146話 永禄三年 新年の儀 前段
ども、坊丸です。
柴田家の新年会の宴会でせっかく作ったタコの唐揚げが自分の口には2つしか入らず、悲しい感じの坊丸です。
柴田家家中の方々から奇妙丸様の小姓役を務めることを祝ってもらいました。ありがたいことです。
が、タコの唐揚げを食い尽くしたのは、話が別なわけです。あの酔っぱらい共…。
そして、翌日。
柴田の親父殿の馬上に同乗させてもらって、清須城に登城。
柴田の親父殿は大広間の方に誘導されますが、自分は奥御殿に近い部屋に案内されました。
そこには、佐久間牛助君が先に座っていました。
ペコリと頭を下げる牛助君。一瞬口を開きかけましたが、黙ってしまいました。うん、こちらから話しかけるか。
「先日以来ですな、佐久間殿。本日は宜しくお願い申し上げまする」
「こちらこそ宜しくお願い申し上げる。津田殿。それと…」
と言って、少し口籠る牛助君。
「それと…とな、いかが致された」
口籠る感じを受けて、できるだけ穏やかな感じを出すよう心がけながら声をかけてみました。
一瞬迷ったあと、決心したような感じで話し出す牛助君。
「津田殿。こたびは小姓役に佐久間家のものが二人おりまする。それにそれがしが最も幼い身。どうぞ下の名で呼んでくだされ」
あ、呼び名のことでしたか。正直、理助は理助だから、 牛助君を佐久間殿、理助は理助って呼び捨てにするか、理助殿って言おうと思ってたんですが…。
最年少とか気にしてたのね。
「ご希望とあらば、牛助殿と呼ばせていただきまする。その代わり、それがしのことも下の名でお呼びいただきたく」
「はい!」
って、牛助君、いい笑顔だな。
「ところで坊丸殿。先日ともに遊んだ投扇興は、坊丸殿の作とか。箱の絵奉書や簪を付けた女が描かれた駒、野分と言う失敗をしたとき墓場が出てくる見立て。上品とは言いませんが、独特の味のある趣き。面白き逸品ですね」
「お褒めいただき、ありがたく存じます」
投扇興の説明が上手いな、牛助君は。自分より幼いのに審美眼ていうか美術的なセンスがあるんでしょうか、牛助君。
「坊丸殿、もし出来るのであれば、それがしにも同じものを譲って下され。当然、金子は払い申す故。お願い申す」
うん、そして、牛助君は物欲に素直のご様子。
でも、あれ、文荷斎さん、加藤さん、福島さんの協力ないと作れないんだよね。
「ご希望は承りました。しかし、あの品は、幾人かの協力が必要なもの故、それがしの一存では、なんとも。後日、牛助殿のお屋敷に返答の使者を出します故、しばしお待ちいただきたく」
「そうですか、是非、良いお答えを期待しておりますぞ、坊丸殿」
そんなお話をしていると、森虎丸殿が到着&着座。
「佐久間殿、津田殿、本日は宜しくお願い申し上げる」
そう言うと、穏やかに微笑み、一礼。
「「こちらこそ宜しくお願い申し上げる、森殿」」
偶然ですが、牛助君と返答のタイミングが一致。
「それと、いつの間にか、お二方の仲がかなり近くなった様子。先日は下の名前で呼び合うことはなかったと思いますが…。いかが致された?」
「いえ、大したことではなく。先日の投扇興の話で盛り上がりっただけで」
と答えて、牛助君をチラ見。牛助君も微笑みのまま頷いて、応えます。
「そうでございましたか。それは、なにより」
自分も下の名で読んでほしいと続くのかと思いましたが、それは無しですか、虎丸君は。
最後に理助がドタドタと登場。
お、理助も、いつもよりはキリッとして見えますね。
小姓役用の正装のおかげですかね。馬子にも衣装とはこの事でしょうか。
そして最後に、信長伯父さんの小姓である長谷川橋介さんと奇妙丸が登場。
先日の配置や動きを簡単に復習した後、大広間の方に向かいます。
露払い的な感じで、森虎丸君を先頭に、奇妙丸様、理助、牛助君、自分の順で広間に入り、練習した通りの配置に着座。
後は、信長伯父さんの新年のお言葉を聞いて、家臣の挨拶を信長伯父さん、奇妙丸様が受けるのを控えて見ていればお仕舞い、のはず。
まずは、信長伯父さんの新年の挨拶のご様子。
「新年にあたり、皆々の顔を見ることができ、恙無く新年を迎えられたこと、誠に目出度い」
「新年にあたり、殿のご尊顔を拝することができ、誠に嬉しく存じ上げたてつかまつりまする。家臣一同を代表し、ご挨拶させていただきまする。明けましておめでとうございまする」
重臣筆頭の佐久間盛重殿がそう言うと、一斉に明けましておめでとうございますの発声が。
「皆の挨拶を受けられ、誠に目出度い。さて、昨年は、年明けすぐに岩倉の織田信賢を下すことができた。
これにより、我が織田弾正忠家は、尾張の大部分を支配下に納めることができた。
岩倉攻めでの皆の奮戦、誠にあっぱれであった。礼を言う。
なれど、まだ尾張には倒さねばならぬものがいる。儂が家督を継いだ後、父信秀の恩も忘れ、今川に走った山口教継の奴を降す!」




