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249話 お・も・て・な・し 

ども、坊丸です。


清須同盟の料理スタッフ登録された感じの坊丸です。信長伯父さん向けの新作料理の一つでも井上左膳殿に教えればおしまいだと思っていたのに、どうしてこうなった…。


ま、任じられたからにはやるしかないのが、宮仕えの悲しい性。しかも、ご機嫌がジェットコースターのように上下動する信長伯父さんの配下ですからね。できる限りのことをしませんとね。


信長伯父さんの下知を受けた後、とりあえず井上左膳殿の案内で(くりや)の方に移動。

自分は信長伯父さんの饗応をした際に入っているので、特に目新しものは無いのですが、柴田の親父殿は興味深くあたりを見渡してます。そして、この時間はまだ夕餉の準備前なのか、洗い物をする女衆が数人居るだけです。


「さて、柴田様、坊丸殿、どうぞこちらへ」


井上左膳殿に誘われて、厨の広間に着座します。


「では、失礼して」


「さて、先程、殿より松平様の饗応について下知がございました通りでございます。坊丸殿にも、宜しくご助力のほどを。柴田殿もよしなに」


「お、おぅ」

清須城の竈の様子を見ていた柴田の親父殿が答えます。

これ、絶対話し聞いてなかったやつだな。


「了解しております。して、井上殿。なんぞ、腹案がございまするか?」


「それで困っておりまする。織田家の料理頭として、それがしが大きな宴の料理を取り仕切ったのは、殿と奥方様の婚儀の宴のみにござります。

輿入れの宴の場合は、仕来りを重んじますれば、自ずと料理は決まって参ります。

先代の記録を見ても、公家の山科言継様が天文二年に当家を訪れた際の御膳くらいで、他国の領主を歓待した記録などは無く、参考に出来るものが無いのです」


「山科卿歓待の宴席を参考にすればよいではないか、左膳」


うん、親父殿。それはそうなんだけど、多分上手く流用出来ない何かの理由があるから、困ってるんだと思うんだ、坊丸は。


「柴田様。四條流の庖丁道に則った御膳に慣れた京の公家を歓待するコツは、京に無いようなその土地のもの、その季節の旬の物をお出しすることでございます。

しかし、松平殿は、西三河の主。尾張と西三河では、旬の物、土地の物に大差はございません。故に余り参考にならず、困っておりまする」


はぁ、そういう理由でしたか。

どっか出かけたら、その土地の名産や郷土料理を食べたいもんね。

まぁ、口に合うかどうかは別だけど。ほら、よく言うじゃない、名物にうまいものなしって。

でも、四條流っていう奴?に則れば、他国の領主に出しても恥ずかしくない、そこそこ格式の高い料理が成立するんじゃないの?


「不勉強にて申し訳ございませんが、その四條流の庖丁道に則った御膳を松平殿に出せば良いのでは?」


「と、思い、内々に殿に献立を見ていただきましたが、『つまらん』と仰せられ、『坊丸を補佐につけるから、何か目を引く料理、目新しき料理を加えよ』と仰せられたのです。

『美味いものを作れ』であれば、対応もできるものの、『目を引く料理』『目新しき料理』と言われると、ほとほと困り果てているが実情。

料理頭としての意地や矜持ではどうにもならず、素直に坊丸殿の意見を参考にいたしたく。よろしくお願いいたします」


はぁ、つまりは、昔ながらの基本の饗応料理を提案したけど、信長伯父さんの気まぐれのような『目新しき料理』ってオーダーに対応できないから、助けて、ドラえ…じゃなくて、坊丸殿!ってことですね。理解理解。


「以前に伯父上を饗応した料理は、柴田の家で自身が美味しいものを食べたいがゆえに手慰みに作ったものを、どうにか伯父上の前に出せるように形を整えたものにすぎませぬ。饗応膳の本流の知識がございませぬ故、まずは左膳殿の考えた献立などを教えていただきたく」


「わかり申した。先日、殿にお見せした献立の写しがございますれば、取ってまいります」


(くりや)の端にある薬箪笥のようなところから、書類の束を持ってくる井上左膳殿。


「こちらでございます」


ふむふむ、どれどれ。

本膳と二の膳三の膳をだして、その後菓子膳を出す構成ですか。豪華だね。


本膳は、ゆで蛸、あえまぜ、みつあえ、鯛の焼き物、ご飯、冷や汁。

二の膳は、鮑の水煮、鯉のナマス、ふとに、このわた、コチ汁。

三の膳は、焼き鳥、雁の豆、煮ごぼう、竹の子煮、大アサリの汁。

菓子膳は、豆飴、揚げ麩、花に昆布


うん、なんか知らない料理がたくさん。何、あえまぜって?何、ふとにって?雁はわかるけど、雁の豆って何?

なんで、お菓子のお膳に昆布があるの?揚げ麩ってお菓子なの?


安易に引き受けちゃったけど、本格的な饗応料理って、自分には無理なんじゃあ…。


どうする、坊丸。

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