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241話 小牧山、階段と会談

ども、坊丸です。


現在、沢彦禅師、虎哉禅師、柴田の親父殿、吉田次兵衛さんと一緒に小牧山に向かって歩んでおります。


政秀寺のあたりだと、以前とそんなに変わらない感じでしたが、歩きだして数分で人足たちが石を運んだり、土を運び出したりしております。合瀬川にも、以前はほとんど見られなかった船の往来があります。


本当に土木工事が始まったんだなぁと思い、周囲を色々見ながらさらに歩くこと、少し。

小牧山の南側には長い直線の道が整備され始めており、途中から歩くのが楽になりました。

その道を歩いていくと、すぐに山裾まで到着。山裾右手に陣幕と簡易的な建物がすでに建っており、そこに人が出入りしています。


「沢彦禅師、しばしお待ちを。この陣屋に五郎左がおるはずなので、声をかけて来申す」


「殿、それがしが声をかけて来ます。殿もここでお待ちを」


そう言って、次兵衛さんが皆に一礼して陣屋の方にあるき始めると、陣幕から細面で糸目の人が出てきました。


「これはこれは、沢彦禅師、柴田殿、吉田殿。お早いお着きで」


「おお、五郎左。昨日、当家の屋敷の位置が決まったとのことで、早速参った。政秀寺に立ち寄ってからこちらに来たところ、沢彦禅師、虎哉禅師も築城の様子を見たいとのことでな。せっかくなので同道して参った」


「そうでしたか。では、こちらが虎哉禅師ですな。初めてお目にかかる。織田家家臣、丹羽五郎左長秀に御座る。以後、お見知りおきを」


「これは丁寧なご挨拶、痛み入る。虎哉宗乙と申す。美濃の快川禅師のもとで学んだ後、甲斐の岐秀禅師に師事し、恵林寺にて開悟いたしました。今は、故あって沢彦禅師のもとで学んでおります。以後、見知り置きを」


「で、虎哉禅師の後ろにいるのが、津田坊丸殿、ですな。新年の儀で、柴田殿の傍に座っている姿や奇妙丸様の小姓衆をされておるのは何度か拝見いたしましたが、ご挨拶するのは、はじめてでしたな」


「織田信行が一子にして、柴田勝家様預かりの津田坊丸でございます」


よし、完璧なタイミングで挨拶できた。そして、織田家の顔の良さを生かしたスマイルの後、ペコっと頭を下げれば、さらに完璧なはず。


「ふむ、しっかりしておられる。柴田殿から聞いている印象とは違いますな。むしろ墨俣の改修の折に、そちらの吉田殿から聞いた知恵者の話や品行方正だったお父上に似ている印象のほうが勝りますな」


えぇ~!丹羽長秀殿は、自分が知恵者で品行方正にみえるんですか!いや、参っちゃうなぁ。ハッハッハ。

うん、坊丸くん、今後も品行方正に努めるよ!フフ~ン♪っと。


「五郎左。坊丸をそう褒めるな。図に乗る。それに今は師父殿たちがいるから大人しくしておるだけよ」


えぇ~。なんか、持ち上げられたあと、落とされた感じ。

しかし、柴田の親父殿は、丹羽長秀殿に自分のことを一体どんな感じに話をしたんでしょうか?


「そう言うことにしておきましょう。さて、柴田殿の屋敷の予定地をご案内致しましょうか」


「五郎左、自ら案内せずとも良いのだが。誰ぞ、案内をつけてくれれば良い」


「柴田殿。両禅師もわざわざ足を運んで頂いておりますれば、それがしが、ご案内申しあげまする」


「「宜しくお願い致す」」


二人の禅師が頭を下げたので、それ以上は親父殿も口を挟むことがありませんでしたよ。


陣屋の側から、丹羽長秀殿の案内が始まりました。

ここが大手門、そこから北方向に真っ直ぐの階段、その両脇に家臣の屋敷と説明してもらえるわけで。

家臣の屋敷は、下の方から格の低い方々なわけで。

と、なると柴田の親父殿の屋敷、即ち、自分が住むことになる屋敷はかなり高い位置にあることになるわけで、山頂近くに住むということは、何をやるにも山の登り降りが発生するわけで…。しんどそう。


と、思ったら、もう少しだけ登ったところ、山の中腹よりやや下、まぁ、四合目あたりでしょうか。

そのあたりが柴田家が屋敷を与えられる場所と判明。

その少し上に、信長伯父さんの下屋敷を作るらしいです。


「柴田殿の屋敷はここですな。あの杭からこちらの杭まででございます。奥行きは五十間を目安にお願い致します。まぁ、屋敷兼曲輪ということになりまする。大きな木は材木として切り出しましたが、まだまだ整地は不十分。まぁ、感じはつかめると思いますので、とりあえず、後で見て回られるが宜しいかと」


「ところで、五郎左。ここまで真っ直ぐに登って来たが、これで良いのか?これだと敵に攻めてこられたとき、すぐに攻め上られそうだが…」


「ご懸念、当然かと存ずる。それがしも殿より大手門から真っ直ぐに道を作れと命じられたときは正直、本気かどうか確認してしまいました。殿としては、大手門沿いの屋敷には道沿いは塗り壁を用いて簡易的な曲輪を作るような感じにせよと仰せられました。また、この真っすぐの道も大手門近くでは広く、上に行くほど徐々に狭くせよ、とのこと。今はただの坂道ですが、階段もわざと幅や高さを変えるよう言われております。屋敷の入口のあたりは段差を低く幅も広く、屋敷の境には小刻みに段をつけよとのことでした」


ふうむ。これはあれですね。遠近法を利用して実際よりも坂道が長くみえるようにするやつだ。鶴岡八幡宮の参道とかで採用されてるやつ。参道を長く見せかけるための工夫だってどこかで見た気がする。

それに、階段を不均一にして足元に常に気を払わせる作戦ですね。普通の階段ならリズムができると楽だけど、段差の不均一な登山道って地味に疲れるんだよね。


「それに、柴田殿。そう心配なさいますな。殿の下屋敷を超えたあたりから普通の山城らしいつづら折りになり申す。では、皆様、山頂まで参りましょうか」


え?みんなで小牧山の山頂まで行くの?

と、いうことは自分もかぁ…。標高低いとは言え、子供の体に予期してなかった登山はきついんだけどなぁ…。

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