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135話 褒美、変更となりました

ども、坊丸です。

信長伯父さんに褒美で馬をもらえそうになったのに、牛乳飲用や使用の許可が欲しくて場の雰囲気を悪くした坊丸です。


「ふむ、希望する褒美が免状一枚、とな。話だけでも聞こうか」

お怒りモードから少し和んだ感じの口調と表情になった信長伯父さん。

興味を持っていただいたようです。よしよし。


「はっ、恐れながら。希望する免状とは、牛乳、すなわち牛の乳の飲用や使用に関する許可にございます」


「牛乳?牛の乳?そんなもの、如何する」


「はっ、さすれば、牛の乳を飲みまする。そのほか、牛の乳から作られる酪や蘇、醍醐を作り出したく考えております」


ざわつく清須城大広間。信長伯父さんは、興味深そうな表情ですが、小姓の二人は明らかにドン引きしています。右筆の明院さんは、牛乳を飲むという話を聞いたときに、記録の筆を一度止め、変わったものを見るような表情でこちらを見ました。柴田の親父殿の表情は位置的に見えないんですが、多分困った顔をしているのは確定でしょう。

佐脇さんが、「不浄な…」とかつぶやいてるのも聞こえました。


不浄ですか、そうですよね。肉食禁止の歴史が長く続いて、牛乳はいつしか不浄なもの扱いですものね。

さてさて、信長伯父さんの考えはどうですかね。まぁ、虎哉禅師にいろいろ教えてもらったことと自分で考えた屁理屈を足して、説得していくしかないですよね。


「牛の乳を不浄とお思いの方がいらっしゃるのは、仕方ございません。しかし、考えてみてください。人の子も乳飲み子の時は母の乳で育ちます。牛もそれは同じこと。生まれたての牛の子が大きくなるのに必要なものがあの乳になかに詰まっておるのです。かつて律令を定めた平城京の帝たちは税の一つとして、牛乳から作った蘇を納めさせたとのこと。仏陀も大悟を開く前に、乳粥をそのやさしさの中に悟りに至る道を見つけたとか。大般涅槃経において醍醐のたとえもございます。本来は牛の乳は滋養強壮に良く仏陀も口にしたもの。これを不浄としている今の仏法が間違っているのではないでしょうか」


「クックック、今の仏法が間違っている、か。面白い。童のくせに仏法や寺院すら批判するのもまた面白い。そして、童に論破される仏法なんぞ、絶対ではない。クックック、所詮、仏法なんぞ、その程度の価値よな。

で、だ。お主に牛乳を口にする許可を儂が出すと、儂にどんな得がある」


ん?信長伯父さん?私、虎哉禅師を説得する時は過激な発言もしましたが、今はすこしマイルドな表現にしましたよ?

もしかして、信長伯父さんが仏教という権威を低くみるきっかけを与えてしまった気もしますが…。

うん、でも、今は気にしない。


「得、でございますか…」


得、ねぇ。

損得勘定がすぐに出てくるあたり、さすが、重商主義の人、織田信長。

でも、損得勘定だけで人は動くわけではないですからね。そこんところ分かってないから、いろんな人に謀叛されたんだと思いますが。

褒美なんだから、損得勘定とは切り離したところで考えてほしいと思うの。褒美なんだし。

それはさておき、なんか答えないとな。


「牛乳から酪や蘇を作れましたら、伯父上に献上させていただきまする。それと小麦粉、砂糖にあわせて、牛乳を用いることができれば今までと異なるような味わいの菓子を作り出してみせまする」


「酪や蘇とな。(いにしえ)の帝と同じものを儂に献上するというか!面白いのぉ。

それ以外には、またしても、菓子とな。はっ、坊丸らしいわ。

よし、牛乳の件、特に差し許す。明院、今の内容で、免許状を作れ」


信長伯父さんの表情は、「得はなんだ」と言った時の怜悧にして冷徹な顔とは打って変わって、悪戯っ子のような顔になっていました。


「これで良いか、坊丸」


「ありがたき幸せ」

ここは、頭が床にめり込むくらいの平伏を見せておくべきタイミング。


「そうだ、坊丸。先月、上洛したときに持っていった琥珀糖、あれは数が作れるか?山科卿よりまた欲しいとの書状が届いたゆえにな」


え〜、あれは寒天を作らないと出来ないから、段々と暖かくなりつつある今の気温では無理ですよ。

あくまで試作品って感じの品だったわけだし。


「恐れながらお答えいたします。残念ながら、琥珀糖を新しく作ることは、できかねます」


「これ、殿の希望であるぞ、どうにかして作らぬか、坊丸」


いや、柴田の親父殿。

そうは言いましても、気温が高くなると、寒天の製作は無理なんですよ?


「改めまして、恐れながら。琥珀糖を作るにつき必須になる寒天、これを作るのに寒さが必要になるのでございます。

ところてんを寒晒しして、海藻くささを取った物が寒天でございますれば、寒さがあってはじめて作れるものなのでございます」


「ふむ、暖かくなるようになっては新しく寒天は作り得ないということだな。故に、琥珀糖は作り得ない、と」


「いかにも、そのとおりでござります。伯父上」


「新しいものは無理として、今少し残っていないのか、寒天は?」


「残念ながら、琥珀糖の完成品を作るまでの試作にて、ほぼ使い切っておりますので…」


「で、あるか。ならば、山科卿には断りの手紙を出しておく。ちなみに、先程言っておった牛乳と小麦粉、砂糖などを使った菓子、それは京の公家どもの心を掴めるか?琥珀糖と同じように」


「はっ、公家の心を掴めるかどうかはわかりませんが、南蛮菓子に負けず劣らずの味と珍しさは出せるかと」


まぁ、作ろうとしてるのはクッキーやクレープなど南蛮菓子そのものですからね、ハハハ。


「で、あるか。ならば、その菓子ができたら知らせよ。舌や胃の腑を掴むことで、公家どもと縁を広げるのも、まぁ、良いかもしれぬ。良き物ができたら、馬を褒美にやろう。坊丸は、こたびの褒美は牛乳の免状だけで良いようであるからな」


あ、馬は次回の褒美になったんですね。

まぁ、良いけど。


しかし、また、食料改革で新作のお菓子作りが実質、仕事で課題になっちゃったなぁ…。トホホ。

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