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250話 誰が為の饗応料理

ども、坊丸です。


松平元康こと後の徳川家康さんが、清須城に訪問するので、接待せねばならないことになりました。料理番補佐として、自分が。


清須同盟なんて、織田と徳川の利害の一致からヒョヒョイのヒョイと纏まったもんだと思いこんでいたわけですが、同盟締結には外交辞令がたくさん必要だったことを、その身に思い知らされています。たった半刻ほど前から。


それはさておき、井上左膳殿が出して来た献立表には知らない料理が何個かあるわけで。なんじゃぁ、コリャってなもんです。


「井上殿、坊丸は幼少の身、浅学にて初めて拝見する料理の名前があるのですが…」


「ん、どれですかな?」


「これとこれと、これでございます。それと…、菓子膳に焼き麩や昆布があるのは何故ですか?」


「あえまぜ、でございますか。これは儀式料理の典型的な献立でございます。スルメ、干し鮑などを削ったものを湯で戻し煎り酒と酢で和えたものですな。まぁ、儀式料理でございますから、普段は作りませぬ故、知らないのも仕方ないかと。

 みつあえは、単なる煮物にございます。それを三点盛り合せただけでございます。三つ盛り合わせる故に、みつあえでございます。内容としては、季節の煮物になりますから、これは、仕入れた野菜などで、おいおい考えるつもりでした。まぁ、名前を知らなかったということでございましょう。

 ふとには、干したナマコに長芋を入れて味噌で炊いたものになります。まぁ、これも普段の食事には作りませぬな。

雁の豆は、雁の肉と青豆を炊いたものですな。雁の肉があればすぐできますぞ。

 ちなみに、このわたは、ご存知なのですな?」


はい、知ってます。ナマコの腸の塩辛でしょ?

転生前、つまりは令和に生きていたときに職場の日本酒好き、珍味好きな人が連れて行ってくれたお店で見ました。

そのお店では、日本三大珍味と言って、からすみ、このわた、くちこが置いてありましたから。

ちなみに自分はからすみを少し頂いただけですが。


「はい、名前は。ナマコを使った珍味だと虎哉禅師がいつぞや言っておりました」


ごめんなさい、虎哉禅師。名前を借りました。


「このわたは、三河の名物故な。それで入れたのか?左膳?」


お、柴田の親父殿が口を挟んできましたよ。


「はい、三河の松平様にも見知った料理があるが良いかと思いまして。それに珍味でございますれば、酒の肴、二の膳に丁度良いかと。大アサリを汁に使ったのも同じでございまする。

 坊丸殿が気にした菓子膳に焼き麩と昆布があるは、箸休めですな。菓子膳の主たるは豆飴にござります。甘いものが苦手、飽きる方、あるいは菓子膳でも酒を呑みたい方用に焼麩と花昆布を入れております」


へぇ。菓子膳で酒呑むんだ。デザート食べながらガンガン酒呑む感覚はないわぁ。それとも、戦国時代は普通なのか?


「親父殿。ちなみに、菓子膳でも酒を嗜む物なのですか?」


「儂は呑むな。菓子膳に昆布が有ると、酒呑みは嬉しいものだ。まぁ、松平殿がどれだけ呑むかはわからんが。ちなみに、殿は酒はあまり嗜まんから、もっと甘いものが多いほうがお好みだろうて」


「ふむ、確かに。柴田様、ご指摘ありがとうございます。饗応膳の形を整えることにばかり目が行き、殿の好みを失念しておりました。それを踏まえて、焼麩を外して何か甘いモノを入れましょう。以前、坊丸殿が作った水飴ときな粉を和えた餅を出すのは如何でしょうか?」


信長伯父さんの希望は目新しき料理だからな…。

何か目新しいスイーツを考えないとね。預りの身になった直後と違い今は砂糖と卵、牛乳、小麦粉があるから、そこそこのスイーツ作れるし。

卵と砂糖と牛乳でプリンぽいものを作れないかなぁ…。基本蒸し料理だし出来そう。よし、聞いてみよう!


「ちなみに、新しき菓子を出すのは、如何でしょうか?砂糖と卵、牛の乳を使った蒸し料理、蒸し菓子なのですが」


って、牛の乳ってところで露骨に困った顔をなされましたね、井上殿。牛の乳を飲んだり、使ったりする御免状を信長伯父さんから自分がもらったのを知らないのか?

あ、もしかして、信長伯父さんに牛の乳入りの料理を出していいか困ったり、ビビったりしているのか…。


「料理に牛の乳を使ってよいか、この後で伯父上に確認しておきます。なので、取り次ぎを頼めますでしょうか?試作や献立にいれるかはその後にいたします」


「それが宜しいかと。あとは、気がついた点などございますかな?」


「そうですね…。一の膳が主たる膳、二の膳が魚、三の膳が肉、という感じなのですね?」


「そうでございます。なので、同盟締結の祝いに鯛の焼き物と儀式料理のあえまぜを出しております」


と、言うことはその二つと三河の名産のこのわた、大アサリは動かせないか…。


「鯛の焼き物は、確かにおめでたい席には必須って感じですものね。後は、旬の物を使いたいと思いますので、お城で手配できるものを教えていただきたく」


「尾張、三河で五月六月の旬の物といえば、魚はコチやキス、鯛やスズキにメイタガレイも良いですな。その他の魚介だと、何と言っても三河の大アサリ。他には車海老にアオリイカや蛸、サザエでございましょうか。

野菜はきゅうりや茄子、枝豆、ニラに大葉。根菜は少なくニンニク、生姜、ラッキョウなどですかな。

果物は桃に木苺、枇杷と言ったところか」


うん、なかなか良いものが揃っているとも言えるし、片寄っているとも言える。


この素材で、何をつくるか…。

柴田の屋敷でお滝さんにも相談ですな。


とりあえず、牛の乳を饗応料理に使っていいか信長伯父さんに聞いてこよっと。

前回のお話て出た饗応料理は、天正十年の安土城での家康を饗応した料理を参考に一部抜粋して作っております。


ま、安土饗応膳を参考にするため、信長と家康が面会する時期を六月にずらしたんですが。


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