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149話 仏間にてヤツと

ども、坊丸です。

清須城での新年の儀から帰ってきたら、柴田家では信長伯父さんの今年の方針を受けて柴田の親父殿、婆上様、柴田家家宰にして柴田の親父殿の義兄の吉田次兵衛さんの三人で会議が開かれました。


呼ばなくてもいいのに、新年の儀に出席していたからと言う理由で自分も会議に呼ばれました。

預かりの身の幼子をそんな席に呼んでもしょうがないと思うんですが、ま、天使級10598号のヤツと交信するのに仏間を借りることができたので、結果オーライ。


「母上の許しもあるし、儂も良い心がけだと思う。儂も側に居たほうが良いか、坊丸?」


「親父殿、ありがたき申し出なれど、一人で父に報告致したく存じます」


「そうか。それもよかろう。今から仏間に行くか?」


「はっ、親父殿、婆上様が宜しければ、そう致したく」


「良いですよ、坊丸。信行様にご報告なさりなさい」

うんうんと頷く婆上様。

婆上様と柴田の親父殿の二人の感動ぶりに流石にちょっと心苦しくなってきた。

最初の一瞬だけでも信行パパに報告しようかな。


何故か婆上様に先導されて仏間に到着。


「坊丸。では、信行様に報告し、存分に向き合って来るが良いでしょう」


「はっ」


そして、一人、仏間に入ります。

平成令和の祖父母の家で見たものよりも二回りは大きく、よく手入れの行き届いた仏壇の前で一人、正座します。


さて、一応、信行パパに奇妙丸様の小姓役をしたことを報告。

そして、本命の天使級10598号のヤツと交信です。


『この時間線を管理する天使様、人の子をお助けください』

うん、一回目は無反応。

『この時間線を管理する偉大な天使様、人の子をお助けください』

お願い、真摯に祈っているんだから、反応して!


『助けを乞ういのりの声に応え、()は顕現せり』

良かったぁ、きちんと来てくれた!

お、そして、何時ぞやの白い部屋に移動している!


『人の子よ、この時間線で五年の時を恙無く生きた様だな。して、此度は何用だ?』


『前回、質問しましたが、津田信澄の本来の時間線でどのように生きたかは教えて頂けないのですよね?』


『前回答えた通り、それは教えられん』

ですよね、やっぱり。一応、確認しただけです。


『では、百科事典を覚えさせてもらうというのは、可能ですか?』


『可能では、ある。しかし、脳に直接大量のデータを書き込むので、幼子の体ではこの時間線で38日程機能停止になる。それといくつか身体機能に障害が高確率で出るな』

そうですか、機能停止ってのが気になるけど、一月以上動けない上に、身体に障害が残ったら、この時代だと使いものにならないと思われそう…。


『では、太田牛一が記した「信長公記」では、どうですか?』


『うむ、その本のことを調べる。しばし待て』

目の前で天使級10598号と認識している存在が回転し始めたので、ボーッと観察。

5年前も似た感じの動きを見た気がするな…。


『うむ、確認した。その書籍であれば、機能停止は9分ほどだな。身体に障害も残ることは、ほぼあるまい』


『そうですか、では「信長公記」をお願いします』


『では、データの書き込み開始と共に今回の顕現は終了するが、良いな?』


『わかりました』


『ちなみに、人の子の動き次第では無用の長物になるぞ。本来の時間線とこの時間線は異なるところが出てきている。時間が経過すればするほどその差は大きくなる。今一度聞く。「信長公記」なる書物の知識で良いのだな?』


ふっ、それは分かってますよ。

時間線SFの中で出てくるバタフライ・エフェクトでしょ。

それに何時かは能動的に歴史の書き換えをしなくちゃならないと思ってますからね。

本能寺の変で、信孝に殺されないようにしたりとか、信長伯父さんを救ったりとかね。


『分かってますよ。大丈夫。むしろ、脳に直接データを書き込むことの方が本当にできるんですか?』


『安心せよ。人の子の歴史の中でいわゆる預言者と呼ばれる者達は、皆、天使による脳へのデータの書き込みを体験しておる。さて、では、説明と同意は成った。これからデータの書き込みを開始する』


『わかりました』


『最後に一つ。キャノーラ油ができる前の菜種油は、エルカ酸と言う脂肪酸が多い。多く摂取すると高齢になった時、心機能障害が起こりやすい。気をつけよ』


『ちょっと、何それ?』


『心機能障害、即ち、心不全が増える』


『え、どういうこ…』


あ、目の前の天使級10598号の像が歪む。あ、頭の中の何かが軋む様な感じが…。

今まで白い部屋から戻る時とはかなり違うぅ。


『5年後にもし困っておれば祈りを捧げよ。真摯な祈りであれば()は応えよう。では、さらばだ』


さらばって、それどころじゃないよ。

目眩と浮遊感と頭痛と胸焼けが一度に襲ってくる感じがぁぁぁぁ。

バタフライ・エフェクトは本来は気象学の長期予報の不確実性について説明するための用語。

つまり、坊丸君は、正式には間違った使用方法をしています。


ただし、レイ・ブラッドベリの短編作品、時間SFの傑作である「雷のような音」で蝶を偶然殺した事が未来を大きく変えるプロットと気象学用語の内容とがリンクして、時間SFで過去の小さな変化で未来が大きく変わる事もバタフライ・エフェクトと言われる事があります。

まんま「バタフライエフェクト」というタイムリープ物の映画作品も有名。


「東京リベンジャーズ」も一応、時間線SFの範疇に含まれると思います。タイムリープ物だし。SF的ガジェットの浸透と拡散ですね。

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