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193話 織田信長 VS 徳川家康(松平元康) 和議の段

余語正勝は、和睦の使者として梅ケ坪城に入った。


「和睦の使者として参りました、織田家家臣、余語正勝にございます。我が家主君、織田信長は、松平家とこれ以上の戦を望んではおりませぬ。こちらが我が君からの書状でございます」


松平元康は、織田信長からの和睦についての書状を読んだ。


「信長殿からの和睦のお気持、あい分かった。なれど、こたびの戦は織田が三河に攻め入ったがゆえ。それは、どうなさる」


「我が君は、松平元康様と事を構える気は無かったとのこと。

中条や鈴木、三宅などの国人衆が今川家に再びなびきつつあるという話が聞こえてきたため、今川家の勢力を取り除くべく軍を動かした由。

尾張の東側に今川家の息のかかった勢力が居らねば矢作川を超えて攻めることはないとのことでございます」


「では、儂が今川氏真殿に忠義を尽くすがと言ったら、如何する?」


「これは、異なことを。松平元康様は、三河の主になることができうる才があると、我が君は申されていましたが、松平元康様は、わざわざ今川氏真の門前に馬をつなぎ、今までと同じように使い走りのような事をなされるのか。

ここに居る家臣達に松平のためではなく、今川家の命じる戦にて戦えと仰せられるか。

氏真に使われるが良いか、自ら立ち信長様と手を取り合って、自らの為に戦うが良いか、自明の理と思われるが」


その言葉を受け、しばし黙考する元康。その様子を見て石川家成が声をあげた。


「殿、彼の者は和議の使者にて和議を結ぶ為に言葉巧みに話しているものと思われます。

なれど、今の使者殿の言葉に、2つだけ賛同いたします。

一つは、元康様が三河の主に足る才がある事。

もう一つは、我等、三河武士は今川の為に戦うのではなく、元康様の為にこの命を使いたいと皆思っている事でございます。

なあ、そうであろう、兄者、数正、それに大久保党の方々!」


「当たり前じゃ!」

「おうよ」

「我等は氏真のためではなく元康様に忠義を誓っておる!」

「家成殿の言う通り!」


「皆のもの、一度、静まれ。

そなた達の言葉、誠に嬉しく思う。なれど、今は織田と和睦するかどうかが第一じゃ」


「信長様は、今回の和睦のみならず、元康様と同盟を結ぶことも希望しておいでです。同盟を結んだあかつきには、挙母より南、矢作川よりに東、これらの地域を攻めることはしないと申しておりました。なにとぞ、和睦とその後の同盟を宜しくお願い致します」


「あい分かった。こたびの戦を終いとする為に、和議に応じる。

書状にあった今川家と戦うのであれば、織田は松平と同盟を結びたいという事も、儂は異存はない。

ただし、正式の同盟については家老格の酒井忠次、奉行の本多重次にも諮ってからにさせていただきたい。

そして、ここに居る家臣達の期待に応え、今川を三河から追い出し、儂は三河の主になる。これで良いか、忠世、康正、家成」


「吾ら元康様のため、粉骨砕身働きます」

「元康様が、三河の主に…」

「元康様のため、今以上の働きを誓います」


大久保党、石川党の武士たちも皆、松平元康の言葉を喜び、中には滂沱の涙を流しているものも居る。


今川の下でのつらい日々を過ごした三河武士たちには、元康が自立し、その下で戦えるのは、それほどまでに嬉しいことなのであった。


そして、その様子を数度頷きながら家臣一同を見渡す松平元康。

今一度、頷いた後、余語正勝の方に向き直る。


「さて、余語殿。和睦の証とするため、近日中に今川方の城を攻めることになる。

こちらの誠意を確認してもらうため、織田からも軍監を出していただきたい。今の内容を書状にする。しばし、別室にて待たれよ」


そして、四半刻後、松平元康から和睦と将来的な同盟の可能性を引き出した余語正勝は、元康の書状を持ち、信長の本陣に戻るのだった。


「殿、ただいま帰陣致しました。松平元康殿、和議に応じる由。こちらが、その書状にございまする」


「余語、ご苦労。ふむ。和議については問題無いな。元康の奴め、、近日中に今川の城を攻めるとのことだ。証とするため、軍監を出せなどと書いてある。余語、挙母の城代にしてやる。この軍監も務めよ、良いな」


「う、承りましてござります」


と、そこに伝令が駆け込んできた。


「ご注進!柴田勝家殿、佐久間盛次殿の軍が伊保城を落としたとのこと。殿のご指示を願いたいとのことでございます」


「あい分かった。

元康に、同盟に向けてのこと、次の戦の軍監のこと、軍を引き揚げのことを書状に認める。余語、それを持って今一度、梅ケ坪の城にいけ。

他のものは、伊保城に向かうので、準備せよ。勝家達には我等も城に入る故、準備しておくよう、伝えよ」


ここに、織田信長と松平元康の間での合戦は終了した。

伊保城に入った信長は、翌日、八草の那須氏を攻め落とし、そのまま瀬戸を経由して清須城に向かうのだった。


そして、この戦のすこし後、永禄四年四月十日、松平元康は三河牛久保城を急襲し、今川家からの独立の方針を鮮明にするのであった。

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