表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

191/482

191話 織田信長 VS 徳川家康(松平元康)陸の段

「鬼柴田とは儂のことだ!」


そう言うと、柴田勝家は十字槍を本多忠勝に向けて細かく数度突く。

相手の力量を測りつつ、牽制の突きである。

しかし、細かく速い突きに対処するため、本多忠勝は槍の穂先で受け、捌くしかない。


柴田勝家の攻めに本多忠勝が守勢となっているうちに、馬廻り衆が数歩下がり、撤退準備が整う。


「勝家様、我らは下がります。御免!」


「おう!」


と、短く答える勝家。

そして、その声に合わせるかのように勝家は渾身の突きを出す。

しかし、素早く小さな横っ飛びで躱す忠勝。

だが、勝家は槍を振りつつ、槍を引くタイミングで十字槍についている枝刃、それの下側の刃を使って忠勝の右脇の下、甲冑の隙間を狙う。


とっさに右腕を上げ身をよじってそれを躱す忠勝。

流石の本多忠勝も、老練な武人の手業に驚きを隠せない。

しかし、本多忠勝も並の武人ではない。直ぐ様、態勢を整えると柴田勝家に突きかかる。

今度は勝家が枝刃を用いて忠勝の突きを受け止める。

受け止めた槍を巻き取るようにしながら跳ね上げた勝家は、バックステップで二歩、後ろに下がった。


「小僧!この場は預け置く」


「なっ!勝負はついてはいない!」


「はっ!儂の仕事は成政以下の若者を首尾よく撤退させることよ!貴様に勝つことではない!」


そう言うとは、牽制の一突きの後に身を翻し、あっという間に後退する勝家。


城門に取り残された形の本多忠勝は、天に向けて叫んだ。


「これではまるで、勝ち逃げではないかぁ~!」


「落ち着け!平八郎!とりあえず、加勢、有り難し。お主のおかげで命拾いしたわ!ほれ、悔しがってないで、殿のもとに戻ろうぞ!」


悔しがる本多忠勝の肩に手を置き、感謝の言葉をかけ、切り替えるように促す大久保忠世。


「はっ!そうでした。然らば戻りましょう」


忠世の言葉を受け、大久保党と共に元康の下に戻ろうとする本多忠勝だったが、悔しさの為か、今一度、去っていく柴田勝家の方に目線を向ける。


「もっと強くならねば、な」


そう呟くと、忠勝は大久保忠世の後ろを追いかけて、主君のもとに戻るのだった。そして、梅ケ坪の城門はしっかりと閉じられた。


「殿、成政以下の近習達を連れ戻しました。あの小僧、強い、ですな。まだあの若さで儂と互角近くの戦いをし得るとは…。

それに、煽ってみましたが、猪武者の様に誘き出されるようなことはしませなんだ」


「フッ。膂力だのみや武一辺倒の猪武者なら、釣りだしたところを討ち取れたやもしれんな。

まぁ、遠目から見るに、あの若武者や血気に逸る者共を大久保忠世が抑えた様子じゃ。戦場が見えておる将が居たのでは是非も無し。元康も善い家臣達を持ったものだ」


「なんの、次こそは目にもの見せてくれます!」


「次、があればな。しかし、お主が煽った上での撤退に他の三河の兵たちもつられなんだか…。ならば次は、麦の青田刈りでもして、おびき寄せるか…。信盛、盛次おるか?」


「「はっ!これに」」


「城から松平や三宅の将兵を誘き出す。信盛は罵詈雑言を浴びせかけ、城からわざと見えるあたりの麦畠を青田刈りしろ。それで誘き出すことができたら、そこに儂の本隊と盛次の隊にて横槍を入れる。勝家は先程、十分活躍した故な、後詰めをしろ。では、行け」


「はっ!」


陣幕より家老格の将が退出するのを見届けると、信長は呟く。


「さて、元康めが、これでどう動くか…」


そして、四半刻後、佐久間信盛の隊が城兵に罵詈雑言を浴びせた後、笑いながら麦畠を青田刈りする。城主の三宅家一党からすれば許せない暴挙であるが、松平元康は打って出ることを認めず、彼らの暴発を抑え込んだ。


三河勢が打って出ると予想して、青田刈りをする様子を少し離れたところから見つめる信長と勝家、盛次、そして、母衣衆や馬廻り衆。しかし、三河勢は城に籠もったままであった。


「くっ、打って出ることは無いか。竹千代の奴め、やはり我慢強いな。そして、家臣たちの手綱を良く御しておる」


「殿より若く、然程、戰場に出ていないゆえ、信盛殿の仕掛けに誘い出されると見ましたが、予想外ですな」


信長の呟きを聞き逃さず、自分も同意見だと述べる勝家。

その様子を見て何か指示が出るかと、近習達は少し緊張した様子であったが、信長は野営の支度を命じるのみであった。


日が傾いたところで、佐久間信盛隊に引き上げの合図を出し、梅ケ坪城からやや離れたところで野営を開始する信長軍。


篝火の中、信長とその小姓や、三人の家老格とその腹心達が集まり、明日以降の軍議が始まった。

部隊を率いる将ではないが、佐々成政と平井長康もその場に呼ばれている。


「皆のもの、本日はご苦労。まずは、佐々成政。城門での槍働き見事。今は亡き、二人の兄に勝るとも劣らん働きであった。後で褒美を取らす。

また、平井長康。弓三人衆にも負けぬ腕の冴え、敵方よりも褒められておったの。後日、褒美を取らす。良くやった。

勝家と信盛も命じたことを良くこなしてくれた。褒めて遣わす。

しかし、梅ケ坪城は厄介よな。松平が救援に入ったため、すぐには落ちそうにもない。野戦でケリをつけようと思ったが、煽っても城に籠もったままじゃ。

そこで、じゃ。明日は、川向うの寺部城や高橋村、その後に挙母の金谷城を攻める。ただし、これは梅ケ坪より松平の軍を誘き出すためのものだ。まぁ、寺部や金谷の連中が弱かったら、そのまま城を落とすがな」


信長は、梅ケ坪に籠られたままでは埒が明かないため、松平元康の軍を誘い出す作戦を取るのだった。

少しでも「面白い!」「続きが気になる」と思った方は、下の★でご評価いただけると、作品継続のモチベーションになります。

宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ