134話 紙切れ一枚の褒美、所望いたします
ども、坊丸です。
石田村で養蜂の準備をしている坊丸です。
石田村の人々と文荷斎さんも意外と協力いただいてます。ありがたいことです。
さて、明日も石田村に行って菜の花が種をつけたかとニホンミツバチが分蜂してくれそうかを見に行こうと思っていたところ、柴田の親父殿が夕食時に「殿がお呼びだから、明日一緒に清洲城に登城するぞ」とのお話が。
ん?信長伯父さんに呼び出されるようなことありましたっけ?
焙烙玉はきちんと言われた通りの数作って納めたし、パンケーキは牛乳使用の許可をもらってから「完全版」で提供するつもりだったんですけど…。
また、柴田の親父殿が思わず美味しかったって言っちゃったやつかな?
養蜂や製油産業はまだまだ形にもなってないから報告できないし。文荷斎さん、先走って報告したんか?
あ、きな粉飴や柚子風味飴、琥珀糖の製造方法のことかなぁ。
あれ?
意外と思い当たる点が多いぞ。う~ん、どれだ。
はい、そんなわけで、翌日、清洲城に柴田の親父殿と登城です。
いままでは、誰かの馬に二人乗りで登城でしたが、今回は自分で手綱を捌いて登城です。
清洲城に着いたところで、馬丁の人に馬を預けるわけです。今までなら、柴田の親父殿と一緒に登城するときは、親父殿に乗せてもらっていたので、柴田の親父殿が一度降りた後、降ろしてもらって、その後に馬を預ける流れだったわけですが、今回は自分一人で颯爽と下馬して手綱を馬丁の人に渡します。
本当に颯爽と降りたのかって?自分の中ではそうなっています。周りから見たらどうかは知らんけど。
で、小姓の人たちに取り次ぎしてもらって、清洲城の大広間の脇、控えの間に到着。
信長伯父さんは本日面談多数らしく、しばらく待つことに。
「親父殿、本日の呼び出しについては何かご存じですか?」
「焙烙玉のことと聞いておる。あれは使いようによっては鉄砲よりも効き目のある武器じゃ。ただ、今までの武士としての槍や弓、刀の修練は何だったのかということになる故、心の底では好かんとも思っておる。ただ、殿は別じゃろうな。殿は効率的なものがおこのみじゃからな」
ですよね~。
ちなみに、焙烙玉を大砲レベルの鉄砲に入れて曲射で飛ばすアイデアもあるんですが、すぐには出さないほうがいいかな、これ。
でも、織田信長なら自分で思いついちゃいそう。ハハハ。
そうこうしているうちに、順番となりました。
清洲城の大広間上座に信長伯父さんが中央に座り、その両脇に長谷川さん、佐脇さんの有能かつお気に入りの小姓のお二人。
端の方に右筆の明院さんが座ってます。むかしは、中村文荷斎さんも信行パパの傍でこんな感じで仕事してたのかもね。
「末森城城代 柴田勝家殿、柴田殿預かり 津田坊丸殿、参られました」
「本日はお呼びにより、津田坊丸めを連れてまいりました。殿に置かれましてはご機嫌…」
「勝家、機嫌伺の文言など無用じゃ。さて、両名に用件を伝える。勝家、岩倉攻めでの大将格での参戦、大儀。犬山近辺をのぞく上四郡は当面直轄といたす故、すぐの加増は無理であるが、金子と馬を褒美とする。後々の加増の際に考慮する故、許せ。
坊丸、焙烙玉の城攻めまでの納入、大儀。期間の無いなか、よくぞ間に合わせた。岩倉城は平城で城の構造も単純であったゆえ、城門での戦闘に大変有効であった。以上二点、あわせて褒めて遣わす」
「はっ、ありがたき幸せ」
「はっ、おほめにあずかり恐悦至極にございまする」
「で、だ。勝家、坊丸。城内の早合の製作場所の一部を焙烙玉の製作場所といたす故、焙烙玉の作り方を詳しく記したものを提出せよ。文荷斎も使って構わん。あれは城攻め、城の防御などの時に活用すれば、戦の在り様すら変わるかもしれぬものだ。お主らも他家に漏れぬよう十分注意するように申し伝える」
「「はっ、承りましてございます」」
「坊丸、瀬戸内の方で使われる焙烙玉を当家にて使えるようにしたこと、誠に大儀。ついてはなにか褒美を取らせる。希望はあるか」
「希望であれば…」
「殿、本日、坊丸殿はご自身の騎馬にて登城した旨、馬丁より伝わっております。馬などはいかがでしょうか?」
小姓の長谷川さん、気を回してくれたんでしょうが、「小さな親切、大きなお世話」ってやつです。
牛乳の使用許可の免状の話を切り出しにくくなっちゃうじゃないですか!
「ほう、料理に甘味に鉄砲・焙烙玉と工夫にたける坊丸が、普通の武家の子息と同じように馬の鍛錬をしたか、面白い。よし、坊丸にも馬を褒美とするか」
「ありがたき幸せ。なれど、希望であれば、別にございますので…」
自分の発言に、片眉を上げて、表情を強張せる信長伯父さん。さすが、織田信長、こぇぇぇ。
でも、ここで引き下がるわけにはいかないのです。
牛乳、生クリーム、チーズやバターのために。
そう、ひいては、洋菓子作りの為に。
主君の決めた褒美以外が欲しい何て言うわけですから、当然、場の雰囲気も悪くなり、柴田の親父殿から叱責が。
「これ、坊丸。殿から『馬を褒美とする』と言っていただいたのだ、それで満足せよ」
「は、馬を褒美とすると言う、伯父上にお言葉、それはありがたき幸せにございまする。
なれども、それがしの希望する褒美は、単なる免状にございます。
ものでも、金子でも、扶持でもございません。ただ一枚の免状にて、それがしの希望の事につき、殿からのお許しをいただきたく」
そういって、畳に額をこすりつける仕草を取ります。
頼む、話だけでも聞いてくれ。免状一枚という、出費しなさそうな褒美の話に食いついてくれ。
滝川一益が、武田討伐の褒美に茶器を所望したけど上野国一国を与えられたって逸話は聞いたことあるけど…。
金がかからなそうな褒美を希望って言ってるんだから、経済的じゃないですか、信長伯父さん。
あるいは甥っ子の欲の無い言動に好奇心を持ってください、信長伯父さん。
「ふむ。希望する褒美が免状一枚とな。話だけでも聞こうか」
よっしゃー!話だけでも聞いてくれればこっちのもんですよ。きっと説得して見せるぜ!




