199話 十四条、軽海の戦い。
今回は短め。どうにも切りが良いところがなかったためです。
十九条城から打って出た織田広良以下千数百は、十四条の地にて美濃の兵七千と会敵した。
森部の戦いの時と比して、美濃の兵の戦意は高く、兵力としても劣る織田軍は苦戦するのは必至であった。
戦争における重要事項は、兵力の集中運用である。古来、兵力の逐次投入は愚策であることは歴史が証明している。
地の利は斎藤龍興にあり、兵力に劣り、士気も同程度、更に兵力の逐次投入にならざるを得ない状況となっては、如何に優れた将帥がいてもかなり厳しい戦況である。
そして、第一陣を率いた織田広良は才において、斎藤龍興には勝るが、この時、美濃の兵を率いる将の一人に稲葉良通には劣った。
後に西美濃三人衆と言われる安藤守就、氏家直元、稲葉一鉄であるが、この中で稲葉良通は一番の武闘派である。
織田広良は、その才を示そう、実績を残そうとして信長到着まで凌ぐような戦いを選択し、美濃の大軍相手に繰り広げた。
しかし、稲葉一鉄にその意図を見透かされ、本陣を稲葉一鉄の叔父の稲葉又右衛門の一隊、野々村正成の一隊に強襲されてしまう。
そして、ほぼ同時に織田信長の援軍が到着したという報せを聞いた広良は、反転攻勢に打って出ようとして、前掛かりになった。
強襲する美濃の一隊と前掛かりになった織田広良の本陣は、この時、接敵。
野々村正成の奮戦により、織田広良はあっけなく討ち取られてしまうのだった。
十四条に到達した信長の本隊であったが、既に戦っている広良の軍と連携して動こうとした矢先、広良討ち死の報が信長のもとに届く。
広良討ち死の報に触れた信長は、ただ「で、あるか」とのみ答えたという。
速やかに広良が率いた兵を回収。
森可成に殿を命じ、一度、十九条城に入り、兵をまとめた。
城にて状況を確認すると、広良と犬山からの援軍の被害が甚大であったが、幸いなことに池田恒興、佐々成政以下の母衣衆、馬廻り衆にはそれほど多く被害は無かった。
十九条城の簡易的な陣で逃げてくる兵を集めている中で、軍議が行われた。
「可成、殿、ご苦労。広良は救えなかったな。墨俣の砦に帰陣するつもりである。さて、可成、勝家、長秀。敵は嵩に懸かって追撃してくるであろう。苦しい戦いになるが、三名のうち、誰かに殿を命じねばならん」
陣幕をくぐって、森可成が軍議の場に入ってきたのを見て、信長が声をかけた。
そして、三名の将のいずれかが殿の名乗りでることを促した。
「殿、恐れながら」
丹羽長秀が信長に向かい、その言葉を遮るように発言した。
「どうした、長秀。何か言いたいことがあるか」
「はっ。十九条は墨俣の砦から見ても微妙に離れ、浮いた駒になっております。ここは無理に保持せず、諦めるのも良いかと」
「で、どうする?」
丹羽長秀の言葉に少し気を悪くした様子で語気が強い感じで信長が長秀に問うた。
「十九条は焼きまする。空城の計を行い、敵が寄ったところで火を放ち、其の隙に墨俣の砦まで引いては如何でしょうか」
「長秀。ただ、墨俣の砦に引くのは、惜しく無いか?墨俣と十九条の間で待ち受け、兵を伏すのは如何でございましょうか?信長様?」
「ふむ、森殿の策、それがしも支持いたします。伏兵をおこなうのであれば、待ち受ける形になり申す。ならば、鉄砲の出番かと」
後に信長の天下統一に向けての戦いで活躍する三人の将である。
死地においても、最大の戦果を得るため、考えるのを止めてはいなかった。
そして、長秀の策をもとに可成、勝家の順に策を補強する様な改善案を出し、信長の裁可を仰ぐ。
「三名の策、面白い。ただやられて帰るだけでは面白くないものよな。
長秀、空城の計と城を焼く手配せよ。
可成。殿を務めよ。
勝家。墨俣の砦に使者を出し、伏兵と鉄砲の手配をせよ。
広良のことは悲しいが、嵩に懸かる敵の慢心をつく!行くぞ!」
十九条からの撤退戦を斎藤龍興への痛撃とするため、信長は命を発するのだった。
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