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245話 永禄五年六月 小口城攻め 前段

坊丸が出てこないので、三人称です。

永禄五年六月下旬、信長は犬山城の支城である小口城を攻めた。

史実と異なり、この時間線では柴田勝家、丹羽長秀の献策を受け、兵二千による本格的な準備をした。更には、事前の情報戦で詐術を駆使した上での攻城戦である。


その詐術は、以下の如しである。


小口城を攻める数日前、滝川一益麾下の忍び達が「遅れている小牧山城築城の進捗を見るため、信長が家臣を率い、再び現場確認に赴く」という話を、意図的に犬山城の城下町に大々的に広めたのだった。


更には、丹羽長秀の力量不足で築城の様子が大幅に遅れており、信長に叱られるのを恐れた丹羽長秀が、焦って人足を掻き集めているという噂も同時に流してある。


犬山の織田信清とその家臣達は、この噂話を信じた。


楽田の攻防以降、信長に敵対している信清である。楽田城を奪い返された上に、信長が小牧山に築城を開始したことを苦々しく思っていた信清だが、その築城が予定通りに進んでいないという話は、自分に取って都合が良く、ついつい信じたくなる話であったからだ。


この話を信じた織田信清以下の犬山織田家は、信長が予想した通り、小牧山への警戒を怠ってしまうのだった。

そして、信長は其の裏で、配下の足軽たちを人足に化けさせ、小牧山城に向かわせた。当然、築城の資材に紛れさせて武器や防具も運び込んでいる。


こうした下準備を数日行った上で、信長は家老格、武将格を連れて小牧山に向かう。

小牧山の現場で築城の指揮を取り、そして今回の作戦において様々な偽装と人員、物資の手配を行っている丹羽長秀、木下秀吉は別として、信長に同行したのは森可成、柴田勝家、佐久間盛次、蜂屋頼隆、母衣衆や小姓衆などの馬廻りなどであった。

当然、其の目的は周知されており、信長麾下の諸将には幾分緊張の色が見えるが、服装は平時の小袖を着ており、きちんと偽装がなされている。


信長以下の諸将が、小牧山城の大手通りになる予定地区付近に設けられた陣屋につくと、既に鎧を着込んだ丹羽長秀、木下秀吉が待っていた。


「殿、お待ち申しておりました」

丹羽長秀がそう言って片膝をついて挨拶すると、その後ろで木下秀吉もそれに倣う。


「長秀、秀吉。ご苦労。委細、問題ないか?」


「ハッ。殿の出立の報せに合わせ、足軽衆には既に三間半の長槍と腹巻を配っております。間もなく、足軽らも準備できるかと」

と、長秀が答える。


「で、あるか。ならば、我らも急ぎ支度せねばなるまいな。五郎左、藤吉郎。儂らの鎧兜は何処か?」


「ハッ。こちらの鎧櫃に。森殿、柴田殿以下皆様から預かった鎧櫃はこちらにございます」

長秀の後ろに控えていた秀吉はすぐに立ち上がり、信長の鎧櫃の元まで歩き指し示した。そして、続いて有力家臣達のそれを指し示す。


それを受けて、信長の小姓達は、織田木瓜が描かれた鎧櫃から信長の鎧を取り出し、手早く信長に着せていく。


その様子を見て、同行の家臣達も我先にと鎧兜を身に着けていく。


そして、四半刻程後、小牧山の麓には二千余の信長軍が槍を揃え起立していた。


その様子を満足気に見た信長は、傍らに控える柴田勝家に声を掛けた。


「勝家、騎馬や鉄砲の手配はどうなっている?」


「ハッ。鉄砲及び焙烙玉は、建築資材に紛れさせて、こちらに運び込んでございます。騎馬隊については、楽田城の坂井殿に手配を依頼しました。楽田城付近で坂井殿が騎馬隊を率いて参陣する予定にございます」


「で、あるか。ならば、準備万端抜かりないな」


そう言うと、陣幕を出た信長は、配下の兵に檄を飛ばす。


「ここに揃いし、織田の勇士達よ!犬山の織田信清は、我が従兄弟であり、義理の兄弟でもある。本来なら、共に手を携え、尾張の為に働くべき人間だ。

しかし!だが、しかし!

やつは我らの城、楽田城を奪った。これは、どういうことか?そう、我らと共に歩む道を捨て、美濃斎藤の走狗となったのだ!皆の者、これを許すことができようか?

否!断じて、否だ!

今川義元を討ち、今川の脅威は去った。今は、尾張の民が一丸となって働き、強き国となっていく時なのだ。それを邪魔する織田信清は、尾張の敵だ!故に、親族の情を捨て、今から織田信清を討つ!まずは、犬山城の支城、小口城が目標ぞ!全軍、出撃!」


そう言うと、信長は兜を着け、ヒラリと自分の愛馬にまたがる。

そして、小牧山の麓から信長軍二千余が、小口城に向かい、出撃するのだった。

戦を書き始めると、調べ物が増える…。しかも、予定より長くなりがち…。

なかなかどうして、上手く行かないものです。


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