169話 桶狭間の戦い 報奨の段
しばらく、間隔があいてしまい申し訳ありませんでした。
桶狭間の戦いから10日ほど後、清須城の大広間には、家臣一同が集められた。
「一同、集まってくれたこと、大儀。今川義元めが攻め寄せてきよったが、皆の尽力にて桶狭間にてきやつを討ち果たすことができた。合わせて、山口教継の離反よりこの方、今川方になっていた鳴海城、大高城、沓掛城、池鯉鮒城、重原城をとりもどすことができた。まことにめでたい」
「ははっ」
信長の言葉と間に合わせて一同が頭を下げる。
「水野家との盟約により、大高川の南は水野家に任せる。よって、大高は水野家の所領となる。奮戦してくれた皆に大高城の城主を任せること能わず申し訳ない。
しかし、水野からは梶川や水野帯刀などが、こたびの戦で我が陣に参戦してくれた故、彼らの功績分と思って欲しい。
刈谷城では岡部元信との間で一戦あったようだが、池鯉鮒城と重原城は、水野に任せることになる。我が軍の力で取り戻したのは、鳴海城と沓掛城のみであるから、致し方ないと思ってくれ」
佐久間信盛が文句を言いそうになるが、森可成が先に了解した旨告げながら、頭を下げたので、佐久間信盛は少し不満顔ではあった。
「此度の戦、戦功の第一は、沓掛城でも述べた通り、梁田政綱とする。理由も彼の地で述べた通り。梁田政綱が手の者、縁者を用いて今川軍の詳細な位置を調べてきたことで、今川義元の本陣の位置を特定できた。そのおかげで首をあげることができたと言える。個人の武も大切であるが、此度は梁田政綱の調べた情報を持って戦功の第一とする。褒美も沓掛城で話した通り、沓掛城城主の座である。励め」
「ははっ」
以前は、部将格の末席であったが、今回の城主就任で部将格の二番手の位置、丹羽長秀の隣に座する梁田政綱が平伏し、応えた。
「戦功の第二は、毛利新介。今川義元の首をあげた功績は、他に比類なし。一番槍を付けた服部小平太もそれに準ずる。毛利新介は赤母衣衆に取り立てる。服部小平太は馬廻り衆に取り立てる。合わせて、刀を授ける。両名とも、励め」
「「はっ」」
両名は信長の傍に呼ばれ、刀を一振りづつ信長より直に手渡される。
二人は、感極まったように信長を見上げ、両手で各々の刀を捧げ持つように受け取り、平伏する。
「戦功の第三は、各々の砦を守った将とする。佐久間盛重、秀敏の大叔父、佐久間信盛、梶川高秀、水野帯刀の五名。なれど、佐久間盛重、秀敏の大叔父は討ち死にしている。梶川と水野帯刀は水野家よりの客将でもある。彼らの戦功を以て、水野家の大高城、池鯉鮒城、重原城の領有を認めることとする。ゆえに、佐久間信盛、お主に鳴海城主を任せる。一族の盛重の功の一部も含める。自身の功だけでないことを肝に銘じ、励め」
「佐久間信盛、鳴海城城主の任、しかと務めます」
「で、あるか。さて、盛重の功であるが、盛重の子供らも鷲津にて討ち死にし、家には家督を継ぐことができる男はまだ乳飲み子と聞く。佐久間信盛、佐久間盛次。お主ら二人で佐久間盛重の所領を半々に治めよ。信盛、鳴海城城主は盛重の功の一部も含めると先ほど申しつけたな。で、あるから、盛重の子らはお主が後見し、しかと育てよ。良いな」
「はっ、承りました」
急に佐久間盛重の子を預かることになった信盛は、すこし驚いたのか、声が裏返りながら了承の言葉を口にした。
「秀敏の大叔父も討ち死にしておるし、子の津田秀重は津田の家を別家として立てておる。そこで、秀敏の大叔父の領地は一度、儂が預かる」
「戦功の第四は、柴田勝家。突然の出陣にも気を緩めることなく、戦備を怠らなかったこと見事。速やかに熱田に来たこと、諸将に声をかけ兵を集まりやすくしたこともまた、大儀。いままで、末森城の城代としていたが、正式に末森城の城主とする。あわせて、秀敏の大叔父の領地、中村の三郷のうち、南郷の一郷を任せる。励め」
「はっ。柴田勝家、末森城城主を務めさせていただきます。加増のこと、ありがとうございます。」
「勝家。そなたに預けた坊丸が儂に使えとよこした、焙烙玉。あれは良かった。善照寺においてある鉄砲を使うのことも思い出させてくれたわ。中村の南郷のうち、少しでよいから坊丸にも回してやれ」
「はっ。坊丸にも殿の言葉、申し伝えます」
「戦功の第五は、滝川一益。今川の本陣から攻め寄せた騎馬隊に向けて、鉄砲を撃ちかけたこと見事。そなたの指揮があったからこそ、急造の鉄砲隊でも上手く運用できた。黒母衣衆の筆頭とする。合わせて、橋本一巴亡き後、空席になっていた鉄砲の師匠を正式に任せる。励め」
「ありがたき幸せ」
「以上を以て、戦功の主要なものは終了である。此度は、国を守るための戦いであり、領地は多く得られなかった。他の者については、上げた首の数、格をみて、金子にて褒美とする。許せ」
そういうと、信長は、その背に家臣からの声を受けながら、足音を立てて大広間を退出した。
これで、桶狭間の戦い、最終話です。
滝川一益の功績は、梁田政綱と同様に情報を集めたことです。
実際には忍者を使って集めた情報ですが、三河・知多半島に縁者がいないはずの滝川一益なので、名目上違う功績で信長は説明しました。これで滝川一益は準部将格です。
そして、次回から、坊丸視点に戻ります。
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