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132話 パンケーキ、拌憩嬉。

ども、坊丸です。

牛乳を色んな料理に使いたいと言う欲求のために、牛乳が不浄として忌み嫌うのは仏教的に間違いだと言う意見をでっち上げました。

たぶん、へそ曲がりが信条の虎哉禅師以外だったら、マジギレされてたかも。


虎哉禅師と牛乳についての宗教的問答を熱くしたから、のどが渇きました。

うん、ちょうど良いくらいに温くなった挽き茶が美味いっす。


「お、お二人の禅問答というか、牛乳問答というかは終わられましたか。しかし、坊丸様も物好きですなぁ。そこまで牛の乳に拘る理由がわかりかねますが。しかも、殿からいただく次の褒美を牛乳を呑んだり使ったりする免状とは…」


文荷斎さん、そんなことを思いながら、二人の問答を聞いてたんですね。


「牛乳は、薬として認識されておりましたから。最近、半井家に下賜されたという医心方には『乳は全身の衰弱を補い、通じを良くし皮膚を滑らかにし美しくする』とあると聞き及んでおります。坊丸殿が牛乳に拘るのは、こう言った健康面に良いことを何故か知っていたのやも。ただ、『牛乳を服するときは必ず一、二度煮沸し、冷えてから飲むべし』とも記されていたらしいですぞ」


あ、搾った生乳にはどうしても雑菌が含まれるから煮沸しろってこの時代から言ってるんですね。現代だと、殺菌しない牛乳は流通できないんですよね。


とある牧場でいただいた中温長時間のパスツリゼーションにこだわったパスチュライズド牛乳は普通の牛乳とすこし風味が違って美味しかった気がします。


牧場って雰囲気で美味しかった可能性も否定はしませんが。


「虎哉禅師の言う通り、牛乳を飲んだり用いる時は、加熱処理してからにします。御教示いただきありがとうございました」


有用な情報には素直に頭を下げます。師匠に、頭を下げるのはあたり前のことだし。


「それはさておき、坊丸様。この菓子と挽き茶の組み合わせは絶妙ですな。砂糖を使った菓子の甘味と挽き茶の独特の苦味の組み合わせが実に良い。甘味を苦味が消して口をさっぱりさせ、苦味を減らしたくてつい、また甘い菓子を食べてしまう。」


ふむふむ。この時代の人の味覚でも抹茶&甘味はやはりベストマッチと。


茶道でも、抹茶と一緒に干菓子生菓子をいただきますもんね。千利休とか美味しいお菓子と一緒に抹茶出してそう。


ま、実際に飲んでいるのは、挽き茶なんで抹茶の一歩手前な感じなんですが。


そうだ、平成令和で流行っていたような抹茶を練り込んだお菓子を作ったらどうかな。この時代の人の味覚でも流行る気がする。


うん、胸の奥のメモに残しておいて、と。

とりあえずは、養蜂と菜種油の方が優先だからね。


「そう言えば、この菓子の名前はなんと言うのですか、坊丸様」


うん、良い質問ですね、文荷斎さん。

ま、牛乳の変わりに水を使用したなんちゃってパンケーキなんですがね。


「パンケーキですね。ええっと、攪拌の拌、憩いの憇、食べると嬉しいので嬉、拌憩嬉でハンケイキ。混ぜて作るので攪拌の拌、食べると素晴らしい憩いをあたえてくれて嬉しいから、憩と嬉」


うん、無理矢理の当て字。

ソースが素酢になったのよりは良いんじゃないでしょうか。


「ふむ、拌憩嬉とな」

「作り方と美味しい感じから来ているのでござりますか」


二人とも名前に違和感があるのか、微妙な面持ち。

仕方ないじゃん、無理矢理当て字なんだからさ。カタカナのパンケーキで納得してくれるなら、それで通すんだけどさぁ。


仕方ない、話題を変えよう。


「虎哉禅師、今度、菜種を搾って油が取れるかやってみるんですが、どうおもいますでしょうか?」


一応、製油事業についても相談しておくのも兼ねての話題転換。。

それに、信長伯父上に報告するとき、知恵を借りるかもしれないし。


「ふむ、菜種を搾るわけですな。油と言えば、大山崎油座の荏胡麻を搾ったものとばかり思い込んでいましたが、菜種でもできるのですかな?」


できますよ!きっと。

セイヨウアブラナを搾った菜種油は、平成令和ではめっちゃ使ってたんですから。


キャノーラ油が菜種のキャノーラ種から搾った油だと知るまでは、なんか別の種類の油だと思い込んでいたのは秘密だ。


あ、セイヨウアブラナってまだ、国内に無いか。うーん。油の収量や効率悪くなるかも。


それはさておき、虎哉禅師に答えないとね。


「菜種も搾れば油がでると思います。菜種から油が取れれば、その、大山崎とかの油座関連の商人の言い値で買わなくてよくなるので、油を使った産業や食べ物が色々できると思うんです。火縄銃の手入れとかに油を惜しまなくてすむようになるし、料理にも使えて美味しいものがもっと作れるかと」


火縄銃関連は信長伯父さんの説得用ね。


本音は、天婦羅食べたい。フライを食べたい。


パン粉がなくてもアラレや砕いた素麺を衣にした揚げ物とかなら行けるはず。


「ふむ、菜種から油が取れたとして、後は大山崎の油座との関係ですな。確かに幕府にそれなりの権益を認められていたはず。応仁の乱で幕府の威光がかなり弱くなったとはいえ、坊丸様があまり派手に油の商いをすれば潰されますぞ」


「そうですか…。伯父上の肝煎りの政策として進めれば如何でしょう?」


「信長様は、今や尾張の大半を領しておりますれば、信長様の公認となればまた話は別でしょうな」


これは、鉄砲に必要と言って信長伯父さんを焚き付けて製油産業を立ち上げるか…。


大事になりそうだな…。こういうときは…。

中村文荷斎さんの方を、ちらっと見。


「坊丸様、そんな目で見られても困ります。製油についても農業改革の一貫として殿に報告書は出しますが、製油を織田の政策として行っていく様にするべきと殿に具申するのは、坊丸様にお願いしたいところ」


あ、農業改革の報告って、昨年秋で終了じゃなかったんですか。


そうですか。だから、養蜂をしようと石田村に行った時、文荷斎さんがなぜ連絡してくれないんだと困った感じで現れたんですね。


あの時は、なんで来たんだこの人とか思ってすいませんでした。


仕方ない、信長伯父さんに呼ばれたときに報告して、どうにか大山崎の油座に潰されないように織田家の政策にしてもらうようにお願いしますよ、はぁ。

大山崎の油座は、岩清水八幡宮の灯明用の油を作っていた神社関連の人達が座を結成したものです。足利将軍家に接近して、幕府の庇護のもと、室町時代は近畿地方から東海、中国地方まで油の独占販売に近い状態を作っていました。

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