196話 家族会議?みたいなもの 其の参
ども、坊丸です。
意外なことに佐久間盛次殿は、家老格でいて良いのか悩んでいた様子でした。
佐久間家というのは、尾張に根を張る豪族なので、織田家の中でも譜代の有力家臣だから、もっと鷹揚に構えているのかと思っていたら、自分は家老として十分な働きをしているか思い悩んでいたとのこと。
家柄や先祖の功績に頼って偉ぶらず、自分でも織田の為に何ができるのか、何事か成そうとする姿勢って偉いと思う。
同じ家老格や格下の部将の方々で自分より武や内政、外交で活躍している人が多いからプレッシャーになっていたようです。
それはさておき、斎藤義龍が死んでからの美濃攻めについて三人に忠告しておかないとな。
「それはそうと、松平とは和議がまとまったのですか、親父殿?」
「陣中の話だとそうだったと思うが…。どうだったかな、義兄上」
柴田の親父殿が盛次殿の方に問いかけました。
「そうよな、儂と権六は伊保城を攻めておったが、その間に梅ケ坪に籠もるに松平と和議を結んだはずじゃ」
「おお、そうじゃった。確か、信盛のところの、ほれ、変わった名の奴。あ奴が和議の使者として出向いて和議をまとめてきたようじゃったな」
「義兄ぃ、それは、佐久間信盛殿のところの余語だろう」
「殿、成政殿が言う通り、確か余語正勝とか言う者にございますぞ」
「そうそう、権六。使者は余語正勝じゃ。しかも信長様は、和議のみならず、松平が今川を攻めるなら織田家と松平の間で不戦の同盟を結んでも良いとお考えとのことしゃぞ」
「「それは、無いな(ぞ)!」」
柴田の親父殿と成政さんがハモって否定しやがりました。
なんでだよ!松平と同盟結んでもらうんだよ、信長伯父さんに。
織田家が飛躍するのに必要なんだよ、清須同盟。
「ん?坊丸は気に入らんか?」
「いえ、伯父上が松平と結んで、美濃攻めをこれからの主軸にするのであれば、それはそれで良いのでは、と思った次第」
「しかしなぁ。織田家は信秀様の代より、三河で今川や松平と戦ってきたからな。
今川義元が死んだ今なら、三河、遠江、駿河は混乱して居るに違いない。
さすれば、三河を越して今川領の遠江まで攻め込むこともできるやもしれん。
それに、松平とは清康・広忠の代より長らく戦ってきたから、一族や友を討たれた恨みつらみもあるのだ、坊丸」
「そう、それよ、義兄ぃ。今は亡き政次・孫助の兄貴たちも小豆坂の七本槍に数えられたように三河攻めで活躍しておった。それがしも同じように七本槍と称される活躍をしたいものよ」
「しかし、親父殿。成政殿。それがしが、奇妙丸様の小姓役で昨年末に清須に呼ばれたおり、伯父上と奇妙丸様が問答をしている場面に居合わせたのですが、その際、伯父上は今後、三河攻めを主戦場とすると美濃攻めを主戦場とするか迷っておられたご様子でした。
それに、伯父上は三河攻めの際、美濃方面を担当する森可成様、丹羽長秀殿に『斎藤義龍が攻めてきたら、逆に攻め込むくらいの気持ちで準備しておけ』と言われたと親父殿に聞きました。
これらを考えるに、伯父上は三河は松平に任せ、美濃を取りに行きたいのでは、と思います」
「なぬ!そんなことを信長様は申されていたのか?なぜそれを言わん!坊丸!」
ははは。本当は清須同盟を誘導したくて将棋盤を用いて信長伯父さんに斎藤義龍死亡案件を伝えたうえで、問答を仕掛けたのは自分なんだけど、本当のことを言うと、ここにいる皆さんに何を言われるかわからないから、ひ・み・つ!ですよ。
「いや、新年の儀では伯父上は美濃攻め・三河攻めの両方の話をされておりましたので、両方をせめる旨を宣言されておりました…。てっきり、両方を攻めるのだと、その時は思っておりました。
しかし、三河攻めで松平と和議を結び、先々には同盟を結ぶのであれば…。松平を今川からの盾として、伯父上自身は美濃攻めに集中する、と言うことかと」
ていうか、そうなってもらわないと歴史が変わってきちゃうので。
この時間線を管理している天使級10598号さんは、大筋、史実通りに動かしたいみたいな感じだけど、まったく同じにはなっていない感じなので、余計なことをすると全く違う未来になる可能性は消えてないんだよね。
『信長公記』でちょっとだけ未来を知ってるボーナスを生かすには、出来るだけ史実通りになるように誘導しつつ、すこしでもいい立ち位置になるようにちょっとだけ未来を変えながら進んでいくのがポイントだと思うの。
「ふむ、これが坊丸の才か…。権六が織田の柱石にすると言っておったから、自分の武芸を叩きこむのかと思ったら、そのようではないので、不思議に思っておったが、納得だ。坊丸は武人としての才より奉行や幕僚としての才に恵まれている様子」
いや~。それほどでも…、あるんですけどね。体は子供、頭脳は大人の坊丸君ですよ。しかも、現代知識と『信長公記』の知識もありますからね。えへへ。
「ん?俺が聞いたのは、料理や変なものをつくってばかりおる織田の二代目うつけと聞いていたが…」
あ、成政さんには、そっちのイメージで伝わってましたか…。それのイメージも、まぁ、まちがっちゃあ、いなんだけどね。
美味しいものを食べたい気持ちが暴走して、いろいろ試行錯誤することもあるし。
「義兄上。坊丸には、次兵衛の兄者に武士としての心得や政の基礎を教え込んでもらい、沢彦禅師、虎哉禅師に礼節や様々な知識・知恵を教え込んでもらっておる。そして、儂が毎朝、武芸の稽古をつけておる。武人としての才がそれほどなかったとしても、儂が稽古をつけておれば、並み以上の武芸を身に着けさせることはできようよ」
え?自分、そんな英才教育ぽいのをされていたんですか?
理助達とは、なんか教育方針が違うなぁとは思っていたんですが…。
「そうよなぁ。小姓役の時に聞いたとあれば、うちの理助も同じ話を聞いておるはず。理助では、そこまで思い至らんだろうな…。
そして、そのおりの信長様が話しておったことを覚えておるのもすごいが、その後の信長様の言葉や行いから信長様が物事をどう考えておるかを推し量る才が優れておる。
信長様は指示の裏にある意図を感じろ、推し量れと言うところがある。儂らでも振り回されるのだが、坊丸はそれが得意なのやもしれんな」
いやいや、盛次さん、言い過ぎ&買いかぶりだから。
基本、信長伯父さんの意図が読めた感じに見えるのは『信長公記』の知識のおかげだから。
「親父殿、盛次殿。それがしを評価いただくのは有り難いのですが、すこしこそばゆいです。それよりは、伯父上が松平と盟約を結び、美濃攻めに集中するのであれば、近々、美濃を攻めるものと思います。それがしは、幼子にて戦場に立つことはできませぬ故、皆々様の槍働き、宜しくお願いします」
「あいわかった」
「坊丸に言われんでも、美濃で武功を挙げて見せるわ」
「ふっ。坊丸の言葉で義兄上も成政も火が付いた様子。儂も負けておられんな」
「殿、それがしもお供いたします」
うんうん、みんな、美濃攻めに前向きになってくれたようなので、結果オーライですな。
小豆坂の七本槍は、小豆坂の戦いで活躍した織田家の七名の武人のこと。
織田信光・織田信房・岡田重能・佐々政次・佐々孫介・中野一安・下方貞清の七名です。
佐々の家から2名も選ばれているのが、すごいですね。
七本槍と言うと、「賤ヶ岳の七本槍」の方が有名ですが、「小豆坂の七本槍」という先行例があったから、それに倣って顕彰したんだとおもいます。
「小豆坂の七本槍」より古い「七本槍」の事例を知っている方は、作者の活動報告のどこかにコメントつける体で教えていただけると幸いです。
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