174話 信長先生の講義、はっじっまっるよ〜。
ども、坊丸です。
いま、奇妙丸様のお部屋です。何故か信長伯父さんが訪問してきたので、加増のお礼を言いました。
ついでに、小さい疑問も聞いてみるところです。
「伯父上。今川義元が死んだことで、今川家は混乱している様子。柴田の親父殿に聞くところでは、松平も岡崎城に入り、ほぼ独立状態になったとか。やはり次は、三河や駿河に攻め込むのが良いのでしょうか?」
小首をかしげて、子供の素直な疑問だから聞いたという体で聞いてみます。
って、信長伯父さん、一瞬こちらをじっと見た後、将棋盤に駒を並べ始めました。
「そうよな。弱いところを叩く。兵法の基本じゃ」
そして、滝川お桂さんと森虎丸くんは明らかに緊張感をもって信長伯父さんの言葉を傾聴している感じ。
さすがに、この二人は、主君と子供との会話だけど、自分たちの家のことに直接関係する可能性が高い話題が出ていることを感じ取ってらっしゃる。
理介と牛助くんは…。何話してんだ?って感じ。うん、もうすこしお勉強しましょうね。
そして信長伯父さんは、やっぱり三河方面に進軍したいんですね。
現状、織田家の実力と鉄砲による攻撃力があがっているので、なまじ強いだけに今川攻めに時間が取られるし、清須同盟からの美濃方面に領土拡張の流れが崩れてしまうかも…。
どうにかせねば。
「弱いところを叩く、その通りでございますな。ですが、美濃の斎藤と三河の松平、そんなに違いますか」
「違うな。美濃の斎藤義龍と竹千代、今は松平元康だったか。ともに知勇兼備の将よ。義龍の方は親父の蝮の道三程ではないが、頻りに尾張に調略を仕掛けてくる故、嫌らしさが強いな。
竹千代は、先日の大高城の兵糧運び入れ、数年前の寺部城の戦を見るに、将としての器はそこそこのある。政や謀の才についてはまだわからんがな。
まあ、当家で人質になっていた折のことを見るに、真面目で忍耐強い。政治については、それなりにこなすであろうよ。
だが、竹千代は当家と今川の人質生活が長い。それだけ離れていれば家臣との絆や結び付きが薄れているはずじゃ」
そういうと、信長伯父さんは、自分の手元に王将をその王将の真向い、中央あたりと右の方に王将に向けて金を一枚づつおきました。
あ、王将が自分で金が斎藤義龍と松平元康のつもりなんですね、きっと。
「それに家臣の質じゃな。美濃は、道三の弟、長井道利が義龍を支え、西美濃三人衆、両日比野、竹腰となかなかに人が揃っている。
竹千代には、宿老の酒井が付いておるが、譜代の石川、本多、大久保などはどれほど竹千代のもとに戻っているかわからん。
大将では互角、家臣を含めるとやや美濃のほうが手強いな」
信長伯父さんは、真向いの金のそばに銀一枚と歩を五枚、右手の金のそばのに銀一枚と少し離して歩を三枚おきました。
今の話を受けるに、真向いの金が、美濃斎藤。伯父さんから見て右手の金が三河の松平と言うことですね。
さらに伯父さん左手の方に角立てて置いて、さらに離して歩を数枚。
右手の金より更に離れたところと王将と右手の金の間に銀一枚づつ。
うんと、これは、左手の角とばらばらと置かれた歩が伊勢、銀2枚は今川氏真と水野家ってことですか?
駒を並べ終わると、フッと笑ってこちらを見ました。
「ですが、松平を降したあと、今川氏真を攻めると、武田や北条が出張ってきませんか?虎哉禅師の話では、三国で同盟を結び、後顧の憂いを断っているとか。特に今川と北条は結びつきが強いと教えて頂きました」
そう言ったあと、王将の右手、今川氏真を示す銀の後に二枚金を置いてみました。
あ、金も銀も四枚づつ使っちゃったな。後は他の大名家を表すのに飛車角使うことになるけど、これ以上は盤面広げないよね、きっと。
「なぁに、武田とて海は欲しいし、北条も昔は駿河の河東を所領にしていたものだ。最初のうちは、今川を支援するだろうが、弱って来たところに駿河の東側はくれてやるから二家で分けろといえば、欲に目がくらむに違いない」
そういうと、片膝を立てて武田と北条を示す金の駒をいじりながらクックックと嗤う信長伯父さん。
腹黒い感じの嗤いが少し怖いです。
でもね、信長伯父さん、人間は利益だけで動くとは限らないんですよ?
「信長公記」のデータを見るに、武田信玄は、弱った今川を攻め立てたみたいだから、信長伯父さんの言うように動くかもしれないけど、北条氏康はもう少し信義に厚くて、武田の今川侵攻を非難してたみたいですから、ねぇ。
利益だけで動くとか商人寄りの考え方は、古いタイプの武人とかプライドの高い人、古い結びつきを重視する方々、恨み辛みの強い人の動きを読み間違いますよ?
あ、だから信長伯父さんは謀反よくされるんですかね。松永久秀とか足利義昭とか荒木村重とか明智光秀とか。
それはさておき、そろそろ、斎藤義龍の余命が少ないことを匂わせますか。
「叔父上のご慧眼、お考え流石にござりまする。しかし、美濃の斎藤義龍が病で近々、死ぬやもしれぬとしたら、いかが致します?」
信長伯父さんの眉がピクリと動き、子供に道理を教え諭す様な雰囲気から一気に織田家当主の雰囲気を身に纏いました。
うわぁ~、織田信長、おっかねえ。
おっかないけどね。これで、釣れたぞ。
さぁて、ここからちょっとばかり、伯父上との問答、気合い入れますかね。
徳川家康の配下は、もっとすごいだろうって?
独立直後の徳川家康の配下にて名がしられるのは、酒井忠次、石川数正、米津常春くらい。
本多忠勝は元服直後の若侍、榊原康政は元服前、本多正信は一向宗寄りで腹心にはなっていない状態。
井伊直政ですって?まだ胎児ですよ。
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