214話 墨俣城改修作戦!八の段
坊丸は、墨俣城の現場には行かないので、途中から三人称になります。
ども、坊丸です。
尾張三山との交渉が終わり、全ての準備が整いました。
長かったぁ…。秀吉って似たようなこと本当にやったのか?凄いな。
後は、大人たちの時間。
自分は柴田の屋敷にて居残りなので、墨俣城に行く柴田の親父殿達と訓練済みの若衆たち、川並衆のところを経由して美濃土田に行く吉田次兵衛さん、尾張三山に伐採に行く文荷斎さん、福島さんと土田までの運搬を担う兵たちを順次送り出した後は、ただみんなの無事と計画成功を祈るしかありません。
頑張れ、みんな!
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作戦決行当日、午の刻。墨俣城に柴田勝家、吉田玄久、加藤清忠、そして柴田の屋敷にてリハーサルに参加した若衆たちが到着した。
柴田勝家が丹羽長秀以下の墨俣城の守備隊に挨拶をしている頃、加藤清忠が筏塀をたてるための地図や図面を見ながら現場を確認していく。
その後ろを吉田玄久と若衆たちがついて歩き、塀のための穴を掘る位置に線を引いていく。
柴田勝家が現場を見に戻った時には、穴を掘る手はずはできていた。
柴田勝家のもとに吉田玄久が歩いてきた。
「おう、権六の義兄。竹で馬防柵を組むあたりを加藤殿とともに半数の兵を率いて見てきてくれないか?その動きを囮にして、敵の監視の目を引き付けてもらっている間に、残り半数で穴を掘っておく。坊丸が農具として作った三又鍬や曲がり鋤があるからな、一刻ほど動き回ってくれればこちらは準備が整う予定だ」
「おう、ならば、軽装で良いので、準備しよう。儂についてくるものは準備をせよ」
「それと、丹羽の兵に周囲の河原から砂や小石を集めてもらうように話をしてくれ。頼んだぞ、権六兄ぃ」
そういうと、自分の指揮する兵の方に歩いていく、玄久。現代人ならスコップというであろう曲がり鋤を肩に担ぎ、指揮するだけでなく、自身も掘る気まんまんであることがわかる。
「申の刻になる前には終わらせるぞ!そして、治兵衛兄ぃが筏を持ってくるまで休むぞ、お前たち。夜半にももう一仕事、頑張らなにゃなんからな。それまでの間、一休みするために、ここは気張れよぉ!」
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前日、坊丸の手配で政秀寺にて一泊した文荷斎、福島正信以下の兵は、辰の刻には政秀寺を立ち、巳の刻には手配した木こり達と合流。尾張三山のうち、美濃側の斜面にて丸太の伐採と竹束の採集を開始していた。
「急げよ!皆の衆!未の刻には丸太を可児川の河原におろすぞ!そこで、筏をつくる!」
「ふぅむ。福島正信殿は、指揮の才もある様子。大工やきこりのみならず、いつの間にか兵どもがその身分に文句も言わずに従っておる。これは、発見だな。あとで、坊丸様に報告しておこう」
「文荷斎殿!すまんが、材木の第一陣を土田の方におろす準備ができたので、先触れとともに土田の殿様に話を通してくれると助かる!」
「わかり申した。では、先に土田城にて挨拶して、その後予定の河原にて準備を整えます。こちらの差配はお任せしてよろしいか?」
「おぅ、木こりとほとんどの大工はこちらに残すから、河原での作業をする大工数名を連れて行ってくれ。力自慢の柴田の侍・若衆は材木や竹束を運び終わったらまた戻してほしい。それで良いか?文荷斎殿」
「了解した。では、行ってまいる」
「おぅ、こちらは慣れた仕事だ。大丈夫だと思う。そっちこそ河原での杭作り、筏作りをよろしく頼むぞ!」
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午の刻、木曽川沿いの不動山の麓にある川並衆、前野家の拠点に吉田次兵衛が訪れた。
永禄三年、浮野の戦いで信長に協力した前野宗康は病死し、現在は前野宗吉、前野長康の兄弟が前野家配下の船頭たちを率いている。
浮野の戦いの頃は、まだ信長が尾張を制するとは限らなかったため、前野家のみが金で雇われた形を取っていたが、今回、信長は尾張の実質的な国主であるため、前野・蜂須賀・坪内・松原と木曽川沿いに勢力を張る川並衆のすべてが協力している。
「前野殿、蜂須賀殿。それに、坪内殿、松原殿。本日はよろしくお願いいたします」
「しかし、織田は無茶を言いおる。筏や竹束を木曽川から可児川に入って少し行ったところの河原、美濃の土田で受け取るのはいいが、夜に川を下って、筏を墨俣に運べとは…」
「大変申し訳ございません、蜂須賀殿。できれば、船に篝火をたくさん焚くのは控えていただきたく」
「さらに操船が難しくなるぞ!」
「儂は、篝火一つあれば、夜でも木曽川の上り下りは余裕だぞ。どこに何があるか、完璧に覚えておるからな」
「そうですな、坪内殿。そして、さすがの操船技術ですな、松原殿。なので、丹羽殿と佐久間盛次殿の手勢に木曽川の尾張側の川岸に所々篝火を焚いていただく予定です。ただ、犬山の周りは、犬山織田の信清殿の支配下にて、難しいとのことです。犬山付近は美濃側に篝火を川並衆の皆様にご準備いただき、そのほか川並衆の拠点周囲や必要と思われるところに篝火を焚いていただければ、宜しいかと。そのための金子はこちらに」
「やれやれ、手回しの良いことだ。織田の殿様は、月夜に少ない明りで操船をせよと仰せだ、皆の衆。だが、相応の金子をいただいている故な。各々方、川並衆の操船の腕、織田に見せてやろうぞ!」
「「「おう」」」
「宜しくお頼み申し上げる」
前野宗吉の檄にこたえる川並衆の面々をみて、吉田次兵衛はただ、頭を下げた。
今、津田坊丸の描いた絵図を基に、墨俣城改修作戦の最終準備が整ったのだった。
子:23-1時 丑:1-3時 寅:3-5時 卯:5-7時 辰:7-9時 巳:9-11時 午:11-13時 未:13-15時 申:15-17時 酉:17-19時 戌:19-21時 亥:21-23時
十二支で時刻を記載していますが、時刻はわかりやすさ重視のため、定時法にしていますので、上記を参考にイメージしてください。
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