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140話 蜂蜜は甘い罠

ども、坊丸です。

養蜂家の人が着るような服を作るため、特に顔の部分のフェイスネットの部分を作るために、蚊帳を切り刻もうとしたらめっちゃ怒られた坊丸です。

結局、蚊帳を切り取る代わりにかなり目の細かい漁網で代用して、2着分作りました。大人用を。

蜂蜜をゲットするために遠心分離機的なものも作りましたし。


これらの道具を持って加藤さんと石田村に赴きました。

稲が刈られて、田んぼに干してある様子を横目に、巣箱のところに到着。


既に名主の仁左衛門さんともう一人巣箱の近くで待っていました。


「仁左衛門さん、今日は宜しくお願いします。ちなみにこちらの方は?」


「坊丸様、水車小屋のこと、名主として感謝申し上げまする。あれを作るときは、なかなか大変でございましたが、水車小屋のおかげで小麦粉、蕎麦粉が楽に挽けるようになりました」


「それは良かった。で、そちらの方は?」


「あぁ、申し訳ございません、坊丸様。こちらに控えるは、伊蔵にございます。伊蔵は、うちの村の蜂の巣取りの名人にございます」


「伊蔵にございます。以後、お見知りおきを」

そう言うと、深々と頭を下げる伊蔵さん。


「津田坊丸です。昨年から石田村には出入りしてますから、ご存知とは思いますが」


「これはこれは、自分ごときにご丁寧に。坊丸様のことは重々存じ上げてございます。自分の田畑も坊丸様のおかげで、実りが格段に良くなりましてござります。ありがたいことでござります」

なんだろう、こんなにストレートに感謝されると自分が石田村でやってきたことに意味があったと実感できて少し嬉しい気持ちになります。



「それはさておき、巣箱から蜂蜜をいただきましょうか。加藤さん、伊蔵さん宜しくお願いします」


「坊丸様、本当にやらないと駄目でしょうか?相手は蜂ですよ。刺されたらと思うと…」


「自分は問題ございません。普段から蜂の巣を取る時は、ブンブン五月蝿い中で作業いたしますからな」


ふむふむ、加藤さんは、蜂が怖いけど

伊蔵さんはなんちゃないと。

じゃあ、伊蔵さんメインで作業してもらおうかな。


「加藤さん、伊蔵さん。こちらを着てください。蜂に刺されづらい様に工夫した服です」


「なんですか、この白い服は」

「これを着るのですか…」


「白い服のほうが刺されづらいのです。巣箱から巣枠を出す前にとりあえず着て下さい」


見慣れぬ服を訝しがりながらしぶしぶといった感じで着ていく二人。


「そう、そんな感じ。手袋をした後、袖の紐を引き絞って下さい。あ、草鞋は脱がないで。草鞋を履いたまま足袋に足を入れる感じで。その後、足首のところを引き絞って。あ、伊蔵さん、違います。足袋の一番上は、細袴の中に入れて、その上で足首の紐を縛る感じで。そう、そうです、伊蔵さん。」


ふたりとも見慣れない白い服を頑張って着ていただきました。

ズボンとかパンツて言いそうになったよ。なんて言えばいいんだって思って細袴って名前を絞り出したけど。


「最後にこの覆いのついた陣笠です。覆いをうわぎの下に入れて首周りの紐を引き絞って下さい。そうそう、その感じ」



陣笠で作ったフェイスネットを装着してもらいます。

ふたりとも、だんだん慣れてきたのか、はたまたいろいろ諦めて受け入れてくれたのか、スムーズに装着。


「お、目の前が網になっているのですか、これなら顔や目を刺されそうにならなくていい」

すぐに有用性に気づいたのは、蜂の巣取りを行っている伊蔵さん。


「眼の前の網がチカチカしてまだ慣れませね」

うん、加藤さん、慣れて。


巣箱を開けて巣枠を取り出すのを伊蔵さん、こちらに運んで来てもらうのを加藤さんにお願いしました。


加藤さんは蜂の巣を開ける作業をしなくてすむと聞いて露骨にホッとしています。

いろいろ負担をかけてごめんなさいね、加藤さん。


そんな感じで作業してもらい、巣枠4枚分は、蜂蜜が入っているご様子。

一枚は、少し蜂蜜をいただきましたが、ほとんど残してお返し。


越冬のための食料だしね、全部いただくわけにはいかないと思った次第。

残り3枚は、しっかり蜂蜜をいただきます。


仁左衛門さんが、遠心分離での蜂蜜採取機を必死の形相でハンドルを回してくれます。

名主なのにこんなに頑張ってくれる、二左衛門に感謝、多謝。


結果、3升程の蜂蜜ゲットだぜ。

そして、蜜蝋の元になる絞りかすも3枠分ゲット。

巣枠を戻してもらって、二人に戻ってもらいました。


「いやぁ、蜂の羽音が恐ろしゅうございました。しかし、確かに刺されていない。眼の前の網も最初はチカチカしましたが、蜂が眼の前を飛び始めると気になりませんでしたぞ。いやぁ、顔を刺されないとわかっていると安心ですな」

そうでしょ、加藤さん、養蜂用の衣服は、有効でしょ。


「坊丸様、これは良いものですよ。今までは、蜂の巣を見つけると、燻して蜂を遠ざけ、巣を壊してましたので、そこそこ刺されていましたが、こたびは全く刺されておりませぬぞ!是非これを譲って下され!」


伊蔵さん、刺されるの前提で蜂の巣を取ってたんだ…。それもすごいな。


「譲るのはできません」


「なんと、それは殺生な」


「ですが、今後も石田村では養蜂を続けて行きたいと思っております。わざわざ、柴田の屋敷に持ち帰るのも難儀ですから、仁左衛門さんに預けることと致したく。巣箱の管理や蜜の採取で使っていないときは、仁左衛門にご相談いただければ」

と言って、仁左衛門さんをチラ見。


「坊丸様、蜂避けの服と網陣笠、この仁左衛門、責任を持って御預りいたします。伊蔵、これからも養蜂の仕事を手伝うというのであれば、冬場に山で蜂の巣を探すときに貸し出そう。それで宜しいですか、坊丸様」


凄えよ、こちらの意図を完璧に汲んでくれたよ、仁左衛門さん。


「仁左衛門がそれで宜しければ、それがしは構いませぬ」


「ということだ、伊蔵」


「ははっ、お二方の言うとおりにいたします。ありがとうござります」


うん、養蜂が軌道に乗れば、蜂蜜ゲットのためには、蜂の巣を探さなくても良いのでは?とも思いますが、本人が喜んでるから、下手なことは言わないようにしよう。


「仁左衛門さん、今回、蜂蜜が三升ほど取れましたから、一升は、石田村にお渡しします。色々手伝ってもらったお礼です」


「そんなにいただけるので!村のものも喜びましょう!ありがとうござりまする」

仁左衛門さん、そんなに頭を下げなくても。石田村の皆さんの協力あっての農業改革&新事業ですから。


ちなみに、巣枠から外した絞りかすを煮て蜜蝋を取りましたが、なかなか臭かった。納屋の中で始めたけど、最後は納屋の外で作業してましたよ。


ともあれ、蜂蜜&蜜蝋ゲット!だぜ!



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