223話 幼女の爆弾(発言)、処理致します
ども、坊丸です。
お犬の方様の嫁入道具としてカルタの納入に行ったら、最後に爆弾発言をしてくれましたよ。五徳姫様が。
いや、小さいお子さんが、お父さんや近くの年上の子に憧れて、「お父さんのお嫁さんになる〜♪」とか「誰々君と結婚する〜」とか言うのは、現代社会の方では時々目にしたり、耳にしたりましたよ。
そう言うのを見たり聞いたりすると、微笑ましいなぁ、と思ったりしましたよ。平成令和の自分は。
が、ここは天使級10598号さんの演算管理する並行宇宙的な時間線とはいえ、一応、戦国時代。
大名家の女子は、政略結婚が基本で、自由恋愛で結婚相手選べない環境ですからね。
それも、五徳姫様は織田信長の娘さん、しかも、長女ですよ。
五徳姫様は、無邪気な感じで発言したんだと思いますが、下手な返答したら、自分の立場がヤバいやつですよ。
信長伯父さんが、青筋立てて、顔をヒクヒクさせてる姿が目に浮かんだわ。
それに、五徳姫様は、清須同盟にもとづいて、徳川家康の息子さん、徳川信康さんと一緒になるんですよ、自分の知ってる未来だと。
政略結婚とはいえ、清須同盟を補強するこの大切な婚姻の邪魔になるようなら、リアルに坊丸君の首が飛ぶかも。
君、邪魔なんDEATHって感じで。
さてさて、五徳姫様を傷つけずに、周りの方々も安心するような受け答えをせねば。
カルタ片付けたら、サクッと帰るだけのはずだったのになぁ…。
「ハッハッハ。五徳姫様のお言葉は、とてもありがたくも嬉しいものです。
ですが、五徳姫様の父上である信長様が、坊丸よりも何倍も素敵な婿殿をきっと見つけて下さるでしょう。
その方との婚儀の時には、この坊丸、素晴らしいカルタを五徳姫様の嫁入道具として準備致しましょう」
どうだ、無難にやんわりと断りつつ、伯父上が決めた政略結婚の方針に従うことを明確化したこの答えは!
よし、周囲の大人たちも少しホッとした顔をしている。きっと正解を答えたに違いない。
坊丸、頑張った!
「えぇ〜。五徳は坊兄ぃが良い〜」
まだ、言いますか…。困ったなぁ…。
と、お犬の方様が静かに、しかしながら凛とした声で五徳姫を諭し始めましました。
「五徳。そこまでになさい。そなたは、織田の一の姫。
そなたの婚儀については、織田の家の為になる様、兄上が取り計らうことでしょう。
そなたの望みよりも、織田の家の事が優先されるのです。
私とて、兄上がお決めになったとおり、一度も会ったことの無い佐治殿に嫁ぐのです。
五徳、そなたの婿殿は、兄上がきっと良い方を選んでくれます。だから、今のようなことを口に出してはなりませぬ。
それに、坊丸も困っているではありませんか」
「はぁい。」
そう言うと、五徳姫様は少しだけしょんぼりしたように下を向いてしまいました。
うん、あれだけしっかり諭されると、凹むよね。
場がシーンとしてしまったところで、お市の方様が口を開きました。
「でも、五徳に言葉を聞いた坊丸が、慌てた顔は見ものでしたよ。ねぇ、姉様」
「そうね。いつも、年よりも大人びて落ち着いて見える坊丸が、珍しく困惑してましたからね」
再び、二人が顔を見合わせて、笑うと、場の雰囲気が一気に良くなりました。
いやぁ~、美人の笑顔は、何物にも代えがたいね。
「それに、坊丸に嫁入道具を作らせて、それを持って嫁入とは五徳姫は、本に面白い。それでは、嫁入道具にはなりませんよね。ねぇ、お姉様」
「嫁入道具を婿殿に作らせるなんてお嫁さんの話は、聞いたことがないわね、お市」
そう言って、また、クスクス笑う二人。
あ、そこ?
いや、自分も少し気にはなったけど、それよりも大問題かつ危険なお話だったからスルーしたのに、そこを気にしますか、お犬の方様、お市の方様。
「万に一つ、億に一つ、伯父上が五徳姫様の願いを容れたとして、従兄弟同士というのは、いかがですかね。血が近いという気もします」
絶対にないとは思いますが、許されるといとこ婚になるんだよね。自分と五徳姫様だと。
「おや、いとこ同士の結婚は普通ですよ、坊丸」
しれっと、普通のことだと云うお犬の方様の言葉にちょっとビックリ。
「えっ?」
なんか、現代知識だと、血が濃くなって遺伝子疾患がふえるからいとこ婚は、非推奨なイメージだったんですが…。普通なんですかね、戦国時代は。
「坊丸様、お犬の方様が申された通り、いとこ同士の結婚は、時々見ますな。有名なところでは、足利将軍家と日野家は、何代も婚姻関係を結び、足利義尚様とその御台所様は確かにいとこ同士のはず。その父、義政様と富子様はいとこ伯父、いとこ姪の関係だったはずでございます」
お犬の方様の言葉を、実例を上げて肯定する文荷斎さん。足利義政は、応仁の乱と銀閣寺建立、東山文化で習った人だよね。
足利義尚は知らないけど…。
「そうそう、犬山の織田信清殿と我々の姉、犬山殿もいとこ婚ですよね。ね、姉様」
「お市の言う通り、そうですね。」
あ、意外とすぐ近くにいとこ婚の実例がいましたね。忘れてたよ。
「他にも、織田家中では、先日の森部の戦いで活躍して帰参が叶った前田利家殿とその奥方、まつ殿もいとこ同士にございまするな」
なんだ、いとこ婚て本当に普通に有るんだ、戦国時代。
血族関係を固める為にってイメージ何でしょうか?
「なら、五徳も坊丸兄様と…」
「五徳、先程の姉上様が申したでしょ。五徳の婿殿は、信長兄様がお決めになられるのですから、そのお話を待ちなさい」
「はぁい」
今度はお市の方様にたしなめられる五徳姫様。
愛らしい五徳姫様から、坊丸兄様のお嫁さんになる!って言ってもらえるのは嬉しいんですがね。
五徳姫様の婚儀は流石に信長伯父さんがお家の為を考えて縁組しますからね。徳川信康君と。
「時には、中村文荷斎殿。ここで見たこと聞いたことは忘れてほしい、と云う私の言葉は覚えておりますね」
「もちろんでございまする」
何を今さら、といった顔の文荷斎さん。
多分、坊丸を一族扱いで扱ったり、一緒に遊ぶことの方じゃなくて、五徳姫様の爆弾発言の方の事だよ、文荷斎さん。
「ならば、先程、五徳の言った事も忘れなさい。ここで見たこと聞いたことは、一切、他言無用。五徳の為にも、坊丸の為にもなりませぬ故。宜しいですね」
ね、やっぱり。
「はっ。この中村文荷斎、誓って他言致しませぬ」
「もちろん、坊丸もわかっておりますね」
「はっ。天地神明に誓って他言致しませぬ」
漏らしたら、自分の身が危険になるかもしれないこと、触れ歩かないっすよ、自分は。
「ならば、良し。ここにいる腰元と奇妙らは私達の方でなんとかします。坊丸、文荷斎殿。くれぐれも宜しくお願い致しますね」
「「はっ」」
カルタを納入に来ただけのはずなのになぁ。要らぬ秘密と気苦労を抱えることになっちまったよ…。
歴史好きの読者諸賢はご存知とは思いますが、足利義尚は、室町幕府の9代将軍で足利義政の息子さんです。流石に坊丸君は流石に歴史の授業で習わ無いようなマニアックな将軍の名前は知りません。
ちなみに、応仁の乱の一方の主役、足利義政の弟、足利義視の奥さんも日野家。しかも日野富子の妹さん。
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