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152話 エルカ酸の心毒性、あるいは武士としての覚悟

水曜7時に、予約投稿をしたつもりで忘れておりました。

金曜日にずらそうかな…とも思いましたが、木曜日に珍しく投稿してみることにしましたよ。

ども、坊丸です。

柴田の親父殿に何があったか質問されたんですが、本当の事は言えないので白山信仰に結びつけて誤魔化しました。

今川義元が大軍を率いて攻めてくることも白山権現のお告げとして、それとなく伝えてみました。

ま、今川との戦は信秀お爺ちゃんの頃から引き続いて行われているらしく、いつものことのようなんですが。


「白山権現様が言うには、織田の存亡をかけるような戦になるとか」


信長公記、桶狭間の戦いの回の文章を見るに今川義元本人が数万の大軍を引き連れて攻めてくるようですからね。

これくらい言っても間違いじゃないでしょ。


「織田の存亡をかける大戦か。もし白山権現のお告げが本当であれば、それこそ腕が鳴るな。そのようなことにならば、信長さまの御前でこの柴田勝家の全力の槍働きをお見せ出来よう」


いや、なんか、すんませんでした。

柴田の親父殿は、自分が思っていたよりも脳筋で戦馬鹿、生粋の武人だったようです。

柴田の親父度のことだから、戦場に出ると「ふふ、この風‥。この肌触りこそ戦争よ」とか言いながら、(わら)うんだ、きっと。


本来の時間線の記録的な書物である信長公記では、桶狭間の戦いで柴田勝家が活躍した記録ないけどな。

それどころか、永禄十一年まで一回も名前出てこないけどな。


ま、そんなことを言って柴田の親父殿のモチベーションを下げても良いことないしね。


ここはむしろ、桶狭間の戦いで柴田の親父殿が活躍できるように助言をして少しばかり歴史改変してしまうのも良いのではなかろうか。

うん、そうしよう。本人には言わないけど。


あ、そうだ。菜種油のこと、一応相談しておこう。

キャノーラ種の菜種がでてくるまでの菜種には、エルカ酸って成分の脂肪酸がたくさん入っていて高齢になると心機能障害、心不全を起こしやすくなるらしいんですって。おお、怖い。

そして、質問の途中で「信長公記」のデータ書き込みを始めたことに対する天使級10598号なりの罪滅ぼしなのか、キャノーラ種のことを進める根拠になった動物実験の話とか、エルカ酸を多く含み在来種で高齢になると心機能障害を起こす可能性があることを指摘した論文とかが参照データとしてついていたのですよ。


でも、江戸時代の人は菜種油で天麩羅とか作らなかったのかしら?

家康って鯛の天麩羅を食べ過ぎた後に腹痛を起こして亡くなったって話だよね。

って、腹痛だったら心機能障害、心筋梗塞とかじゃないじゃん。


「親父殿。ちなみに、もう一つ白山権現様はお告げをくれたのですが…」


「ふむ、もう一つのお告げとな。よし、聞こう」


「白山権現様がおっしゃられるには、菜種油は体に良くないと」


「なんと!先日、坊丸が年末に作ってくれた蛸の唐揚げとやらで、菜種油をたくさん使っていたではないか!そして、美味すぎてたくさん食べてしまったではないか!だいじょうぶかのぉ…」


とすこし不安そうな、柴田の親父殿。

ていうか、自分があんまり蛸の唐揚げ食べられなかったのは、あんたのせいなのか!親父殿よ!

まぁ、今はその話ではないので、置いておくことにして、と。


「いえ、すぐに体を害するわけでは無い様子。長年にわたり摂り続けると心の臓が徐々に不調になるとか。齢七十の頃にはかなり心の臓が弱るらしいのです」



「なんだ、すぐに体に害が出るのではないのか。して、坊丸はどう思う?」


「心の臓に悪さをするのであれば少し怖いな、と思いました」


「ん?坊丸。武士として名を上げるのはあきらめたか?坊主にでもなるのか?」


え?どうゆうこと?

柴田の親父殿、言っていることが飛躍しすぎていて、ちょっと何言ってるかわからないんですが?

そう思って、面食らっていると、柴田の親父殿の解説が始まりました。


「坊丸。お主、齢七十の頃の心の臓のことを気にするとは、それまでおめおめと生き残るつもりなのか?

武士(もののふ)であれば、常在戦場、一所懸命の心意気がなければならん。

ひとたび戦場に立てば、生きて帰れるとは限らんのだ。齢七十など、夢のまた夢よ。

信長様の好まれる幸若舞の『敦盛』の一節には、

『人間五十年 下天のうちを比ぶれば 夢幻の如くなり 一度生を享け 滅せぬもののあるべきか』とある。

武士と生きるのであれば、家のため、忠義のため、槍働きに励めば齢五十まで生きることすら難しくある。それなのに齢七十の心配をするとは、これ如何に、と言ったところじゃぞ。

齢七十まで生きたくば、武士にならず、戦場になんぞ出ず、剃髪して学僧として生を全うするが良かろう。つまりはそういうことだ、坊丸」


「はっ、親父殿。この坊丸、心得違いをしておりました。齢七十のことよりも今、目の前を全力で生き。伯父上のため、織田家のために武士として生きたく存じます」


そうだ、そうだったよ。ここは戦国時代、そして謀反人の息子とはいえ、自分は武士の子。

現代社会なら七十歳の心機能障害の発生確率上昇は避けたいけれども、ここは戦場で命を落とすことの方が多い血腥(ちなまぐさ)い世界。

天使級10598号の一言で、そんな死がすぐそばにある戦国の世に生きていることを忘れてしまうなんて、自分はどうかしていた。


「坊丸、儂とていつ戦場で死ぬるかわからん。齢七十の心の臓よりも明日の活力のため、儂は蛸の唐揚げを喰う。お主は、どうする?」


「親父殿と同じく、遥かな未来よりも明日、強く生きるため、油のことを心配するのはもうやめにいたします」


「あいわかった。坊丸、それでこそ、織田の連枝よ!我が預かり子よ!かっかっか」

まさに、破顔一笑。

柴田の親父殿は自分の答えに満足したようで、屋敷中に響くような笑い声をあげるのでした。

菜種油、エルカ酸の心毒性の話は下記を参照のこと。概要は把握できます。


https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/18/101700018/101700002/?P=2


ちなみに、家康の死因は最近の研究では、鯛の天麩羅の生ではなく、胃癌とのこと。

江戸時代はエルカ酸がたくさん入った菜種油で揚げた天麩羅を普通に食べていたようです。


誤字脱字報告機能の目的外使用ではありますが、誤字脱字報告で菜種油の危険性を指摘していただいた方のおかげでネタが拾えたり、世界観が広がりました。目的外使用に感謝多謝。


次回からは桶狭間の戦いに向けて、話を動かしていきたいと思います。

桶狭間の戦いについては、色々な意見あると思いますが、お手柔らかにお願いいたします。


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宜しくお願いします。



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