴田家の親父殿が一番がっついてタコを食べおられる…。
あなた、猛獣…もとい、もう十分筋肉質な体なんだからそんなにタンパク質を取らなくても…。
って、美味いぞ、坊丸も食えって言われても台所で頂いてきたからなぁ…。
胡椒は奈良時代に日本に伝来していますが、薬として扱われたようです。室町時代に明との貿易、安土桃山時代の南蛮貿易で少量取り扱われます。
その後、江戸時代にオランダ貿易の後に普及。そしてに七味唐辛子に負けて使用量激減。明治の文明開化で西洋料理がたくさん入って来てから再度普及という歴史なようです。
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